第2部 杜王町の殺人鬼
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仗助の説明を聞いて、私は考えた。未起隆が怪我をしているのが遠目から見ても分かる。すぐにでも向かいたいのは山々だが、まずは典明の意見を聞いてからだ。
「なまえ。未起隆はどうやら、右手を3本のボルトで打ち付けられているらしい。君はあのボルト、何秒で抜ける?」
3本のボルト。それが手に刺さって貫通しているなんて、考えただけで痛い。
「3…いや、1秒あれば。」
2秒あれば絶対に抜ける。典明が速く抜けと言うのなら1秒だって余裕だ。
「すごいな。じゃあ、君が中に入って、最速で未起隆を外に出すんだ。いいね、最速だ。」
「分かった!」
衝撃が返ってくるよりも速く、鉄塔内を飛び回って未起隆の元まで来た。ここまでで2秒程だろうか。クイーンの能力でボルトを掴むと、案外深く刺さっているようだが難なく引き抜き、衝撃波も華麗に避けて鉄塔の外へと出た。ついでに本体にも、蹴りを一発。
「大丈夫?未起隆。」
「…貴方…お強いんですね。」
呆気に取られたような顔で、未起隆はそう言った。この反応は、結構久しぶりだ。
「素敵な人ですね。好きになってしまいそうです。」
「えっ。」
タッ、と着地して仗助の元に連れていき、未起隆の怪我を治してもらって一息ついた。最速で解決したのは、典明のおかげだ。
「ありがとう、未起隆。でも私、典明にずーっと恋してるの。今もね。」
ぎゅ、と典明を抱きしめると、彼は何が何だか分からない、といった顔で私と未起隆を交互に見て「?ありがとう、僕もだよ。」と抱き締め返してくれた。やだもう。大好き。
「はは、そのようですね。お2人の絆の強さ、憧れます。」
絆の強さ。まだ会って間もないのに、未起隆には分かるのだろうか?やっぱり、宇宙人だから?とても不思議な子である。
「康一くんが…!?」
鉄塔の男が話した内容に、私達は顔を見合わせた。康一くんが、何者かの襲撃を受けたらしい。そして、吉良吉影の父親が、派手に動き回っているようだとも。これからは、向こうから仕掛けてくるらしい。
「…君達は、康一くんの手がかりを探してほしい…。敵を見つけても、追いかけちゃダメよ。すぐに承太郎か私に知らせて。承太郎からは、私から連絡するから。」
それだけ指示をして、私達は解散した。1度家に帰って、露伴に会わなくては。なんだか嫌な予感がして、心配だ。
「露伴!」
バン!と勢いよく玄関のドアを開けると、中から大きな物音が響いた。書斎の方からだ。
「露伴?無事?どこにいるの?」
声を掛けながら廊下を進んでいくと、やはり彼は書斎にいたようで、中から「なまえさん!?」と声が聞こえてきた。何やら焦ったような声だったが、ひとまず無事を確認できてホッとした。
「待ってくれ。色々あって、僕はいま、スタンド攻撃を受けている。迂闊に近寄らないでくれ。」
ドアを開けようとしたところで、露伴にそう制止された。スタンド攻撃だって?やはり、露伴の元にも敵が向かっていたのか。
「先に敵スタンドの説明がしたい。そのまま聞いてくれ。」
露伴がそう言って話し出したのは、敵スタンドの能力について。今、露伴の背中には何かがくっついていて、誰かが露伴の背中を見ると彼は死んでしまい、今背中にいる何かは背中を見た人物に乗り移る、というものらしい。確かに、これは事前に知っておいた方が良い情報だ。
「よし、中に入ってきてくれ。」
露伴の声に従い中へ入ると、彼は壁に背をつけて立っていた。机の上には、露伴が駅で撮った写真が広げられている。
「このアルバム…僕の背中にいる奴が、しきりに燃やせと言ってくるんだ。恐らくこの中に、吉良吉影が写っているはずだ。」
「!」
そういう事か。だから露伴のところへ、刺客がやってきたのだ。
「露伴。とりあえず、背中のソイツを取り除こう。そこから動かないで。」
「何ッ!?一体、どうやって…!」
露伴へと近づき、トン、と胸に手を置いた。こんな時になんだが、やっぱり、いい体つきだと思った。
「露伴、私のスタンド能力、見た事なかったっけ?」
私のクイーンの能力は、掴む能力だ。掴む物、掴めない物を任意で選ぶ事ができるのだ。
「大丈夫。痛くないから、動かないでね。」
胸に置いた手が露伴の体の中へ入っていき、やがて奴の体を掴んだ。よく見えないが、露伴の背中を掴んでジタバタしているので奴の両手を掴んで腕を引っこ抜いた。
私達には聞こえないが、奴の悲鳴が聞こえたのであろう露伴は眉間に皺を寄せている。早く終わらせてあげようと手の中にあるものを握り潰すと、感触がなくなったのが分かったので、あっけないが、恐らく倒せたのだろう。
「どう?露伴。まだいる?」
一応背中を見ないようにと、クイーンの能力を解除して露伴の背に腕を回して摩ってみるが、何もいないようではある。
「いや…声は聞こえなくなった…。恐らく、倒した。と、思う。」
歯切れが悪いが、背中を見たら死ぬのだ。もしも黙ってタイミングを図っているだけだと思うと、怖くて確認ができない。
「どうしよう露伴!怖くて確認できない!」
「待て、落ち着け!とにかく一旦離れろ!」
怖くて思わず露伴に抱きつくと、彼は離れろと私の顔を遠慮なしに押してくる。嘘だろ、この男。私の事が好きだと言っていたのに、好きな子に抱きしめられているというのに、こんなに遠慮なく顔を押して引き剥がそうとする?普通!
「ふ、ッはは!大丈夫。もういないよ。」
楽しそうに笑う典明の声に彼の方を見るとハイエロファントが触手を伸ばしていて、露伴の背中をくまなく確認したというので私はやっと露伴から体を離した。押された顔や首が痛いし、典明はノホホ、と未だに笑い続けている。
「典明…笑いすぎじゃない?」
もしかして、露伴に顔を押されて不細工になっていただろうか?私も怖くて必死だったし酷い顔だったかもしれない。だが典明に聞くと「いや?君はいつも通りかわいかったよ。」と言うので安心した。単純に私達の慌てっぷりに笑っていたようだ。
「ハァ…奴を引き剥がしてくれた事には感謝する。ありがとう。」
露伴はため息をつきながらもそう感謝を述べて、改めてアルバムを見た。私の顔を遠慮なく押した事に対しての謝罪もしてほしかったのだが⋯露伴に倣って私達もアルバムに視線を移すと、子供の名前が書いてある写真が目に止まった。
「ねぇ、この写真⋯露伴は気になってるの?」
そう彼に尋ねると「あぁ、なんとなくだが。」とはっきりとしない答えが返ってくる。だが、私も気になる。
「ねぇ、典明。」
典明を見て、川尻早人、そして川尻浩作の名前を指でなぞった。それだけで意図が伝わったらしい典明が前屈みに写真を覗き込んで、「これは⋯。」と声を漏らすので、私もよく見えるように顔を近づけた。
「爪。男にしては長くないか?」
典明の声に手に注目すると、確かに男の人にしては長い爪をしている。ただ伸ばしっぱなしにしているだけかもしれないが、伸びた部分は5ミリはありそうだ。吉良吉影は、爪が伸びるのが早いという情報が共有されている。まだ疑わしい、というだけだが、警戒はしていても良さそうである。
「明日、川尻早人に話を聞きに行こうと思う。僕は康一くんに連絡するから、承太郎さんにも連絡しておいてくれるか?」
「明日ね、分かった。⋯露伴だけじゃ警戒されるかもしれないから、私も行くよ。」
露伴が子供嫌いなのは見て分かる。子供と会話するのもきっと下手だろうと思い、私も同行する事にした。
仗助達も一緒に行くらしいが、康一くんはともかく仗助と億泰は見た目が怖いので心配なのだ。
みんな、典明や未起隆のように優しい紳士だったらいいのに。
承太郎へも連絡して、私達は明日の朝8時半、ペプシの看板のある交差点で待ち合わせた。