第3部 杜王町 その後の物語
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億泰オススメのトラサルディで昼食を食べて元気になった露伴は「帰ったら描きたいものがたくさんある!」と1度家に帰るという億泰の見送りもそこそこにさっさと歩き出していってしまった。大人だし1人でいいだろうと思っていたら「何してるんだ。君も来るんだよ!」と腕を掴まれてグイグイ引っ張られて足が縺れた。こうなった露伴はめんどくさい。
「先に帰ってるね、典明。」
全員小走りで帰る必要はない。仗助と初流乃を連れた典明もそのつもりのようで「うん、気をつけて。」と笑顔で手を振った。その姿は正しく王子様で、「ま、待って露伴!典明が!王子様!」と慌てて引き止めたのだが「大丈夫だ。いつでも見れるだろう。」と足を止めてはくれなかった。典明はいつだって王子様だが、今の典明は今しか見られないのだ!どんどん、笑顔で手を振る典明の姿は小さくなって、やがて角を曲がった事で見えなくなった。くそぉ…あとで…記憶を見返してやる…!と心に誓った。
「ん?誰だ、アイツは。」
もうすぐ家かという時、露伴が足を止めて家を指さすので露伴の肩越しに覗いてみたら、確かに岸辺邸をそーっと覗き込む男が1人。とても怪しい。
「露伴のファンじゃないの?」
「さぁな。ファンだとしても迷惑だ。おい。そこで何してる。僕になにか用か?」
怪しい男に怯みもせず露伴がストレートに声をかけると、その男はビクッと肩を跳ねさせた。ゆっくりと振り返った男は、30代くらいだろうか?少なくとも承太郎よりも年上に見えた男は「あ、いや…別に用は…。」と焦った様子で口ごもっているので余計に怪しさが増した。
「ヘブンズ・ドア!」
「ちょっと露伴!」
露伴はスタンド使いでもない一般人相手に、容赦なくヘブンズ・ドアを使用した。が、元々こういう奴だった。「どうせ話しても答えないだろう、コイツは。読んだ方が早い。」と躊躇なくページを捲る露伴に、思わずため息がでた。本当にせっかちな男だ。
「おい…コイツ、僕のファンじゃないぞ。君のファンだ。」
「えっ?私、メディアには顔出ししてないけど…。」
というより、私のファンが、なぜ露伴の家に?何がどういう事なのか分からないので露伴の傍らへ行き彼を読むと、段々と眉間に皺が寄り、顔の筋肉が硬くなっていくのが分かった。これは、ファンというよりも…。
「…君のストーカーじゃないか。」
「……そう、だね…。」
男の顔中に、私の事が書かれている。私が美少年(恐らく初流乃)と電車に乗って出かけて行った事や、岸辺露伴の家に住んでいる事、露伴とよく近所のスーパーに買い物に行っている事など、色々だ。しかし、学校には行っていないみたいだと書かれているあたり、私を女子高生だと思っているようである。それが、何よりも気持ち悪い。
「うーん…どうしよう。」
気持ちは悪いが、今まで特に実害はない。監視はされているようだが、外から眺めているだけのようだ。今こうして見つけたのも偶然なのだ。露伴は「僕が何か書き込むか?」と言っているが、悪い事をする人かどうか、まだ分からないので一旦断っておいた。一般人相手にスタンドで攻撃するわけにはいかないのだ。
「あ、あれ?僕…。」
ヘブンズ・ドアを解除された男は不思議そうに自分を見て、キョロキョロと辺りを見回して、まるで夢でも見ていたかのような素振りをみせた。
「早く家に入ろ、露伴。」
とりあえずはそのままステイしておこうと、私は露伴の腕に自分の腕を絡めて体を寄せた。恋人のフリをしていたら諦めるのではないだろうかと思ったのだ。
「あぁ、そうだな。おいお前、人の家を覗くんじゃあない。今度やったら通報するからな。」
露伴は男にそう強く言ってから、行こう、と私をエスコートして玄関へと歩を進めた。中へ入って扉を閉めると、お互い扉を背に、どちらともなく大きなため息を落とした。
「君、面倒な奴連れてくるなよ。ストーカーってやつは、しつこいぞ。」
「……露伴も元、私のストーカーだもんね?」
出会った当初の露伴を思い出す。今でこそこんなに近い間柄になったが、典明と私に付き纏ってきていたちょっとしたストーカーだったのだ。その事を突いてやると「君、僕の事そんな奴だと思ってたのか!」と眉間に皺を寄せて怒っているので笑ってしまった。自覚がなかったのか。記憶を見せてもらえるまで会う度にしつこく何度でも会いに行くとまで宣言していたのに。
「怒らないでよ。今はキスまでする仲になったじゃない。すごいね、露伴。」
本当に、未来はどうなるか分からないものだ。露伴が覚悟を見せてくれたから、ここまで関係が変わったのだ。露伴が、がんばってくれたからだ。
「そう、だな。今がいいならいいか…。」
まだ少し不満げではあるが、彼も納得したようだ。
外の男はもう帰っただろうかとドアスコープで外を見ると、もういないようで、やっと、ホッと安堵のため息が出た。
「なまえさん。」
「!」
ドアスコープから顔を離した直後、露伴の手が顔の横に置かれた。それも左右両方で、前にはドア、後ろには露伴の体。人ひとり分の、狭い空間に閉じ込められた。所謂壁ドンというやつだ。
「せっかくだからキス、しておこうと思うんだが…いいか?」
トン、と私の肩に顎を乗せて尋ねる露伴の声が耳元で響いて、思わず背中がゾクゾクして顔に熱が集まってくる。露伴はたまに、ごくたまに、かっこいい一面を出してくるので対応に困る。
「いい、よ…。」ぽそ、と呟いた小さい声は、すぐそばにある彼の耳に届いたらしく「は…かわいすぎる…。」と呟いた彼の小さな声も、私の耳に届いた。
「ご、ごめん露伴…。目、瞑ってほしい…。」
今の私の顔は、とてもじゃないが見られたくない。「…あぁ…瞑ったぞ。」と言う彼の言葉にゆっくり振り向いて顔を上げると、バッチリと目が合って騙されたのだと気づいた。「う、嘘…。」目を開いて、口をパクパクさせる事しかできないでいると「ふ…かわいいな。」と目を細めた露伴が顔を近づけるので、ぎゅっと目を閉じると直後、唇が重なった。
「んっ…、んぅ…は…、露伴…酷い…。」
抗議の声を上げるが、プルプルと震えてしまって、顔も見れない。
「…悪い。君がどんな顔をしてるのか気になった。」
誘惑に勝てなかったと言う露伴は少し申し訳なさそうに眉を下げたので、不本意だが許してあげる事にした。典明も露伴も、なんだか最近私をからかうようになってきている。本人達が楽しそうなので別に構わないが、少しばかり悔しい。
「今のキス、アイツに見せてやったら諦めるんじゃないか?」
「え?いや…逆上したらどうするのよ。」
露伴が真面目な顔でそう言うが、誰かに危険が及ぶ可能性があるならば、下手な事はしたくない。ましてや今は初流乃がいるのだ。こっちには最強のスタンド能力、ヘブンズ・ドアがある。あまり使うのは気が進まないが、最悪は、力づくでねじ伏せられる術を持っている。今はまだ、様子見をしていよう。
「あ、典明達が帰ってきた。露伴は先に、描き始めててよ。」
帰ってきた典明達を出迎えると「なまえさん?先に帰ったのに、玄関で何してんスか?」と仗助が不思議がっていたので「典明を待ってたの。典明、ちょっといい?」と彼の腕を引くと「あーそういう事っスね。」と勝手に納得したようだった。そういう事、とは、仗助の考えているものとは違うだろうが、とりあえず今はなんだっていい。
2階の私達の部屋に入りこっそり窓の外を見ると、家からは多少離れているがあの男の姿が確認できた。やっぱり、口で言ったくらいじゃどうにもならないらしい。
「なまえ、どうかした?何があったんだ?」
私の顔を見て何かあったと察知した典明は、私にピッタリ体を寄せつつ、キョロキョロと外に視線をさ迷わせた。さすがの洞察力だなぁ、と思わず感心してしまう。
「実は、帰ってきたら怪しい男がいてね。スタンド使いじゃないんだけど…。どうやら、私の…ストーカーみたいで…。」
アイツ、と指差すと、典明が男の姿を視界に捉え、やがて眉間に皺を寄せた。そして「どう見ても30代じゃあないか。」と。いくら恋に年齢は関係ないとはいえ、30代の男が女子高生(だと思ってる)相手に恋してる時点でアウトだ。それも、家まで特定しているなんて。
「はぁ…。典明の姿が見えたら、1番早いのに…。私のタイプの男性はこの人です!しかも恋人です!今度結婚します!って紹介するのに…!!」
さすがに典明の姿を見たら諦めるだろう。だって典明は、かっこよくてかわいくてキレイで、頭が良くて紳士的で優しくて所作も優雅。いつだっていい匂いがするし、そしてなにより強い。完璧すぎるほど完璧なのだ。典明を見たらその辺の男なんて、ぐうの音も出ないだろう。
「君は、いつも僕を王子様だとか完璧な人間だとか言うけど…。僕は、そんなにできた人間じゃあないぞ。」
「?私、典明の嫌いなところ1個もないよ?それって、私にとって典明は完璧じゃない?」
寂しそうに、申し訳なさそうに言っているが、私には典明の言いたい事が理解できない。典明ほど完璧なできた人間を、私は生まれてこの方見た事がない。恋人であるという欲目を抜きにしたって、誰がどうみたって好印象を抱く好青年だろう。
「…そうだな…、君が、僕の全てを受け入れてくれる人だって、忘れてたよ。」
典明はそう言って私の肩に頭を乗せてため息を吐いて緩く腰を抱くが、私は典明の言葉に言いようのない違和感を覚えた。
「…それは、ちょっと違うかも。受け入れるっていうと、ダメなところも全部まとめて愛する、って感じだけど…。私にとって典明は、本当に、ダメなところなんて1つもないもの。」
これで、伝わるだろうか?彼の胸に寄りかかって様子を伺っていると、「君は、本当に…。」と漏らして背中に腕を回した。
「…なまえ。好きだよ。僕を好きでいてくれてありがとう。」
急に弱気になって、どうしたのだろうか?典明の言葉は嬉しい。とても嬉しい。が、典明が不安がっているのが心配で、喜んでいる場合じゃない。
「どうしたの、典明。私も好き。大好き。」
彼の頬を両手で包んで愛を伝えるが、ちゃんと伝わっているだろうか?目が合うと眉を下げながらではあるが、私の手に自分の手を重ねて、僅かに笑顔を見せた。
「君は本当に魅力的だからな…。みんなに僕の恋人だと見せびらかしたい反面、誰も君の魅力に気づかなければいいと思ったりもするんだ。今みたいにね。」
「……独占欲…。」
それは所謂、独占欲というもの。典明はあまり独占欲を見せないが、実は、独占欲を隠していただけだという事のようだ。典明がまた肩へと顔を近づけて、私の首元をひと撫でして唇を寄せたらしく、突然の首へのキスに体が僅かに硬くなった。
「典明、…私、典明の独占欲、うれしい。嬉しいよ。」
「!」
「私も、一緒だよ。"Tenmei"をみんなに見てほしいけど、"Tenmei"のファンに、嫉妬してるの。…面倒臭いでしょ?」
"Tenmei"には女性ファンが多い。8割…いや、下手したら9割は女性ファンだ。SPW財団に送られてくるファンレターはいつも、Tenmeiは実在するのか、彼の姿を探してしまいます、Tenmeiに恋してます、などなど、私の絵のファンというよりはTenmeiのファンが多いのだ。彼の魅力を世界中に知らしめたいのに、魅力に気づいた人に嫉妬してしまう、面倒臭い感情を常に抱いている。
「いや、僕も嬉しい。…うん、嬉しい…。」
そう言って典明は今度こそ、私の方に顔を埋めて大きく息を吐いて、吸った。私も彼と同じように胸に顔を埋めて、息を吸って、吐いた。いつもの、いい匂い。
「君、最近、僕のいないところで露伴とキスしているだろう。」
典明の感情の読めない声に、思わずリラックスしていた体に力が入って動きが止まった。バレている…なぜ…!
「はは。怒ってないし悲しんでもない。ただ、ちょっとだけ、嫉妬してるだけだ。」
体を離して顔を覗き込んでくる彼の笑顔は、とても綺麗に目が細められている。
「典明…やっぱり、典明が嫌なら、」
ちゅ、と言葉を遮るように、典明に唇を塞がれる。典明が嫌ならしないよ、と続くはずだった言葉は、典明によって飲み込まれた。ちゅ、ちゅ、と何度も繰り返される啄むようなキスに、段々と頭が痺れてくる。
「はぁ…。かわいい…かわいいね…、なまえ。」
私はいま、どんな顔をしているだろうか。典明はいつもの笑顔に僅かに眉間に皺を寄せて、頬も僅かに赤く染まっている。とても艶かしい顔をしている。
「なまえが気持ちいいと、僕にも伝わってくるんだ。…僕も気持ちいい。今もね。」
「!そうなの…?」
そうなのだとしたら、私も今、そんな風な顔をしているのかもしれない。
「だから、僕が子供達といる時は控えてくれると助かるんだけど…。」
「あ…。そ、そっか…そうだね。」
いくら典明が表情を隠すのが上手いとはいえ、私の感覚がそのまま伝わっているのだとしたら…。結構、しんどい思いをしただろう。
今はこの部屋には、私と典明しかいない。思う存分気持ちよくなっていいのだと、お互いどちらともなく口付けを交わし、熱を分け合った。