第3部 杜王町 その後の物語
name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
部屋に戻ったら仗助と億泰はソファで寝落ちしていたので、部屋から布団を持ってきて掛けてあげた。寝室に連れて行ってやってもよかったが、典明が「せっかくだから僕達もここで寝よう。」と楽しそうに言うのでわざわざ私達の布団も持ってきて、電気を消して一緒に包まった。ぎゅ、と典明の胸に顔を寄せると彼の匂いがして落ち着く。本当に、典明はいい匂いがする。彼の胸に寄りかかって好き勝手に匂いを嗅いでいたら段々と眠気がやってきて、気がついたら朝だった。眠り始めた時と同じ体勢で目を開けて、窓の外は明るいし典明の優しい笑顔が私を見ているしで少しばかり混乱した。背中を優しく撫でる典明の手は、恐らく一晩中そうしていたのだろう。
「ごめん典明。重くなかった?」
少し体を離して顔を上げると典明は優しい笑顔のまま、ちゅ、とキスをひとつ落として、
「おはよう、なまえ。寝ててもかわいいし、寝起きもかわいいね。」
と指で頬を撫でるので私の体は典明の胸に逆戻りした。もう…本当に…!!!
「典明はいつ見てもかっこいいね…!好き…!」
決して、重くないよ、とは言わない所も、もう全部好きだ!大好き!!
「おぉ…花京院さん、朝からカッチョイー…。」
すぐそばから聞こえた仗助の声に顔を向けると、彼も寝起きのようで僅かに声が掠れていて、いつもキリッとしている目もとろんとしていてかわいらしい。
「でしょ、典明はいついかなる時でもかっこいいの。」
と彼を抱きしめて自慢すると「なまえもいつも、どんな時でもかわいいだろう?」と抱きしめ返された。くっついた頬をスリスリしてくるのが、猫みたいでとってもかわいい。
「はは、朝からおアツいっスね。」
「おはよう…。」
無邪気な仗助の笑顔もかわいー、と思っていたら、奥の扉から露伴が顔を出した。目の下にはクマがあり、どう見ても二日酔いである。「うぅ…あ、頭が痛い…。」と壁に手をつきながら歩いているさまは、さながらゾンビのようだ。
今の露伴の登場で、億泰も目を覚まし、寝ぼけ眼で露伴の姿を認めると「ゾンビかと思ったぜ…。」と驚きと共にドン引きしていた。
「露伴。もう少し寝てればいいのに。大丈、わッ!」
「ウッ…!」「なまえ!」
露伴を介抱しようと、典明の体から離れて立ち上がると、全身が痺れて動かなくて、そのまま露伴へ向かって倒れ込んだ。ハイエロファントが私の体を引っ張ってくれて私は無事だったが、露伴はモロに私のタックルを食らってしまい床に転がって唸っている。これは、一晩中私を抱きしめていた典明へのダメージだ。典明のダメージが、私に返ってきている…!
「ご、ごめん露伴!!わ、私も体が動かなくて…!」
決してわざとではないのだと主張していたら典明が「…フ…ッ!」と噴き出したのをきっかけに仗助や億泰が大声で笑いだした。こっちは、笑い事ではないのだが。
「…おはようございます。」
起きてきた初流乃は、不思議そうに私達の光景を眺めてなんだか楽しそうですね、と笑顔を浮かべた。波紋の呼吸で自分の体を正常に戻してから露伴の元へと行くと「君は本当に…期待を裏切らないな…。」と呆れた顔で言われた。露伴の介抱をしにきてあげたというのに、なんだかバカにされた気がするのだが。
「はい。砂糖水。」
二日酔いに効くらしいと昔どこかで聞いた、濃いめの砂糖水を渡して治癒の波紋を露伴の頭に流してあげると徐々に楽になってきたようで、椅子に深く腰掛けて「はぁーー……。」と長いため息を吐いた。まったく、こんな大人にはなりたくないものだ。
「今日は、静かだな。それでも、充分うるさいが。」
典明は今日は、子供達の宿題を手伝っている。典明は頭が良い上に優しいので、仗助と億泰が教えてほしいと典明を指名したのだ。私も、典明に勉強を教えてもらいたい人生だった、と思わず机に突っ伏した。
「このぐらいのうるささなら、続き、描けそうだな。」
続き、とは昨日の原稿の事だろうか?と思って聞くと「いや、あれはもう終わった。」と言うので驚いた。だって、昨日の朝描き始めたはずだ。それが、もう終わったと。
「…君の調子がいいと、筆の進みが早いんだ。」
「…それは、どういう原理なの…。」
なぜ、露伴の筆が乗る事に、私が関係しているのか。よく分からなくて聞くと、彼は眉間に皺を寄せてため息をひとつ。またバカにされた気がする。
「花京院さんの事になると、頭の回転が速いのにな。残念だ。」
トントンと私の頭を指で小突く露伴にさすがに「なに、バカって言ってる!?もしかして!」と声を上げたら「そうだって言ってるだろう。うるさい。」と怒られた。いつもうるさいのは露伴の方だし、昨日はかわいかったのに!!
優しくして損した!と治癒の波紋を流す手を退けたら「おいおい、病人には優しくしろよ。」と偉そうに言われてまた腹が立った。
「二日酔いは病気じゃありません。自業自得。」
自分の限界を見誤って酒に飲まれた露伴自身の責任なのだ。お酒を上手に飲めないなんて、まだまだ子供である。
「!典明!」
露伴から顔を背けて怒ってるアピールをしていたら、ハイエロファントの触手が足からお腹までスルスルと上がってくるのが分かって、ドアの方を見ると典明が子供達を連れて部屋に入ってきたところだった。
「典明〜!露伴が、私の事バカって言った〜!!」
我ながら子供か、とは思ったが、それ以外に言葉が思いつかなかった。典明に抱きついて頭をグリグリと胸に押し付けると、典明は優しく頭を撫でてくれた。好き。
「大丈夫だよ、なまえ。億泰の方がバカだった。」
「…は?…え…、億泰…?」
いま私、億泰と比べられてるの?直前まで典明好き〜と思っていたはずだが、今は頭が真っ白だ。ただ、典明の優しげな顔を見つめる事しかできない。
「君は、勉強はできるもんな。億泰は、勉強もできなかった。」
「ぶはっ…!」
どんどん眉間に皺を寄せていく私を見て、とうとう露伴は噴き出した。仗助も、顔に力を入れて笑うのを耐えているようだ。なにこれ。私のバカは、周知の事実ってこと?
「もー!そこは慰めるとこでしょ!分かってて言ってるでしょ、典明!」
典明が私のしてほしい事、ほしい言葉を察せない訳がない。彼は、分かっててやっているのだ。その証拠に、なんの事?と首を傾げているが笑顔は崩れていないではないか!
「典明が優しくない!初流乃〜!」
ぐ、と典明の体を押して初流乃の方へ身を寄せると、彼も私の肩を抱いてヨシヨシと私を慰める素振りを見せた。初流乃は、私をバカとは言わないよね?と初流乃を見ると「たとえなまえさんがバカだったとしても、大好きですよ。」となんのフォローにもならない言葉が返ってきた。これは…典明とは違って、素で言っている。キラキラ輝く笑顔が、そう物語っている。そう理解して、思わずヨロ、と後ろによろめいた。
「ふ…ふふッ…!」
ついに、典明も堪えきれずに笑いだし、仗助もそれに釣られて笑いだした。みんな酷い…!酷すぎる…!
でも、典明が楽しく笑っているならいいか…と漏らすと「そういうとこっスよ。」と仗助に小突かれた。そういうとこって、なに?