第2部 杜王町の殺人鬼
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「おはよう露伴。…なーに?まだ拗ねてるの?」
昨日あの後怒って自分の部屋に行ってしまった露伴。昨日とは違い私よりも先に起きていたので挨拶をしたのだが、ジロリと睨まれて無視されてしまった。
「そういうところがかわいいんだよね、露伴は。」
「かわっ…!子供扱いするんじゃあない!」
昨日怒っていた内容とは違う事で怒っているような気がするのだが…。
「子供扱いしてないよ。だって私、典明の事もかわいいって言うよ。ね。」
同意を求めた典明は、ただ眉間に皺を寄せてこちらを横目で睨んでいる。無言の同意だ。
「君のかわいいの基準が分からない…。」
「それには全く同意だな。」
露伴の言葉に典明はうんうん、と同意を示している。典明だって昨日、露伴の事を意外とかわいい、って言っていたはずなのに!
「今日は、この家のリフォームに関する相談をするから、僕は1日家にいるよ。あぁ、向こうの丘の方、向日葵が満開らしいぞ。カメラを貸すから、資料用に何枚か撮ってきてくれ。」
テーブルに置いてあった新聞をバサ、と広げて、露伴は私達に見えるようにしてくれた。…本当だ、今が見頃みたい。向日葵畑にいる典明も綺麗だろうな。
「ありがとう、露伴。ご飯食べたら行ってくるね。」
素直に感謝を述べたのに、露伴は「別に。」と未だ拗ねた顔をしているのがかわいくて、思わず笑ってしまいそうになるのを耐えた。しかしそこで、露伴の拗ねている顔が典明の「かわいい」と言われて拗ねている顔と重なってしまい、2人ともかわいい…と思った瞬間、堪えきれなくてふ…と声が漏れてしまった。
チラ、と視線を上げると露伴だけでなく典明も眉間に皺を寄せてじろりと睨んでいて、今度は2人が似てきている事に笑ってしまった。しかし、なぜ典明まで。本当に、私の心が読めるのか?と最近本気で考えている。
「典明、向日葵も似合うなんて…!」
写真にその姿を捉えられないのが本当に惜しい…!聖子さんのスタンド能力であれば、典明の姿を写真に残せるのに…!!
「あれェ?なまえちゃんか?」
名前を呼ばれて振り返ると、仗助と億泰、そして初めて会う子が一緒に歩いてくるのが確認できた。背が高くてイケメンだ。
「君達ここで何してるの?ふふ、典明と違って、向日葵が似合わないのね。そっちの子は?」
2人に紹介を求めると、彼は支倉未起隆というらしく、自称宇宙人だと言っている。
「えっ宇宙人なの?すごい!どうして早く紹介してくれなかったの?」
私のその言葉に、仗助と億泰は驚いて言葉を失っている。という事は、信じてはいないのだろう。失礼な奴らだな!典明を見ると、愛おしそうな視線を私に向けていたのでドキリと心臓が跳ねた。
「ありがとうございます。信じてくれるのですね、嬉しいです。」
未起隆は嬉しそうに私の手を取って微笑んでいる。こ、この子…!
「し、紳士…王子様だ…!」
典明以来、初めて見た紳士。私は紳士に弱い。というか、王子様に弱い。この子は紛れもなく、王子様みたいな子だ。
「なまえ。よそ見したらダメじゃあないか。」
そっと、典明の手が後ろから現れて私の目を隠した。右手は彼の右手で握られていて、すぐ後ろから聞こえる彼の声に、心臓がドキドキとうるさい。
「おや、すみません。既に心に決めた方がおられたのですね。軽率に触れてしまって申し訳ありません。」
典明の指の隙間から、未起隆が恭しく頭を下げる姿が見える。本当に、典明ぐらい礼儀正しい。
「君は、僕が見えるのか?スタンド使い?」
「いえ、スタンド使いではありません。スタンド使いでないと、貴方の姿は見えないのですか?」
典明の言葉に、未起隆は不思議そうに首を傾げている。億泰はそんな未起隆に「そうだぜ。花京院さんが見えるっつー事は、やっぱりスタンド使いって事だろ?」と偉そうに言っているが、違うのだ。
「典明は…彼は、幽霊なの。魂だけの存在。スタンド使いじゃなくても、霊感がある人には見えるよ。」
仗助や億泰には今まで言っていなかったから、間違えて認識していても無理はない。2人とも今の今までスタンド使いにしか見えないと思い込んでいたので、驚いた顔をしている。
「で、君達はここで何してるの?向日葵を見に来たって感じじゃなさそうだけど。」
先程の質問をもう一度すると、彼らは思い出したかのように丘の上にある鉄塔を指さした。何やら洗濯物や、家具なんかが見えるが、あの鉄塔にスタンド使いがいるのが見えたというのだ。ちなみに彼らは普通に今から学校に行くところだったらしい。学校の通学路だったのか。
未起隆が双眼鏡に姿を変えて「よく見てみてください。」と言うので、驚きつつも覗いてみると、確かに男が1人いる。なんならこちらに気がついて手を振っている。
「ふーん…。放っておいても良さそうだけど。」
奴からは敵意は感じられない。スタンド使いといっても、みんながみんな敵ではないのだ。向かってくるわけでないのなら、関わらないのが1番いい。
「そうだね。行くというのなら、止めはしないよ。呼んでくれればすぐに行くけど、僕らは今、デートで忙しいんだ。」
そう言って典明は、私の手を取って彼らに背を向けて歩き出した。最近、前にも増して典明がかっこよすぎて困る。ぎゅ、と典明の腕に自分の腕を絡めて「じゃ、そういう事だから。何かあったら呼んで。」と私も歩き出した。後ろから仗助の「まじかよ…。」という声が聞こえたが、聞こえないふりをした。
「典明、最近ますますかっこいいよね…。10年も一緒にいて、未だにドキドキする事ある?」
写真を数枚撮ってから、その辺に腰掛けてスケッチブックに典明と向日葵をスケッチしていく。雑談として話すのは、私が最近思っている事だった。
「ありがとう。君もずっとかわいいし、年々綺麗になってるよ。」
年々綺麗に…。その言葉を、私は素直に喜べなかった。人よりは遅いが、私は歳をとっていく。典明はずっと、17歳のままなのに。対して承太郎は、もうすっかり大人の男の人になってしまった。もうすぐオジサンと呼ばれてもおかしくない。あの頃はみんな、たった1歳差だったのに、と寂しい気持ちになってしまうのだ。
「なまえ?どうかした?」
黙ってしまった私を心配して、典明は目の前にしゃがんで目線を合わせた。彼の藤色の瞳の中に、向日葵が綺麗に映っているのが見える。
「典明…。私、歳を取りたくない。典明と一緒がいい…。」
小さい声でそう言うと、典明は寂しそうに、困ったように笑った。彼を、困らせたくはないのに。
「僕は、君と一緒に歳を取りたかったよ。」
典明が伸ばした手が頬にくっついて、親指でスリ、と撫でるので涙が出ているのかと思ったが違った。ただ、慰めようとしてくれているだけだ。
「ふふ…。最初は、ただいてくれるだけでいいと思ってたのに…どんどん、欲が出てきちゃうね。」
お返しに手の甲で頬を撫でると、典明の方からスリスリと寄ってきて、かわいい、と思ってしまった。
「そうだね…だんだん、できる事も増えてきたし。そのうち、体も戻ってきたりしてね。」
考え出したら、キリがない。人間というのは本当に愚かだ。ひとつ願いが叶うと、また新たな願いが生まれてくる。欲が出てきてしまう。
「そうだといいな…。私、典明の匂い大好きだから。」
「ふふ、そうだね。」
なんだか、しんみりとしてしまった。向日葵畑があまりにも綺麗だったからだろうか?
どちらともなく触れるだけのキスをして笑いあっていると、鉄塔の方から「なまえさん!」と仗助が私を呼ぶ声が聞こえた。私達を呼ぶほどの、何かがあったのだ。
「行こう、典明。」
先に地面を蹴って飛び上がると、ハイエロファントの触手が腕に巻きついて、典明もちゃんとついてきているのが確認できた。
とにかく今は、何があったのか、現状把握をしなくては、と、問題の鉄塔目掛けて跳躍をした。