第1部 M県S市杜王町
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パリンッパリンッ!
イギーと一緒に町を散歩していたら、通りがかった家の中で、窓が割れるほど大騒ぎしている声や音が聞こえてきた。
ただ騒がしいだけじゃない。まるで喧嘩、しているかのような喧騒。いや、喧嘩ならいい。スタンド使いの戦闘かもしれないと思い至り、私は騒ぎの中心である2階の窓にジャンプして飛び乗った。
中を見ると大惨事になっていて、億泰くんと康一くん、そしてキレ散らかしている仗助くんの姿が見えた。誰かを殴っているようだが、顔は分からない。とりあえず、仗助くんを止めた方がいいだろう。
「イギーは危ないからここにいて。」
仗助くん1人止めるだけならば私1人でいいだろうと、部屋の隅にイギーを避難させると「なまえさん!?」と億泰くんと康一くんが気づいて声を上げた。
「何があったのか分からないけど、危ないから2人とも下がってて。」
「いや、なまえさんも危ないですよ!離れて!」
康一くんは私を心配してくれるが、今ここに、仗助くんを止められるのは私以外にいないだろう。
「仗助くん。」
横から声をかけて、今まさに殴ろうとする腕を掴む。
「あ゛あ゛ッ?」
動かない右手に違和感を感じてこちらを見るが、まだ、冷静さを取り戻してはいないようだ。掴んだ腕をグイ、と引っ張りこちらを向かせ、反対側の腕も掴んだ。そしてそのまま後ろへ押すと一歩足を下げたので壁まで押して歩いていくと、やがてドン、と仗助くんの背中は壁にぶつかった。
「仗助くん、私の目を見て。誰だか分かる?」
これは私が典明に何度かやってもらった、落ち着かせる方法だ。仗助くんには効くだろうかと今さら心配になったが、彼は突然腕の自由を奪われ混乱した様子で、おかげで腕の力は少し弱まった。多少は効いているようだ。
「仗助くん。私が誰か、分かる?」
典明にやってもらった時はもっと近かった気がする、と思い顔を近づけると、徐々に表情がいつもの仗助くんに戻っていくのが分かった。
「あ…なまえ、さん……。ッ、みょうじ なまえさんッス!!」
よかった、戻ったようだ。顔を赤らめて大きな声で私の名前を呼ぶ彼の無事を確認し、私は体を離して、掴んでいた腕も離した。
「いい子いい子。」
そう言って頭を撫でようとして、彼の髪型を崩してしまうといけないと気づき、…じゃあ代わりに、と頬を撫でた。あれ、これこの前承太郎にされたやつでは…と、やってから思い出した。
「なまえさんッ…!カッケェっス…!!」
赤い顔の仗助くんから、そう言った億泰くんの方へ視線を移すと彼も顔を赤くしていた。康一くんも同様だった。あれ?典明の真似をしたんだけど、何か間違えた?
ふと、腰に付けている人形が怒っているようなオーラを発している感覚がした。これは…あとで、謝らなければ…!
「で、この状況は?」
一旦気持ちを切り替えて、状況説明を求めると、康一くんが先日漫画家の家を尋ねたら、その人はどうやらスタンド使いで、何かしらの攻撃を受けてしまったらしい。精神を操る事ができる能力だったらしく、康一くんは操られ、今日もこの家にやってきてしまった。そしてそれを見て心配になった2人が助けにきたが、仗助くんが髪型をバカにされてキレてしまった、というのが事のあらましのようだ。
「なるほどね、スタンド使い。」
そこまで聞いて、私は血塗れで倒れている人物を改めて見た。私が入ってきた時は動いているのを確認できたが、今は微動だにしない。顔は向こうを向いていて見えないが、生きているだろうか?死んでいるのだろうか?
グ、と首根っこを掴んで家具の間から引きずり出し顔を見て、私は思わず「ゲ…。」と声を漏らした。岸辺露伴だ。
そうか、彼は漫画家だったのか。それなら、画家である私の名前を知っていても不思議じゃない。それに、スタンド能力も、言われてみれば確かに、彼の能力でも可能だ。
「ハァーー…。」
彼が気を失っていてよかった。と安堵のため息をが出た。
「なまえさん?どうかしたんスか?」
冷静になった仗助くんが後ろからそう尋ねてきたが「うん…ちょっとね…。」と、説明するのも憚られて曖昧に返した。
「あの、なまえさん。…すんませんッス!!!」
岸辺露伴を床に寝かせ、生きている事を確認していると仗助くんが急に私に謝罪をし、頭を下げた。
「あの俺、馬鹿力だから…なまえさん、怪我とかしてないスか?」
その、彼の、私を心配する眼差しに、私は突然、過去の記憶がフラッシュバックして額と胸に右手を置き一歩後ろによろめいた。
「なまえさん!?大丈夫スか!?やっぱり、どこか怪我を…!」
「ごめん、これは違うの。大丈夫。」
左手で仗助くんを制止し、笑顔を見せる。年下に気を遣わせてはいけない。
「10年前の話聞いたでしょ?私こう見えて頑丈だし、力も強いのよ。仗助くんよりもね。」
でも、と、なおも私を心配してくれる仗助くんに、私は右腕を曲げて力こぶを見せた。
「ほんとほんと。気絶した78キロのフランス人を抱えて走ったこともあるんだから!」
そう言うと彼らは「ええっ!?まじスか!!?」と目を丸くさせて驚いた。純粋で、とてもかわいらしい。
「嘘だと思うなら承太郎に聞いてごらん?…って事で、一番力持ちのなまえちゃんが、気絶した岸辺露伴を運びます!」
「ええっ!?」
驚く3人をよそに、私はサッと岸辺露伴を抱き上げ、イギーを呼んだ。
「じゃ、気をつけて帰ってね。」
そう言って窓から飛び降り、私は病院へと駆けた。
さっきの、仗助くんの、私の体を気遣う表情…あの顔が、在りし日の典明と、重なって見えてしまった。
今も、泣きそうなのを悟られたくなくて早めに退散したのだ。年下に、こんな弱いところは見せられない。見られたくない。
ポロ、と一粒、涙がこぼれてしまったが、両腕が塞がってしまった今、拭くことは叶わなかった。
早く、承太郎に会わなきゃ。承太郎に会いたい。
その一心で走り続けていたら、ハイエロファントが触手で涙を拭ってくれた。たった一粒。声も出していないのに。それでも、彼にはすぐに、気づかれてしまう。その事が、私の胸をぎゅ、と掴んで、私はまた苦しくなった。