第3部 杜王町 その後の物語
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「あ、そうだ。」
1度お会計を終えて別の階で買い物を続けている時、私はある事を思いついた。私でも良かったが、露伴がいるなら典親もきっと喜ぶ。
「初流乃、典明とお話できたらいいなって言ってたよね?今ならできるよ、お話。」
「!そうなんですか?」
初流乃の少し嬉しそうな顔を見て、露伴に視線を移すと「あぁ、別にいいぜ。」と許可を頂いた。露伴も察しがとてもいい。
「ありがとう、露伴。」
典明が露伴に感謝を述べて体に入ると、典親が「あっ!」と声を上げる。反応を見る限り、典親には典明に見えているみたいだ。一方の初流乃は、なにが起こったのか分からない様子で視線をさ迷わせている。
「初流乃。」
「!花京院、さん?」
典明が優しく声を発すると、初流乃はさっきまでとの違いに気がついたらしい。私達には典明の姿に見えるが、初流乃には露伴の姿に見えているのだ。その顔でこんなに優しく話すなんて、少し見てみたい気もする。
「よく分かったね。君と話せて、嬉しいよ。」
典明は外だからと我慢していたが、典親の体をスッと抱き上げる。露伴は重いと言っていたのに、典明は軽々と抱っこしていて男らしさに胸がときめいた。
「僕も…嬉しいです。花京院さん。」
「いつもと匂いが違うのが変な感じだけど…パパに抱っこしてもらってお買い物、嬉しい!」
「…はは!どうしようなまえ。すごく嬉しい。」
目の前に広がる光景が尊すぎる。典明が目に涙を溜めているので、私も涙が出てきそうだ。
「なまえさん!?と、露伴…!えっ花京院さんがちっちゃく…子供!?」
1週間ぶりの聞き慣れた声に振り向くと、仗助が目を丸くしてこちらを見ていた。あ、これは変な誤解を生んだかも。
「し、しかも今、露伴の事をパパって…!」
「ま、待って仗助。落ち着いて!」
「あら、みょうじなまえさんじゃない!」
誤解を解こうと思ったが、仗助はお母さんといたらしい。これでは典明の説明はできない。
「あ、ご無沙汰してます…。この子は、私の息子で…、こっちの子は、知り合いから預かっているんです。」
しどろもどろでする説明は、なんだか我ながら嘘っぽく聞こえてしまう。た、助けて典明!
「そちらは、漫画家の岸辺露伴先生よね?え、なまえさんと露伴先生って、そういう関係…?」
「ち、違うんです。一緒に仕事をしてて…!息子が、彼のファンなので抱っこしてもらってたんです!」
あたふたと返答を返していると、仗助がじとー、とした視線を送っているのが目に入る。完全に、疑っている目だ。
「初めまして、岸辺露伴です。実はここだけの話、来年僕と彼女で個展を開くんです。その準備のために、なまえさんはしばらく杜王町に滞在予定なんですよ。よかったら招待するので、個展、来てください。ぜひ、仗助も一緒に。…内緒ですよ。」
典明は露伴の体で、にこやかに朋子さんに挨拶をしている。内緒ですよ、とウインクする典明に、私はドキッとしてしまったが、周りから見たら露伴の体のはず。露伴の体でやっていると思うと、今度は笑いが込み上げてきた。
「フ…ッ、仗助、分かってくれた…?」
震える体を抑えて仗助に聞くと、やっとなにが起こっているか察したらしく私に吊られて体を震えさせるので、2人で笑いあった。
「個展、楽しみにしてます。お邪魔してごめんなさいね。仗助、行くわよ。」
朋子さんは典明の言葉に納得してくれたようで、仗助を呼び買い物へと戻って行った。
「今度ちゃんと紹介して下さいよ〜。」と言う仗助も見送って、やっと息を吐いた。
「笑うなんて、酷いじゃないか。」と典明は拗ねているが「典明が言うならかっこいいけど、露伴が言ってるかと思うと…。」と口を抑えると典明も露伴の姿を想像して口を抑えた。そして「露伴が怒ってる。」と言うのでついに吹き出してしまった。
「初流乃。他に買う物がなかったら、帰ろうか。」
「はい。あの…もう少し、花京院さんと話してもいいですか?」
初流乃は典明と話せる事がよほど嬉しいようだ。
典明から露伴の車の鍵を預かり、助手席に典親を乗せて私が運転して岸辺邸へと帰った。久しぶりに帰宅する露伴の家は未だ焼けた跡が残ってはいるが綺麗に整頓されている。これは、今日片付けたな。
「初流乃。荷解きするから、一旦お喋りはおしまいね。またあとで。」
一応家主に、使っていい部屋などは聞かないといけない。私に言われた初流乃は少し残念そうな顔をしたが「はい。またあとで、花京院さん。」と典明を解放した。初流乃も典明の姿が、見えたらいいのに。
「露伴、いつもの部屋と、隣の部屋を使ってもいい?」
「あぁ、構わない。ただ、布団は干してないから、今日は団子になって寝てくれ。」
事前に連絡しなかったお陰で、ひとつのベッドですし詰めになって眠る羽目になってしまった。
「露伴先生。漫画描いてるとこ見たい。」
「あ、あぁ。いいぜ。こっちだ。」
人見知りをしない典親が露伴の手を握ってかわいらしくお願いすると、露伴がドギマギしながらも典親の手を引いて仕事部屋へと向かっていった。典明も念のため典親へ着いて行ったが、意外と子供に優しくできるじゃないか。
「初流乃、ここの部屋、典親と使って。布団は、明日外に干そうね。」
「はい…。あの、なまえさん。ありがとうございます。」
扉という扉を開けてテキパキと典親の荷解きをしていると、初流乃は荷解きの手を動かしながら、感謝の言葉を口にした。何に対する感謝だろうか?
「僕、お察しの通り親に優しくされた事がないんです。…だけどここ数日、たった数日ですけど、なまえさんと花京院さんに優しくしてもらえて…、なんて言ったらいいか分からないですが、胸の辺りが温かくて、ムズムズするんです。」
「初流乃…。」
本人の口から、親に優しくされた事がないなんて聞かされるとは。こんなに、こんなにもいい子なのに。
「初流乃。初流乃には、これからもっと愛情をあげるよ。私が実母と、聖子さんにもらった愛を、そのまま初流乃と典親に全部あげる。」
「愛情…。でも、僕はあなたの子じゃないのに…。」
申し訳なさそうに目を伏せた初流乃は、僅かに顔を曇らせた。初めて会った時の顔と同じ顔だった。
「私も、聖子さんの子じゃないけど?」
聖子さんの前で言うと怒られるので絶対に言えないが。
「それに、私は初流乃を自分の子だと思って育てる自信がある。」
「!」
初流乃はハッとして、私と視線を合わせた。安心させるように笑顔を浮かべると泣きそうな顔をするのできゅ、と優しく抱きしめた。子供はみんな、愛されなければいけない。愛情をもらえない子供なんて、いてはいけないのだ。