第3部 杜王町 その後の物語
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初流乃の失くしたものは、少しずつだが戻ってきていた。女の子達が「ごめんなさい…幸せになってね…!」と返しに来てくれるらしく、勘のいい初流乃はそういう事かと納得して「ありがとうございます、なまえさん。」とわざわざ感謝を述べてくれた。本当、私も体を張った甲斐がある。
そして先日の夜の仗助からの電話だが、私が切ってしまったあともう一度かかってきて、本当の用事は、週末のゲームのお誘いだった。そういえば結構前に、お泊まりでゲームしようと約束をしていたのだ。
「典明。仗助が週末、泊まりでゲームしようって。」と典明に伝えるとあからさまに目を輝かせるので即OKをした。かわいすぎる。
そして、今日は金曜日である。露伴はめちゃめちゃ嫌そうだったが、典明が朝からニコニコと上機嫌なので何かを言うのは諦めたらしい。
「ただいま戻りました。」
「お邪魔しまーす。」
夕方、初流乃が仗助と億泰を引き連れて帰ってきた。その様子を階段の上から眺めていると、なんだか子供がいっぱいでかわいいな、と思った。
「典明、行っておいでよ。私はご飯の準備するから、これ、初流乃に。」
チェリーのピアスを初流乃に渡すように典明に預けると、彼は「うん、またあとで。」とおでこに1度キスをしてからみんなの元へと向かっていった。なんだかゲームが絡むと、典明も子供みたいだ。
「本当、うるさいな、アイツら…。」
洗ったお皿を片付けていたら、露伴が台所へとやってきた。ゲーム機のある部屋が仕事部屋と近いので、相当うるさかったのだろう。台所へは、避難しにやってきたようである。
「ねぇ露伴。ピアス貸してくれない?今、初流乃に貸してて。」
「あぁ、そうなのか。…ほら。」
事情を聞くとすぐに、彼は自分のピアスを外して私に差し出してきた。ありがとう、と受け取ろうかと思ったが、せっかく今は2人だけなのだし、少しじゃれてみようと「露伴が着けて。私の耳に。」とお願いしてみた。露伴は「なんだよ。いま君、受け取ろうとしただろう?」と普通にできないのか、と小言を言ってくるが、そのまま案外すんなりと私に近づいてピアスを着けてくれた。さすがに、これくらいじゃもう照れないか、と少し残念である。
「…せっかくだから、このままキスしてもいいか?」
「!」
まさかの露伴の発言に驚いて露伴を見上げると意外と近くにいて、僅かに頬を赤らめて私を見下ろしている。それがなんだかとてもかわいく思えてきて、同時に愛おしさが湧き出てきた。
「うん、してほしい。」
「…君は、無意識に煽るのが上手いな。」
今は煽ったつもりはないのだが…と思っていたら露伴が顔を近づけてきたので目を閉じると「それにつられる僕も、バカだよなぁ。」と呟いたのち、唇が重ねられた。温かくて、ふわふわして、気持ちいい。
もっと温もりを感じたくて露伴の腰に腕を回したらぐ、と押し返され、後ろのキッチンカウンターに体がぶつかった。密着する体は確かに温かいのだが、なんだか逆に、熱くなってきた。
「ん…、待って、露伴。」
「無理だ、もう待てない。前回のキスから、充分待った。」
露伴と前にキスしたのは、承太郎とのいざこざがあって初めてキスした時だ。私はいつもそばに典明がいるので、なかなか機会がなかったのは確か。だけど、息継ぎができなくて苦しい。
「っん、…ハァッ…、は…。」
長いキスが続き息が上がって、呼吸が苦しくて視界が滲む。ぎゅ、と露伴の服を掴んで懇願すると、その手を上から包まれてやっと唇が離れた。そのままの体制で息を整えていたら「はぁ…本当にかわいいな…君は。」と一言呟いて、露伴は自分の胸に私を閉じ込めた。先日も思ったが、こういう時の露伴はものすごく優しくて、思わず甘えたくなってしまう。やっぱり私は、私に優しい人が好きなのだ。
背中に腕を回してスリスリと頬を擦り付けていたら「ふ…。君は猫かなにかか?」と笑われてしまった。なんだか、昔、典明にも言われた事があるような気がする。
「みんな〜ご飯の準備ができましたよ〜。」
露伴と2人で作ったので、思いのほか早く作り終える事ができた。みんなが騒いでいる部屋へ声をかけに行くと、予想通り典明を中心に盛り上がっているところだった。今は仗助の体に入っているらしい典明と、億泰との対戦。少しして決着がつき、勝者はやっぱり典明で、億泰は悔しがってコントローラーを放り投げた。
「なまえさん、なまえさん。」
珍しく満面の笑みで嬉しそうな初流乃が駆け寄ってきて私を呼ぶ。初流乃の顔を見るだけで分かる。なにか、いい事でもあったみたいで、話を聞く前から既に嬉しい。
「このピアス、すごいです!僕、花京院さんの姿が見えるようになりました!」
「えっ!?そうなの!?」
初流乃の耳元で揺れる、私の、典明のピアス。これを着けている人について行く事ができるのだが、まさか見えない人にも見えるようになる効果があるなんて!今まで考えもしなかったし、思いつきもしなかった。
「まぁ、外したら、見えなくなっちゃうんですけど…。」
残念そうにピアスに触れ、そう言う初流乃。彼は典明の事が大好きなのだ。だがしかし、それは私の宝物。私の一部。私が無くても見えるからと言って、あげられるものでもない。どうしたものかと唸っていると「こっちのピアスじゃあダメなのか?」と露伴が私の耳に2つ並んでいる赤い宝石のピアスを指さした。確かに、これはかつて典明が選んでプレゼントしてくれた物。チェリーのピアスほどではないが、典明に関係する物だ。
「初流乃、着けてみて。」
すぐに1つ外して初流乃へ渡し、ピアスを付け替えてもらうと、初流乃は部屋を見回し、確かに典明の姿を見て視線を止めた。もう、仗助の体からは出ている。
「…見えます。花京院さんの姿が、ちゃんと見えてます!」
パッとこちらに向き直って教えてくれる初流乃は、先程と同じ満面の笑みだ。私も嬉しくなってぎゅ、と抱きしめると初流乃も抱きしめ返してくれてさらに嬉しくなった。これも大事な物だけど、いいよね?典明。と視線を彼に向けると、意図が伝わったようで典明は1度、しっかりと頷いた。その時の笑顔がものすごく優しい笑顔で、初流乃を抱きしめながら彼に見とれてしまった。