第3部 杜王町 その後の物語
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「億泰、おかえり〜!ねぇ、お鍋作るの手伝ってくれない?」
夕方5時頃に鳴った家のチャイムに出ると、訪問者は昼にトラサルディで別れた億泰だった。まさかとは思うがあの男だったら嫌だな、と思ったので内心安心した。ついでに外をチラリと見回したが男の姿は玄関方面には無いようだ。
例のストーカーの男は、典明も今は放っておくのがいいと判断したので警戒だけする事にした。子供達には心配をかけないよう、私達3人で秘密裏に解決するつもりでいる。
「今日は鍋かァ。鍋は家庭ごとの違いが出るからな。楽しみだぜェ。」
「億泰…いい主夫になりそうだね。」
お父さんの食事を用意してきただろうから申し訳ないが、今はまさかの露伴がゲームに参戦してしまっているので、料理中の話し相手がほしかったのだ。
「億泰、今日は食後のデザートに、アイス買ってきたからね!大きいやつ!」
「まじかよなまえちゃん…!最高だぜェ!」
億泰が甘党で、特にアイスが好きだと聞いて用意しておいたのだ。見かけによらずかわいらしい食の好みである。鍋を食べて温まった体で食べるアイスは、さぞ美味しいだろう。
「あ。ねぇ、変な事聞いていい?」
変な事?と億泰は腕を組んで首を傾げた。なかなか聞く機会がなくてタイミングを逃していたが、ずっと聞きたかった事があるのだ。
「億泰は、承太郎と私、どっち派?どっちかにつかなきゃいけない時、どっちにつく?」
「うーん…承太郎さんかなぁ……。」
億泰は一瞬悩む素振りを見せたが、意外にも即答で承太郎の名前を上げた。そう、だよね…。男の子から見た承太郎って、かっこいいもんね…!と自分を納得させる言葉を胸の中で唱えていたら「けど、承太郎さんよりは花京院さんだな。優しいし、頭も良いしよ。」と億泰が言葉を続けた。
「億泰…ッ!」
バカだけど、よく分かってる…!バカだけど!
「典明派なら、大丈夫。私も、典明派なの…!」
「?いや、それは知ってっけどよ。」
なんの話だったんだ?と最後まで首を傾げている億泰がかわいい。とにかくかわいい。億泰の食後のデザートには特別に、朝に食べようと思って買ってきたイチゴも付けてあげよう。
「はぁ〜〜。食った食った。美味かったッス、なまえさん。」
食後にキチンと感想を伝えてくれる仗助に「億泰にも言ってあげて。手伝ってもらったの。」と言うとみんな驚いて億泰を見た。味を整えてくれたのは億泰なのだ。美味しかったのなら、それはきっと億泰のおかげだ。初流乃も「億泰さん…意外と家庭的なんですね。」と褒めつつも驚いているのが微笑ましい。
「はい、デザート。」
全員分のアイスを器によそって各々の前に出すと、億泰のアイスにイチゴが乗っているのに目敏く気づいた仗助が「なんで億泰のだけ?」と不満そうな声を漏らした。
「億泰は、典明派らしいから。」
「…僕?」
なんの話?と首を傾げる典明がかわいくて、思わずキュンとする。説明が足りなかったので「承太郎派か私派か、って聞いたら典明派だって言うから。」と端折りつつも説明すると、みんな納得したようだった。
「なまえさん。僕も、なまえさんと花京院さん派です。」
初流乃が真面目な顔で挙手して宣言するので、思わず考える。確かに、初流乃はどう見ても承太郎派ではない。私と、典明によく懐いている。
「なまえさん。僕もだ。」
初流乃に便乗するように挙手をする露伴も、真面目な顔で主張しているので冷蔵庫からイチゴのパックを取り出して「よし、2人ともいい子だね。」とお皿に2個ずつ入れてあげて、ついでに典明のお皿にも入れておいた。
「あとは仗助だけだけど、どうする?」
悪い笑みで仗助に聞くと、彼は少し悩んだあと「俺も、花京院さん派に入れてください!」と頭を下げた。なんだか大袈裟なやりとりである。
「簡単には抜けられないから、覚悟しといてね。」
イチゴを皿に入れながらそう忠告すると「ゲ…。」ととても嫌そうな顔を見せたがそれ以上何も言うことはなかった。これでここにいる全員、典明派という事になった。残念だったな、承太郎!
「おやすみ、初流乃。」
「はい。おやすみなさい、なまえさん。」
順番にお風呂に入って、また少しゲームして、初流乃はもう寝る時間だ。お互い頬にキスをして、私は部屋をあとにした。明日には2人とも帰ってしまうので少し残念そうだが、わがままを言わず、いい子だ。
廊下の電気を消しながらゲーム部屋へ戻ると、露伴と仗助が2人で対戦をしているところだった。意外な組み合わせだが、どうせ露伴が仗助を煽ったのだろうと予想を立てると、典明曰くその通りらしい。本当に大人げない。しかも、典明は小声で「ヘブンズ・ドアでドーピングもしてる。」と言うので仗助が可哀想になった。道理で、普段ゲームをやらないはずなのに上手いわけだ。
「っだぁぁあ!!負けた!!」
案の定仗助は負けてしまって、コントローラーを放り投げた。露伴はそんな仗助相手にニヤニヤとゲスい笑顔を見せている。…もしや、何か賭けていたりはしないだろうな?
「露伴…。」
じとーっと露伴を見つめていたら向こうも、なんだよ、と睨み返してきたが視線は逸らさずに見つめ続けた。しばらく睨み合っていたらやがて「分かったよ!仗助、なまえさんに感謝するんだな!」と。やはり、何かを賭けていたようで、それも賭けていたのはお金だったらしく、ホッとした。信じられない。本当に、露伴は典明を見習った方がいい。
「なまえさん、俺と勝負して下さいよ。俺、欲しい靴あるんスよ。」
「……。」
仗助も仗助で懲りない奴だな…と、思わずため息がでた。せっかく今、仗助の負け分をナシにしてあげたというのに、今度は私をターゲットにしてくるなんて。
「別にいいけど…。ゲームは私が決めていいんだよね?」「もちろんス!」
仗助は嬉しそうに返事をするが、私をカモろうなんて10年早い。「じゃあコレで。」と提示したのはテトリス。典明のようにゲームならなんでもできるわけではないが、テトリスのような単純なパズルゲームなら子供の時にやっていた事があり、なんなら典明といい勝負になるくらいには上手いと自負している。
単純なゲームだからと舐めている仗助には、テトリスの本当の凄さを見せてやろう。
「えっ待って、なまえさん!速ッ…!」
カチャカチャ、カチカチと、およそテトリスをやっているとは思えない音が絶えず部屋に響き、すぐに決着がつく。もちろん私の圧勝である。
「残念だったねぇ、仗助。他のゲームなら勝てたのに。」
私をカモにしようとさえしなければ、ここまではしなかったのに。私達の様子を見ていた典明はため息をひとつついて「全く…。容赦ないな、なまえ。」と立ち上がり、仗助の中へ入った。これは、もしかして。
「仗助の代わりに、僕が君に勝負を挑むよ。いいよね、なまえ?」
仗助の代わり、と言ってはいるが、久しぶりに私と対戦したいのだろうと思う。金曜日からずっと、手加減してゲームをしていただろうから。それが分かって、私はとても嬉しくなって「うん、いいよ。」と承諾して典明を抱きしめた。もう精神的には27歳のはずなのに、いつまで経ってもかわいい人。
「……。」
お互い無言でコントローラーを持ち、もう軽く30分は経っている。正座した足の感覚はないし、胡座をかいた典明も同じだろう。最初はすごいすごいと騒がしかったギャラリーも、もう飽きてしまっているのが分かる。
「いつまでやってるんだ、2人とも。」
「…典明となら、永遠にやっててもいいかも。」
露伴の呆れたように発された言葉に、よく考えもせず返答をしたが…案外、この状況は楽しいものである。私と典明が互角に張り合えるのは、テトリスぐらいなものなのだ。
「…僕はやだな…。確かに楽しいけど、これじゃあ、君の顔が見られないからな。」
「!…あっ!」
あまりにも寂しげな声で典明がそう口にするので、思わず集中が途切れて手元が狂ってしまった。チャンスだとばかりに典明は攻撃をしてくるので、私の方の画面は半分ほど埋まってしまった。
「典明!色仕掛けはなしだよ!もう!」
「はは。本心なんだけどなぁ。」
典明は少しも動揺する素振りはない。それが悔しくて足で彼にちょっかいをかけてやろうかとも思ったが、典明のダメージは私に返ってくるのを思い出してやめた。今痺れているであろう足は、恐らく典明が仗助の体から出た瞬間に彼のダメージも乗ってくるのだ。
丁寧に丁寧にブロックを積んで消していったが、典明は待ってくれるはずもなくあっという間に画面は白黒になった。ま、負けた…!
「やっぱり典明には勝てないなぁ…。好き。」
「ちょっと、どさくさに紛れて告白しないでくださいよ。」
コントローラーを置くと既に典明は仗助の体から出たらしく、仗助の呆れた声が聞こえてきた。少しすると段々と血が巡ってきて…少し動いただけで猛烈な痛みが足に走って、仗助と2人、呻き声を上げてその場に蹲った。
「て、典明っ…!あ、あし…!マッサージして…!」
「はは。おいで、なまえ。」
動けない私を、典明はゆっくりと抱き上げてソファに座らせた。繊細なガラス細工を取り扱っているかのように優しくゆっくりと扱われて、典明の王子様っぷりに思わずドキドキした。テトリスにも負けて足も痺れているが、それを上回るかっこよさだ。
「ふ…ドキドキしてる。」
「!…当たり前でしょ?」
ドキドキしているのがバレた。ふ、と笑う典明の顔はとても美しいので、きゅ、と心臓が掴まれたが、これも典明にはバレているのだろう。
「なまえさん、靴、買ってくれるんスよね!?」
私達が密かにイチャイチャしているとは知らず、仗助は必死の形相で私に尋ねてくるのでそちらを見ると、露伴と億泰に無理やり足を伸ばされていてゾッとした。先に典明を取っておいて良かった…。
「靴ね。いいよ。私は典明とテトリスできただけで楽しかったから。いつ買いに行く?」
「……嬉しーけど…なんか、俺だけダサくねぇか?」
仗助にそう聞かれた億泰は少し首を傾げて考えたのち「そうだな。」と容赦ない返答をしていた。彼のストレートな物言いは、とても気持ちが良くて好感が持てる。というよりも、典明がたまに辛辣な言葉を吐くさまを見て好感を持つようになったのだが。
「もう治ったよ。ありがとう。私の王子様。」
「!…みんなの前でそれを言われるのは、少し恥ずかしいな。」
それ、とは、典明を王子様と呼んだ事だろうが、私の中では典明は王子様で、変わらない事実なのだ。
腰に腕を絡めると典明は言葉通り、少し照れた表情を浮かべていてとてもかわいい。