第3部 杜王町 その後の物語
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「露伴。私達がいない間、出前ばっかり食べたでしょ。」
子供2人を寝かしつけてからリビングで露伴を問い詰めると、「別にいいだろう。1人なんだから。」と濡れた髪をそのままに露伴が反論してくる。それもビール片手にだ。別に出前でもいいが、冷蔵庫の中が期限切れで溢れていたのだ。全く、億泰を見習ってほしいものである。
「ちゃんと頭も乾かして!」
「わっ、や、やめろ!」
ワシワシとタオルで頭を拭いてやると、露伴は抵抗したがやがて大人しくなった。力では私に敵わないのを分かっているのだ。
「なんか、急にオカンになったな…。」
「…私、こう見えてママですから。」
露伴の言葉に言い返すと、彼は「はは、そうだったな。確かに。」と楽しそうに笑っている。ビール1本で、もう酔ったのだろうか?
「久々に会うと、やっぱりかわいいな、君は…。」
露伴のその言葉に、それまで向かいの席で微笑ましくこちらを眺めていた典明をチラリと見る。典明も、驚いた顔で露伴を見ている。
「露伴、…酔ってるの?」
「酔ってる…。悪いか…?」
なんだ、酔ってるのか、と思ってふと視線を落とすと、足元にビールの空き缶が2本並んでいるのに気づいた。1本目じゃなくて3本目だったとは…!そりゃ、普段お酒を飲まない露伴が酔っ払ってもおかしくはない。ため息をついて空き缶をテーブルの上に並べると、典明もぎょっとしていた。
「なまえさん…。1週間、寂しかったぞ…。もっと、構って……」
露伴の口から発されたとは思えないかわいい言葉は、途中で停止した。見ると、首をもたげて目を閉じている。口が薄く開かれているので、眠っているのだと確認できた。
「露伴、よっぽど寂しかったんだな。しばらくは、優しくしてあげよう。」
典明のその言葉にうん、と返事を返したはいいが…。露伴を、このままにしておくわけにはいかないだろう。
「典明、部屋のドアを開けてくれる?」
濡れた髪はこのままにしておくしかないだろう。ス、と露伴を抱き上げると「うーん…。」と唸って眉間に皺を寄せた。枕元に水も置いといてあげた方がいいだろう。
「なんだか、子供が3人に増えたみたい…。」
「ふ…ッ!」
私の漏らした呟きに、典明は笑いを堪えるように口に手を当てて震えている。笑うという事は、典明もそう思ったのだろう。
「僕が生きてたら…きっと5人はいただろうな。」
典明は寂しい事を言いながらも、穏やかな顔で露伴を眺めている。典明との子供が5人もいたら…想像するだけで幸せな光景だ。
「おやすみ、露伴。」
初めて入った露伴の部屋の布団に彼を降ろして布団をかけると、幸せそうな顔で布団を抱きしめて寝返りを打つのでやっぱり子供みたいだと思った。ちゃんと枕元のチェストの上へ水を用意して、私達は部屋をあとにした。
典親と初流乃を私と典明の使う部屋で眠らせて、荷解きと掃除の続きをしようと典親達の部屋で作業していると、静かにドアの開く音が聞こえた。見ると、眠そうな顔をしている初流乃がドアのそばに立っていたので驚いた。
「初流乃、どうしたの?」
夜なので静かに優しく尋ねると、初流乃はよく眠れないのだと話してくれた。初めて来た場所で、慣れない布団なので仕方がないだろう。もしかして、空条邸でも眠れていなかったのだろうか?と思い尋ねると、やはりあまり深くは眠れていなかったみたいだ。
「じゃあ初流乃、また眠くなるまで起きてようか。それとも、典明とお話する?」
気分転換ができればいいと思い提案すると、初流乃は少し考える素振りを見せて「迷います…なまえさんと花京院さん、どちらともお話したいです…。」とかわいい事を口にするので思わず抱きしめた。直後、クラ、と頭が重くなったかと思ったら典明が入ってきていて、「初流乃はいい子だな。」と口が勝手に動いた。
「もしかして、花京院さん?」
「うん。ごめんなまえ。」
今まで逐一許可を取ってから入っていたため、突然の事で驚いたが、典明も自分に懐いてくれる初流乃がかわいくて仕方ないのだろう。いいよ、と伝えると魂越しに、彼が喜んでいるのが分かった。私はいつでも初流乃と話せるのだから、今回は典明に譲ってあげよう。
「不思議だな…見た目はなまえさんなのに、花京院さんだって分かる。…表情の違いかな?」
初流乃は興味津々に私の顔を覗き込んでいるが、彼の瞳に映る姿は、やはり私には典明にしか見えない。
「あまり見られると、さすがに照れるんだが。」
と、典明は困ったように笑っている。典明の困ったように笑う顔、私も見たい。と考えていたら「君はいつでも見られるだろう。」と返された。子供を相手にしている時の典明は、私にもちょっと冷たい。
「花京院さん、なまえさんのどこに惹かれたんですか?僕、知りたいです。」
初流乃のその言葉に噎せたのは、私だろうか、典明だろうか?まさか初流乃が突然、そんな話をするなんて思ってもいなかったので、2人揃って驚いた。
「なまえのどこに惹かれた、か…。たくさんあって、なにから話そうか迷うな…。」
息を整えた典明は、そう言いながら上を見て考える。なんだか、胸の辺りが温かい。
「まず、かわいいだろう?笑った顔も、泣いてる顔も、怒った顔も、全部かわいい。」
少しの間を置いて話し出した典明は、私のような事を言い始めた。私も、誰に聞かれてもまず、見た目から話し出す。それほどに典明の顔は、私のタイプそのものなのだ。
「1番かわいいのは、僕を見つめてる時の顔なんだけど…初流乃は見られるかな?」
その言葉に、私がドキリとした。体がピク、と反応したので、典明には今、私がドキッとしたのがバレただろう。「ふ…。かわいい…。」といつものセリフも追加でもらい、心臓がドキドキとうるさくなってくる。典明に全てバレてしまうのが、とても恥ずかしい。
「花京院さん、顔が赤いですよ。」
「ふふ、これは、なまえが照れてるんだ。」
初流乃にまでバラされて、恥ずかしいったらない。典明!追い出すよ!と念じたらごめんごめん、と笑っていて、結局かわいいので許した。
「顔以外だと…、昔の弱かった僕を全て受け入れて、信じてくれた事、かな。いい意味で、男前でかっこいいんだ、なまえは。」
「…そうなんですか?」
初流乃が不思議そうにしているが、典明は「いつか分かるよ。」と笑顔を浮かべている。
「いつもいう事を聞かないところがあるんだが、結局1人でなんでも解決してしまうんだ。彼女は体も心も、本当に強い。尊敬している。だけど強いからこそ、心が病んでしまう時もあったけど…。」
典明の声に、胸がきゅ、と締め付けられる。なんだか、申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
「心が強いのに、病んでしまうんですか?」
初流乃の疑問は尤もだ。心が強ければ、壊れたりはしないだろうと思う。けど、私は一度心が壊れてしまった。典明が言うようには、私は強くないのだ。
「心が強いからこそ、何かがきっかけで欠けてしまった時、そこからどんどんひび割れて、崩れていってしまうんだ。彼女はそのきっかけが、僕の肉体の死、だったんだ。…申し訳なく思うよ。」
嫌だ。そんな事言わないでくれ。私が病んだのは、私が弱かったからだ。そう訴えたが、典明は何も答えなかった。
「なまえは僕の事を王子様だって言ってくれるけど、なまえの方がよっぽど王子様なんだよ。いつでも、僕を守ろうと動いている。」
「つまりは、なまえさんの強くてかっこいいところが好きって事ですか?」
初流乃は話を纏めようとして言ったのだろうが、典明は納得いかないようで少し頭を悩ませている。顎に手を当ててうーん、と唸って考えた末、
「簡単に纏めるとそうかもしれないんだが…それは、彼女の好きなところではあるんだが…。一言で纏めると、なまえは僕の中で、全てを引っ括めて、とても尊くて、愛おしい存在、かな。」
と、結局抽象的な答えになってしまって初流乃は首を傾げた。13歳には、まだ早かっただろうか。私は再び、心臓がドキドキと音を立てている。もう、好き、大好き。
「ふふ、…僕もだよ、なまえ。」
その後も私の話で盛り上がった2人は、朝の4時まで話し込んで空が僅かに白んできた頃にようやく解散した。
「おやすみ、初流乃。」
「…おやすみなさい。」
明日の朝は起こさないであげよう、と決めて、改めて隣の部屋のへと戻った。波紋の呼吸がまさか、こんなところで役に立つなんて思ってもみなかった。