第3部 杜王町 その後の物語
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「おはよー露伴。よく眠れた?」
「…おはようなまえさん。…頭が痛いんだが、僕は昨日、ビールを何本飲んだ?」
朝きちんと起きられたのは典親のみで、露伴が起きてくるのを今か今かと待ち侘びていた。
9時には初流乃も起きてきていて、今は9時半を回ったところだ。
「3本飲んでたよ。酔った露伴、かわいかったね、典明。」
「ふ、そうだな。」
コト、とテーブルに味噌汁を出すと、露伴は素直に食べ始めていたが、私と典明の顔を見て眉間に皺を寄せて訝しげな顔をしている。
「待て。なんだその顔は。まさか、僕が酔っ払ってなにか…!待てなまえさん!記憶を見せろ!」
「きゃー!典明、守って!」
二日酔いだというのに朝から元気だな、露伴は。ドタバタと走り回り、やがて頭を抑えて蹲るので自業自得である。
「初流乃。今日も、私と買い物に行こう。」
「今日もですか?」
昨日たくさん買ってもらったのに…と遠慮しているが、夜眠れないのであれば枕や布団はちゃんと自分に合ったものを選ばなくてはならない。睡眠は大事なのだから。特に、成長期の睡眠は。その事を丁寧に説明すると納得してくれたので、今日の午前中の予定はこれで決まりだ。
典親は露伴の仕事を近くで眺めたいという事なので、典明は家に残るみたいだ。外に布団を干して、家の鍵を持って、初流乃と手を繋いで家を出た。まずはレンタカーを借りて、しばらく借りておこうと計画を立て、事前に調べていたバスに乗って駅前までやってくると、初流乃が町の人々の視線を集めている事に気がつく。類稀なる美貌の持ち主なので、注目を集めるのは仕方がないがこれではゆっくりできない。
「そうだ。……初流乃、これ。」
鞄をゴソゴソ漁り、目当ての物を取り出して初流乃へ手渡す。典明が、亡くなる前日に着けていた物を修理した物だ。ずっと持ち歩いているが私はデスクワークの際くらいしか使う必要がないので、お守り代わりになっているのだ。
「花京院さんの…。そんな大事な物、いいんですか?」
初流乃は恐る恐る受け取ってそう尋ねる。気遣いがとても素晴らしくて、思わず感動すらしてしまった。
「いいよ。典明に似合うように作ったから、初流乃には似合わないかもしれないけど。」
作った?と初流乃は首を傾げていたが、まじまじと眼鏡を見つめてやがて「有難く、お借りします。」と典明の眼鏡をかけた。
「……初流乃。なんでも似合うのね。」
ありがとうございます、と感謝の言葉を述べる初流乃は、典明の眼鏡がとても、よく似合っている。まるで彼の物かのようで、少しばかり複雑な気持ちになった。
レンタカーを借りて亀友デパートへ行き寝具売り場へ行くと、枕だけでも色々な種類があって初流乃は迷っていた。買って合わなければまた買いにこなくてはならないと、心配しているのだろう。
「初流乃。合わなければ見つかるまで、何個だって買ってもいいのよ。子供が遠慮なんてしちゃダメ。」
でも…と初流乃は未だ遠慮している。これまで育った環境のせいだろうとは思うが、ここは折れるわけにはいかない。
「初流乃。私はたくさん稼いでるの。なんのために稼いでるか分かる?」
「…いい生活がしたいから?」
「…違うよ。典親に、子供に、不自由な暮らしをさせたくないから。子供を、のびのび育てたいから。今はそれに、あなたも含まれてるの。」
「!」
意外な言葉だっただろうか?初流乃は目を見開いて驚いている。…確かに、初流乃は初めて言われただろう。そう思うと、やはり切ない気持ちになる。
「私は、あなたの母親とは違うよ、初流乃。」
「そう…ですね。」
本人の母親を悪くいうようで申し訳ないが、私は彼女とは違うのだと、彼女のような真似は決してしないと、分かってほしかったのだ。
やがて私に視線を向けた初流乃は、瞳から静かに、涙をポロ、と零したので慌てて眼鏡を外して、ハンカチで拭ってあげた。泣かせるつもりはなかった。ただ、無償の愛は本当にあるのだと、分かってほしかっただけなのだ。
「ありがとうございます、なまえさん。…ありがとう…。」
ポロポロと零れる涙は、なかなか止まりそうにない。
一度落ち着かせようとベンチへ連れていくもなかなか止まらなくて、やっと止まったのは、自販機で買った飲み物を飲ませてしばらく経ってからだった。
「…なまえさんは、素敵な人ですね。花京院さんの言ってた事が、少し分かった気がします。…花京院さんが羨ましい…。」
典明の言っていたどの言葉なのかは分からないが、とにかく褒められている事は分かったので少し照れくさい。
「すみません、買い物の続きをしましょう。」
初流乃は立ち上がりこちらへ手を伸ばしてきたので、その手をぎゅ、と握って立ち上がった。眼鏡をかけてあげる事も忘れずに。
「僕、枕は硬い方が好きなんです。布団も、重さがある方がいい。」
「そうなの?店員さんに聞いてみようか。すみませーん!」
初流乃はなにか吹っ切れたのか、その後は楽しそうに買い物を続け、枕と布団だけでなくシーツやマットレスまで購入した。そうそう、こうでなくちゃ!ここまで吹っ切ってくれると、お金を払う方も気持ちがいい。気分が良くなって帰りがてらケーキも買って、帰路へと着いた。
岸辺邸へと帰ると、夜通し掃除した甲斐あって寝室は完璧なものになった。初流乃も満足そうにしている。
「なにかあったのか?」と勘のいい典明に聞かれたのだが「秘密!」と答えると「ふーん。ヤキモチ妬いちゃうなぁ。」と顔を覗き込まれたので危うく喋ってしまうところだった。
典明は最近、私の大好きなその顔を近づければ私がいうことを聞くと思っている節がある!その通りなのだが!