第2部 杜王町の殺人鬼
name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「すればいいだろう。結婚。」
ほのぼのとした空気をぶち壊す、承太郎の一言。先程とは違う意味で、部屋は沈黙に包まれた。結婚。いくらお互い永遠の愛を誓っていようとも、典明にはもう、戸籍はない。したくてもできないのだ。
「確かに。結婚式くらいはできるだろう。」
承太郎の言葉に同意するように、露伴が口を開く。結婚式…そうか、籍を入れることはできなくとも、式を挙げるだけならば可能かもしれない。
「典明…私と結婚してくれる?」
断らないだろうと確信を持ってそう問うと、彼は意外にも眉間に皺を寄せて微妙な顔をしている。
「君…そういうのは僕に言わせてくれないか?」と言う典明に、思わず口を抑えた。何も考えずに言ってしまった。
「結婚、か…。君が、形式的なものでも構わないと言ってくれるなら…僕も君と、結婚したい。戸籍上は一緒になれなくても、神様の前で永遠の愛を誓わせてほしい。」
私が言ったのとは大違いで、典明はまた私をドキドキさせる言葉を口にする。私ばっかりいつもドキドキさせられていている。
「典明、私も、典明と結婚できるなら結婚したい。もしも、神様が許してくれなくても、典明に誓うよ。」
私が言えるのは、これくらい。ぎゅ、と典明を抱きしめると「はは、なまえ、すごいドキドキしてる。」と彼は笑っているが、ドキドキさせているのは典明だ。私の好きをどんどん更新させていく典明が恐ろしい。
「え、するんですか?結婚式。」
康一くんのその一言を皮切りに、部屋内の空気がまた緩んだのが分かった。みんなの祝福ムードでいっぱいである。
「そのうち、だな。しばらくは俺もなまえも忙しい。」
その言葉を聞いて、少し憂鬱になる。事件に関する後始末が待っていると思うと頭が痛い。それに、来年の個展の準備もある。最近創作に割く時間がなくて途中で止まってしまっている。本当に、考えると頭が痛い。
「あと半年は、杜王町にいようかな…。」
「鈴美さん!行っちゃうって本当ですか!?」
鈴美ちゃんがこの世に残った元凶である吉良吉影が死んだ事で、杉本鈴美が成仏する可能性があるのではと思い当たり全員でオーソン前までやってくると、やはり成仏するみたいだ。心残りはもうないという事になる。寂しいが、喜ばしい事である。成仏してしまう前に顔が見られて良かった。康一くんが彼女を引き止めているが、彼女は残るつもりはないらしい。思わず典明の手をぎゅ、と握った。
「露伴ちゃん、あたしがいなくなったら、寂しいって泣くかしら?」
鈴美ちゃんも寂しいだろうに、あえて明るく露伴へ問うが、彼は「フン。バカ言えよ。どうして僕が寂しがるんだ?君は15年も前に既に死んでいるんだぜ?」と減らず口を叩いている。素直じゃない。天邪鬼にも程がある。
「露伴〜。あとで後悔しても知らないんだからね〜。」
康一くんと一緒にじと〜、と視線を送って、典明の寂しそうな微笑みを見て、露伴はとうとう折れて「あぁ、分かったよ!最後だから本心を言ってやる!寂しいよ!僕だって行ってほしくないさ!」と顔を背けながらではあったが本心を口にした。よかった…ちゃんと伝えられて。鈴美ちゃんも本心が聞けて嬉しそうに顔を綻ばせている。
「終わったのね、鈴美さん。」
「由花子さん。間田さん達まで…!」
オーソン前に、再び杜王町にいるスタンド使いが勢揃いした。みんな、鈴美ちゃんの事が心配だったのだ。
「みんな…。」と涙を浮かべる彼女の顔を見て、私も涙が出そうになるのを我慢した。笑顔で、見送らなくては。
ポタ、と地面に零れた鈴美ちゃんの涙から、光が溢れだし、やがて体が浮き上がっていく。アーノルドと一緒に。本当に、行ってしまう…。
「アンタの事は、ここにいる誰もが、忘れはしないじゃろう。」
ジョセフさんの言葉に、とうとう涙が零れた。そうだ、忘れはしない。絶対に。
「ありがとう、みんな。…さようなら、みんな。」
鈴美ちゃんは最後にそう言葉を残し、空へと上っていった。姿が見えなくなっても、みんなしばらくの間、彼女のいた空から目が離せなかった。来世ではきっと、幸せになってほしい。幸せになるようにと、ここにいるみんなが願っている。
「見送りはいいよ、露伴。」
吉良吉影を倒し、鈴美ちゃんを見送った数日後、私は岸辺邸をあとにするために典明と玄関先にいた。露伴がなにか言いたげにしているが、天邪鬼な彼はこちらからなにか言葉をかけなければ話はしないだろう。手のかかる大人である。
「露伴。また戻ってくるから。」
そう。ジョセフさんと承太郎と、1度、空条邸へ行くだけなのだ。2人はその後アメリカへ帰るが、私はまた、岸辺邸へ戻ってくる。露伴もそれを分かっているはずなのだが。
「分かってはいるが、寂しいもんは寂しい。悪いか?」
悪いか?は照れ隠しで言ったのだろう。本当に、素直に話せないのか、露伴は。
「ふ…。1ヶ月、毎日一緒に暮らしてたんだ。この広い家に1人になると考えたら、そりゃあ寂しくもなるだろう。」
典明のフォローの言葉に、確かにと納得してしまった。私はいつも典明が必ずそばにいるが、露伴は完全に1人になるのだ。今となっては想像ができないが、この家に1人でいると、確かに寂しいだろう。
「意外と寂しがり屋なのね、露伴。かわいい。」
ヨシヨシと頭を撫でると特に抵抗もせず「なんとでも言え。」とだけ吐き捨てるのがまたかわいくてぎゅ、と正面から抱きしめると、やや間を置いて露伴もぎこちなく抱きしめ返してくる。…素直な露伴はかわいい。
「じゃあね、露伴。いってきます。」
「……いってらっしゃい。」
言葉少なに別れの挨拶を済ませて玄関を出ると、露伴の顔はもういつも通りに戻っていた。これで、安心して行ける。隣に立つ典明の手を取って、私達は歩き出す。また、戻ってくる。必ず。
見上げた空は、雲ひとつない快晴だ。
杜王町に平和が戻ってくると思うと清々しい気持ちで、私の足取りは軽くなったのであった。
-To be continued…