第1部 M県S市杜王町
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あと20分。もうすぐ、杜王町に到着する。
その知らせを聞いていそいそと降りる支度をしていたら「みょうじさん、空条さんが向かって来ています。」と財団員に呼ばれた。承太郎が、向かって来ている?どういう状況かよく分からないが、一目見れば分かるかもしれない、と、とりあえず1人、外に出て前方を確認すると、1隻の小型クルーザーがこちらに向かって来ているところだった。
「クルーザー…?…!承太郎!」
そのクルーザーに乗っていたのは、承太郎と、1人の男の子。私は承太郎に向かって手を振った。
「おーーい!!承太郎ーー!!!」
波の音に掻き消されて消えてしまうだろうかと大声を張り上げた。その甲斐あって承太郎は私の存在に気づいたらしく、軽く右手を上げ、隣の男の子と何やら言葉を交わしている。
船に上がってきた承太郎は「なまえ。久しぶりだな。」と少し笑ってみせた。久しぶり。そう、久しぶりだ。同じ家に暮らしているというのに、全然帰ってこないのだ、この男は。
「もう!承太郎、会いたかった!」
役1ヶ月振りの再会に、私は承太郎をぎゅっと抱きしめた。寂しかった、という思いを込めて。
「悪かった。研究や仕事で忙しくてな。」
ポン、と私の頭に手を置いて謝罪の言葉を口にする承太郎は、大学に行ってから随分と変わってしまった。
いや、中学の頃から今の承太郎に成長したのに違和感はないから、高校時代が変わっていた期間だったのだろうか。なんにしても、高校時代の彼が、私に一番しっくりきていたので、あの時の彼がちょっとだけ恋しいと思ってしまう。
「はえー…キレーな子スね。承太郎さんの彼女さんスか?」
声の方を見ると、先程の男の子。制服を着ているところを見ると、高校生だったようだ。
「いや、友人のだ。」
言葉少なに返した承太郎に、私は体を離して頬を掻いた。
「いや、それじゃ誤解されちゃうでしょ。妹、でいいじゃない。」
承太郎の言い方だとまるで、友人の恋人と、友人に内緒で浮気しているようじゃないか。
承太郎の口下手には困ったものだ。
「億泰、到着まで、中にいるジジイのそばにいてくれ。俺は少し、なまえと話がある。」
承太郎の指示に、彼…億泰くんは素直に従い、船内へと入っていく。見た目はイカついけど、素直でめちゃめちゃいい子だ。ギャップがすごくかわいい。
「なまえ。少し顔色が悪い。最近眠れているのか?」
そう言って承太郎は、親指で私の頬を撫でた。典明もそうだったが承太郎も、自分の顔が良い事を自覚していない。私は承太郎の顔はタイプではないのでいいが、そこらの女の子は、こんな事をされたらイチコロだろう。他の誰かにしているのは、見たことがないが。
「眠れる時は眠るようにしてるけど…。睡眠時間は…4、5時間ってとこ、かな…。」
いくら波紋の呼吸を極めたからといって、全く睡眠を取らなくてもいい訳ではない。少しずつだが、疲れは蓄積されていく。間にスタンド関連の仕事もいくつかこなしていたため、疲れは確かに、蓄積していた。
「そうか…。ホテルに着いたら、少し眠るといい。」
そう言って彼は、ポン、と再び頭に手を置いた。その温もりに久しぶりに安心して少し落ち着いたと同時に、背中にも微かな温もりを感じた。
「花京院。久しぶりだな。」
「典明。どうしたの?」
承太郎の彼への挨拶もそこそこに、彼は静かにどこかを指さしている。そちらへ視線を向けるるも、何もない。船室の向こう側を指しているようだ。
承太郎と顔を見合わせて船首から向こう側へ回り込むと、SPW財団の制服に身を包んだ男が船室へ入ろうとしているところだった。
その男は私達に気づいてペコ、と頭を下げたが…私はその男に近づいていき、腕を強く掴みとった。
「ウッ…!な、なにを」
「貴方、誰?SPW財団の人間じゃないでしょう。」
グイ、と男をドアから引き剥がし、開きかけていたドアを閉めると、男は何が起きたか分からない様子で「あ、あれ…?」と辺りを見回している。
承太郎にチラリと視線を送ると、驚いた表情を浮かべて「ソイツをジジイに近づけるな!」と。なるほど、敵らしい。
「クソッ!」私に掴まれたままの腕を外そうと、男がもがいているが、私はそのまま腕をへし折った。
そのまま、痛みで叫んでいる男の頬へ右ストレートを打つと叫び声は止まった。気絶したようだ。
「承太郎、どうする?足も折って海に捨てる?それとも拘束する?」
承太郎にこの後の指示を仰ぐと、彼は1度ため息を吐き、「…殺すなよ、拘束だ。」と。
「はーい。」
あと数分もすれば、陸地に着くだろう。ちょっとした騒ぎに財団員が駆けつけてきてくれたので軽く事情を話し、拘束と監視を、と頼んだ。
そして船首にいる承太郎の元へと向かうと、彼の視線の先には男の子が2人。彼らも高校生のようだ。
「あの大きい方が、ジジイの隠し子、東方仗助だ。」
「東方仗助…ジョセフさんの、隠し子……隠し子!!!??」
初めて聞いた事実に驚いて大声を上げると、承太郎は「言ってなかったか?」と彼も驚いた表情を浮かべていた。
「聞いてない!」
承太郎に詰め寄ると彼はそもそもの経緯を語り始めたが……頭では理解したが、気持ちは、心は、複雑な気持ちでいっぱいだった。尊敬していたのに…ジョセフさん…!!
隣の典明もさすがに驚いたようで、口に手を当てて驚いた表情を浮かべていたのであった。