第3部 杜王町 その後の物語
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「母がすみません。いつもああなんです。」
汐華さんという女性とカフェで別れて初流乃と歩いていると、彼はそう謝罪の言葉を口にした。まだ13歳だというのに、落ち着いているししっかりしている。いや、しっかりしすぎている。
あの母親を見て育ったのだから、そうなってもおかしくはないのかもしれない。
「謝らなくていいよ。悪いのは初流乃じゃないんだし。」
しかし…承太郎になんと説明しようか。し、知り合いの子を預かったとでも言おうか。逆に言うとそれしか思い付かない。
「あの、名前を教えてもらってもいいですか?」
悶々とこの後の事を考えていて、きちんと挨拶をするのを忘れていた。彼女は、預け先予定の人の名さえ教えていないようだ。
「ごめん。私、みょうじなまえっていうの。こっちは…。」
つい典明を紹介しようとしてしまい口篭る。この子には、典明が見えているだろうかと。典明の方へ向けた手の先を初流乃は1度見て、軽く首を傾げている。という事は、典明の姿は見えていない。彼もスタンド使いではないのだろう。現時点では。彼はDIOの血を引いているはずだが、じきに発現するだろうか?
「初流乃は、霊だとか魂だとか、信じる?」
少し遠回しだが、初流乃にそう聞いてみる。信じないと言えば、典明の事は説明しなくてもいいかと思っての事だった。彼は私の言葉を聞いて、顎に手を当てて少し考える素振りを見せた。意外にも、真剣に考えてくれているみたいだ。
「どうでしょう?僕は見えた事がないので…。でも、見えるものが全てではないですし。」
「君…随分達観してるね…。」
とても13歳の言葉とは思えない。下手したら、私よりも大人な気がする。
「…私には、大切な人がいてね。10年前に、死んじゃったんだけど…。」
君のお父さんに殺されたんだけど、と言いそうになるのを堪えた。この子は、なにも悪くないのだから。悪いのは全てDIOだ。
「肉体は死んじゃったけど、魂だけは、私が…引き止めちゃって…。」
「…その、みょうじさんの大切な方の魂が、ここにいるんですか?この辺、ですか?」
初流乃はそう言いながら何もない空間を指さしている。彼は、信じてくれるらしい。
「私の事は、名前で呼んで。あと、彼は花京院典明(ノリアキ)っていうの。ここにいるよ。」
それまで黙って成り行きを見守っていた典明を紹介すると、彼は優しい顔で初流乃を見つめている。最初は反対していたが、素直でいい子なので典明も気に入ったみたいだ。
「花京院さん…かっこいい名前ですね。汐華初流乃です。よろしくお願いします。」
そう言いながら頭を下げているが、仕方がないとはいえ若干ズレている。なんだかかわいらしい。確かに面倒事ではあるが、預かったのがこの子で良かったかもしれない。
「はい…今、私と一緒にいます。……はい。1日そちらで…分かりました。」
SPW財団へと連絡しことの次第を話すと大層驚かれた。無理もない。あのDIOの残した子孫がいるなんて、誰が予想できただろうか。承太郎やジョセフさんにはまだ話さないでくれと念を押して電話を切ると、初流乃が居心地悪そうにこちらを見ているのに気がついた。自分の話をされているのが分かったのだろう。気遣いができて察しもいいらしい。
「初流乃、1日だけ、SPW財団のところへ行ってほしいんだけど…。あなたの、父親との血縁関係を確認したくて…。不安なら、私も一緒に行くから。」
嘘だ。私が心配なのだ。預かりますと言っておきながらすぐにSPW財団へ連れていくなんて、初流乃は不安だろうと、心配している。
「ありがとうございます。僕は、1人でも大丈夫ですよ。…ちゃんと迎えにきてくださいね。」
1人で大丈夫と言っているが、後に続いた言葉に胸がきゅんとした。年相応の反応が見られて、かわいいと思ってしまった。…彼女は、どうしてこんないい子を私に預けられたのだろうか?典親と同じくらい、素直でいい子じゃないか。
「必ず迎えに行くよ、初流乃。」
父親はとんでもない悪党で、母親はとんでもないクズだった初流乃。2年という期限付きではあるが、その間はしっかりと愛情を注いであげようと、心に誓った。
「くれぐれも、お願いしますね。」
初流乃には、SPW財団は私の働いているところだとしっかり説明して財団員へと引き渡した。財団員と軽く話して、承太郎へは、しばらくの間は話さない事になった。というより、私が頼み込んだのだが。承太郎は博士号を取るための研究や矢の調査に加えて、DIOの日記についても調査しているのだ。今はまだ、話さない方がいいだろう。DIOの息子が現れただけで、また戦いが始まるとは限らないのだし。承太郎達は明日には日本を発つので、タイミングも良かった。明日、承太郎達を空港へ見送ってから、迎えに来よう。
「じゃあ、明日また迎えにくるね。」
「はい。ありがとうございます。」
財団員と合流するまでの時間、美味しいものを食べてたくさんお話して、少しは警戒心も薄れただろうか?感謝を述べた彼の笑顔は、とても美しい。典明といい勝負である。この子の成長が、今から楽しみだ。
「やっと帰ってきたか。」
典明と空条邸へと戻ると、承太郎が庭で私達を出迎えた。出迎えたというか、典親とイギーと走り回っていたらしい。子供と犬の無限の体力に、さすがの承太郎も疲れた顔をしていて思わず笑いが漏れてしまった。
「すっかりおじさんだね、承太郎。」
「テメーと比べたらな。」
あと何年かしたら、親子に見えるかもしれないな、と思うと少し寂しくなるが、仕方のない事なので受け入れるしかない。それに、もし私も順調に歳を取っていけば、典明だけが17歳のまま取り残されてしまうと思うと、それはそれで嫌なのだ。
「典親〜!パパとママとも遊んでよ〜!」
「え〜僕、疲れちゃった。お絵描きしようよ。」
「いいね。僕も典親とお絵描きしたいな。」
やっと訪れた家族3人の時間。承太郎はなにか言いたげだったが、邪魔する事はしないだろうと、彼の視線に気付かないフリをして3人で居間に寝転んでお絵描きに勤しんだ。家を出る前はどうなる事かと思ったが、終わってみればなんて事ない。よその子ではあるが、とてもいい子だった初流乃と、2年間、一緒に暮らすだけなのだ。なんの心配もいらない。
心配があるとすれば…数日後に帰る場所が、岸辺露伴の家だという事だけだろうか。