第3部 杜王町 その後の物語
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部屋へ戻ったら案の定承太郎に尋問されたが、私は口を割らなかった。「も〜!なんでもないってば!しつこい!」と言ったら怪しんではいたが渋々引き下がったのでとりあえず一安心した。が、問題が問題なだけに、何ひとつ安心はできない。本当は、今すぐ放り投げて逃げてしまいたいが、このまま無視しても、彼女は電話をかけ続けてくる気がする。聖子さんには、迷惑をかけられない。
「今日は、承太郎さんと寝る。」
承太郎とジョセフさんと近所の銭湯から帰ってきたと思ったら、典親はそう言って承太郎の部屋へと行ってしまった。なぜあんなに懐いているのかと考えたが、そういえば出会ったばかりの頃の私もそうだった気がする。内面は意外と、典明よりも私に似ているのかもしれない。
「それで、さっきの電話はなんだったんだ?まさか僕にも隠すつもりじゃあないだろうな?」
典明がそう言いながら、いきなりズイ、と顔を近づけてきて、思わずキスされるかと思ってドキリとした。だが、話す内容は電話の件。典明には隠しても無駄だし話すつもりではいたが…厄介すぎて言いたくなくて、大きなため息が出る。そっと典明の胸に寄りかかって彼の匂いを吸い込んで心を落ち着かせ、ポツリポツリと今分かっている事を話し始めた。
「最近、私宛ての電話が、ここに頻繁にかかってきてたみたいで…。聖子さんが困ってたから、替わってもらったの…。」
そこで言葉を切ったら、続きを言うのも嫌すぎて口が動かなくなった。考えるのが嫌すぎるのだ。
「…なまえ、そんなに話しにくい事?」
「…違う…。口にするのも嫌な事…。考えたくもない…。」
せっかく大好きなここに大好きな人達と帰ってきたというのに、なんでこうも嫌な事が起きるのか。少しくらいゆっくりさせてほしい。
「考えるのは僕も手伝うよ。ほら、言ってみて。」
優しい声をかけられてぎゅ、と彼に抱きしめられると、少し頭痛が治まった気がする。ええい、言ってしまえ!
「DIOの子供を、預かってほしいって言われた。」
「……DIOの、子供……?」
久しぶりに聞いたDIOという名に、典明は戸惑って困惑している。私と同じ反応だ。DIOに、子供が…と呟く彼の顔は、眉間に皺が寄っている。
「それで…なんで君に連絡が?電話の相手は誰なんだ?なんで、君がDIOの子供を預かる事に…。」
「わ、かんない。彼女、酔っ払ってたから、明日また電話で話す事になってるの。」
典明が矢継ぎ早にした疑問は、私も思っていた事だ。なんで、私に連絡なんて…。
「なるほど…。これは確かに、口にするのも考えるのも嫌になるな…。」
典明は先程の私と同じく、頭を抱えて項垂れた。とりあえず明日電話してみて、事の次第によってはSPW財団に連絡しよう。現状、それしか考える事ができない。
典明に話した事で、彼女の言っていた事は私の中で受け止める事ができた。あくまで事実として理解できただけで、疑問だらけではあるが。
「次から次へと、面倒事を運んでくるな…君は。」
「私!?」
とても心外である。私のせいではなく、これはそもそもはDIOのせいなのに!死んでもなお忌々しい奴だ。
今日はもう寝よう。明日の私、がんばれ。
「えっ!?ここに!?」
次の日、お昼前には携帯電話の方に彼女から着信があった。外に出て電話を取ると彼女からだったのでホッとしたのだが、次に彼女が発した言葉に、思わず上のセリフが飛び出した。なんと、電話帳を見てこの家に向かっているというのだ。う、嘘だろ…破天荒がすぎる…!
「て、典明。ちょっとデートしない?」
ちょっと吃ってしまったが、比較的落ち着いて典明に声をかける。なんだと顔を上げた典明に携帯電話を見せるといつもの如く察してくれて、ス、と立ち上がり「そうだね。2人きりでゆっくりね。」と典親の頭を撫でた。本当は一緒にいたいのだが、今ばかりは連れていけないのだ。
「典親、帰ってきたら僕とも遊んでくれよ。」と名残惜しむように抱きしめて、私達は空条邸を後にした。私達家族の時間を邪魔しやがって…!今から会う汐華という女性に、様々な不満をぶつけてやる!と息巻いて、中間地点である待ち合わせ場所に向かった。
「みょうじ、なまえさん?」
待ち合わせ場所であるカフェでキョロキョロしていると、1人の女性に声をかけられた。彼女が、汐華さんか。綺麗な女性である。念のため典明が着いてきたが、彼女には典明が見えていないようだ。つまり、スタンド使いではない。
「それで、息子の初流乃を預かってほしいんです。」
席に着くなり彼女はそう話し出すので、思わずむせ返ってしまった。彼女…汐華さんは、昨日は酔っていたからとんでもない事を言っているのかと思ったのだが、あれは彼女の通常運転らしい。また頭が痛くなってくる。
「いや…そもそもなんで私?DIOとはなんの関係もないんですけど。」
もしかして、DIOと愛し合っているとか勘違いされているのだろうかと考え、思わず吐き気を覚えた。私は奴に、付き纏われていただけなのだ。
しかし彼女は、そんな事は分かっていると、他にDIO関連で知っている人がいないから私に連絡したのだと話した。要は、誰でもよかったと。それを聞いて私は、恐らく典明も思った。この女性は、思っていたよりもクズなのかもしれないと。
「私、イタリア人と再婚するのよ。再婚するのに、子供がいたら今さら断られるかもしれないじゃない?」と言葉を続ける彼女に、思わず頭を抱えてテーブルに顔を伏せた。そんな理由で、我が子をよく知りもしない他人に預けようとするなんて。
「アンタの名前は、DIOから直接聞いたのよ。アンタと同じ黒髪の日本人だからって、無理やり子供を作らされたのよ。そのおかげで、殺されずに済んだから良かったけど。」
「良かったって…!」
あまりの言いようについ口を挟んでしまったが、こういった人には、何を言っても響かない。いくら怒っても、言い聞かせても、無駄なのだ。こういう頭の悪い人だからこそ、DIOはそばに置いていたのだろうなと思った。
「分かりました。いつまで預かればいいですか?」
「なまえ!そんな簡単に…!!」
私の言葉を聞いて、典明が驚いて立ち上がる。相談もなしに決めたのだから当たり前だ。だけど、今さら撤回はできない。撤回しない。私は、彼女の子供をまともに成長させてあげたい。典親の事を聖子さんに任せきりにしている私が何を言っているのかと自分でも思うが、それでもこの人の元にいるよりはいいだろうと思うのだ。
「ほんとに!?助かる〜!」と喜ぶ彼女の声を聞いて、典明は口を引き結ぶ。今の彼女の言葉を聞いて典明も私の意図を理解し、再び黙って席に着いた。
「それで、いつ頃から預かればいい?」
できれば空条邸ではゆっくり過ごしたい。その後であれば杜王町に連れて行って、のびのびと暮らせるだろう。そう考えていたのだが、「あぁ、もう近くまで来てるはずよ。」と彼女があっけらかんとした態度で言うので「えっ?」と一言漏らして思考が停止した。もう、近くまで来てるって?近くって、ここの近くって事…?ちょっと、早まったかもしれない。
「あ、来た。初流乃!こっちこっち!」
「まじか…。」
とんでもない美少年が来た。そして、想定していたよりもだいぶ大きいのだが?
「あの、初流乃、くん?君、いくつ…?」
「13です。初流乃、でいいです。」
じ、じゅうさんさい。てっきり典親よりも年下かと思っていた。彼女が、私の代わりに子供を作らされたとか言うから…。私とDIOが出会う3年も前に、産まれているじゃないか!