第2部 杜王町の殺人鬼
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「…おはよう。意外と早起きだな。」
朝、典明と朝食の支度をしていたらどう見ても寝不足の露伴が部屋から降りてきた。おはよう、と振り返って露伴の姿を視界に入れた瞬間、私は思わず思考が停止した。だって、だって…!
「ろ、露伴…ヘアバンドは…!?」
そういえば露伴はいつも私達より先に起きて、私達より後にお風呂に入る。寝る時はさすがに外しているだろうとは思っていたが、髪を下ろしている姿は初めて見る。典明も僅かに目を見開いているのが分かる。
「ヘアバンド?あぁ、今日はまだ着けてないな。…それがどうかしたか?」
どうかしたか、じゃない。どうしたもこうしたもない。
「露伴…!ヘアバンド着けない方がイケメンじゃない!かっこいい!!典明の次くらいにはかっこいいよ!」
髪型でここまで変わるものかと驚いたが、そういえば典明もあの横髪がないと男らしい印象に見えたのを思い出した。
「そうか?それは光栄だな。けど、漫画を描く時に邪魔になるんだ。」
本人は気にしていない様子で欠伸をしてテーブルへついている。本当に、イケメンはイケメンである自覚がないものなんだなと呆れてしまった。
「露伴、漫画描く時以外はそのままでいたらいいのに…勿体ない。」
「…そんなにか?」
私がしつこく推すのでからかっているのかと疑っているようで、私ではなく典明へと視線を向けた。
「あぁ、なまえが君に目移りするんじゃないかって心配だよ。」
?目移り?そんな事はありえない。顔で選んでいるわけではないが、私は典明の顔が世界で一番好きなのだ。いくら露伴が美しかろうと、典明には敵わない。
「…目移りの心配はなさそうだぞ。」
「はは、そうだな。」
露伴は私を見て呆れた顔で出された朝食に手をつけた。典明は柔らかい笑みで幸せそうにしているし、話が噛み合っているのか疑問である。
「いってきます。露伴、ゆっくり休んでね。」
午後、ぶどうヶ丘高校へ向かうために玄関を出ると露伴が見送りに来てくれた。この後睡眠をとると言ってヘアバンドは外しているので、少し幼くてかわいい。
「あぁ、楽しんでくるといい。」
相手が仗助という事で本心では思っていないのだろう。楽しんでこいという割には眉間に皺が寄っている。
「ふふ、今度は露伴もやろうね。」
わしゃわしゃと頭を撫でると驚いて抗議の声を上げるので、そのまま逃げるように背を向けて走り去った。
「アレがないと露伴の奴も、意外とかわいいんだな。」
典明が意外そうに顎に手を当てて先程の露伴の姿を思い出しているようだ。典明が露伴をかわいいと言うことの方が意外だと思うのだが…。
「ふふ。典明も、ここの髪の毛がないと男らしさ3割増なんだよ。」
小声でそう教えると彼は横髪を手で隠して「こう?」と微笑むので「うっ…!!」と呻いて心臓を抑えて蹲った。典明は楽しそうに笑ってるが、あまりにかっこよすぎて心臓が持たない。
「そんなに好きなら、切ろうかな。」
切れるかは分からないけど、と彼は横髪を指で弄ってなんて事ないように言ってのける。
「だ、だめ…!私、典明のしっぽ、好きなの…!」
「しっぽ…。」
しまった、しっぽみたいだと思ったのを言ってしまった。だけど、そのしっぽみたいな髪の毛は、大事なのだ。それを、私が1度、無いとかっこいいと言っただけで切ろうとするなんて…!
あれは彼の優雅さと美しさを倍増させているのだ。たまに風に靡く柔らかい横髪が、私は大好きなのだ。
あまりに必死に彼の腕を掴んでいたら、やがて「はは。大丈夫、切らないよ。」と楽しそうに笑ったので、私はホッとひと息ついた。
チラ、と典明が視線を辺りに向けたので私も視線を巡らせると、通行人がチラチラと私を見ている。一般人には典明が見えない。私が1人で騒いでいるように見えただろう。完全に不審者だ。
「ちょっと急ごうか。」
典明が腕を引いて先を促すので、私は学校へ向かって走り出した。そろそろ、放課後のチャイムが鳴るだろう。
「いや、間に合ってます。あっち行って。」
校門前に着いて典明とあれやこれやと話していたら、校門から出てきた子達に何度も声を掛けられた。いわゆるナンパというやつだろうそれは、断っても断っても、人が変わるだけでうんざりしてきた。
「私、もう心に決めた人がいるの。他を当たってくれる?」
典明は先程から強く私を抱きしめて威嚇しているので、最初はかわいいなぁ、と思えていたが…さすがにうんざりしてきた。
「スンマセン、なまえさん!お待たせしました!」
そろそろ手が出そうになってきた頃、仗助は億泰くんを引き連れてやっと校門から出てきた。先生に捕まったという仗助は申し訳なさそうに頭を下げるので仕方がない。
「ハァーー。早く行こ。」
「えっ、ちょっと待っ」
早くこの場から立ち去りたい一心で、いつかのように2人を両側に抱き上げて空へと飛び上がった。典明はハイエロファントを巻き付けてちゃんとついてきている。
タン、と適当な道へ着地して2人を下ろすと、揃って大きく息を吐いた。そんなに辛かっただろうかと少し申し訳なく思ったが、私を待たせた罰である。
「2人とも、早く行こ。典明がゲームする時間が減っちゃうじゃない。」
スタスタと歩き出す私の背中に、仗助は「グ、グレート…!」と一言言って、なんとか体を動かしてついてきた。億泰くんもそれを見て無理やり体を動かしてついてくるので、なんだか舎弟でも持った気分になってしまった。
仗助の家に行くとちょうど帰ってきたらしい彼の母 東方朋子と遭遇して少しばかり緊張してしまった。こ、この人がジョセフさんの…と考えてしまったのだ。
「えっ!?まさか仗助の彼女!?」
と、当たり前の反応を示す彼女に、私は身分証と左手の指輪を見せて「安心してください。私には、もう心に決めた人がいるんです。」と説明したら生年で驚かれた。26歳と高校生が家にいるのも良くないかと思ったので、画家のみょうじ なまえである事も明かすと、テンションが上がった彼女にサインを求められたので"Tenmei"の簡易イラストと共にサインを書いて事なきを得た。
「大事にするわ!ありがとう。ごゆっくり〜。」
満足そうに部屋を出ていく彼女を見送って、私はため息を吐いた。き、緊張した。私がジョセフさんと関わりがある事がバレると面倒なのだ。承太郎とも苗字が違うので、養子に入っていなくて良かったと心から思った。
「どのゲームにするか決めた?」
仗助が2人でできるゲームを寄せてくれていたため、その中から選べばいいだけだ。息を整えて典明を見ると、私を見てニコ、と微笑んだ。
「あ…。」
彼が指さしたのはF-MEGA 5。テレンスとの戦いでやっていたゲームだ。あの時の典明、かっこよかったな…と懐かしく思った。
「まずは2、3回、練習させてくれ。」
「いいっスよ、どうぞ。」
仗助は当たり前のようにゲームをセットして、体を貸してくれた。昨日事前に話していたので、心の準備ができていたらしい。
「なるほど、ここにトラップがあるのか…。」
ゲーム画面を見つめる典明の横顔が真剣そのもので、かっこよくて思わずガン見していたら「なまえちゃん、見すぎじゃねぇ?」と億泰に呆れた顔をされてしまった。ゲーム中の典明の横顔はとてもかっこいいのに、他の人には仗助にしか見えないのがとても悔しい。
「よし、もう覚えた。どっちが相手してくれる?」
仗助の体から出た典明は、挑発的に2人を見た。か、かっこいい…!!好き…!!
「2人とも、典明に勝てたらお小遣いあげる。1回勝ったら1万円ね。」
先程のプレイを見た感じ、本当にコースを覚えるためだけにやっていたようだ。この子達のやる気を出させるためにも、お小遣いを餌にして典明を楽しませてもらおう。
「マジっすか!?俺やります!」
いち早く反応したのは仗助だった。最近露伴のところにお小遣い稼ぎをしにきていたので、本当にお金が欲しいのだろう。
「なまえ、君の体を借りてもいいかい?君の体が、1番馴染むんだ。」
それは、魂が混ざりあっているからだろうと予想できる。典明がプレイしているところを見たかったのだが、仕方がない。「いいよ。」と了承すると、典明は嬉しそうに私の中へ入ってきた。自分の意思とは関係なく体が動くが、それ以外はいつもとあまり変わらない。目の前で起こっている出来事が、夢を見ているようだ。
「まじかよ花京院さん…。か、勝てねぇ…!」
1レース終えた仗助は、完敗して頭を抱えているので、思わず笑ってしまった。
「仗助ェ!つ、次は俺が…!」
億泰が仗助の仇を取ろうと善戦するも、やっぱり典明には勝てなくて2人とも悔しがっている。典明はとても楽しそうで、本当に来てよかったと思った。
次はこのゲーム!こっちも!と色々なゲームをしていたら、空が夕焼けになっているのに気がついた。部屋の時計を見ると、もう6時を過ぎている。
「やば、露伴のご飯!」
バッと立ち上がると、典明が押し出されて外へ出てきた。
「あっ!」
テレビ画面を見ると、典明が負けてしまった。コントローラーを離してしまったのだ。
「こ、これは、勝ちでいいッスよね…!?」
仗助が私と典明にそう懇願してくるので、思わず2人で声を上げて笑ってしまった。「いいよ。はい、お小遣い。」と2人分渡してあげると泣いて喜んでいた。
「もうこんな時間か…残念だな。」
典明が本当に残念そうに呟くので、心が痛む。
「今度お休みの時に、泊まりでゲームしよ。…露伴の家だけど。」
私の提案に、仗助と億泰は少し微妙な顔を見せたが、「そッスね!やりましょう!」と言ってもらえて安心した。典明も嬉しそうだ。
「お邪魔しました。うるさくしてすみません。」
きちんと朋子さんにも挨拶をして外に出ると、東の空は既に暗くなり始めている。億泰も一緒に外へ出ると「今から飯作るのめんどくせぇなぁー。」とぼやくので「億泰、自炊してるの!?」と驚いた。聞くとお父さんがあの状態なのでそうするしかないと言うので、少しだけ、昔の自分に姿が重なった。
「億泰…今日は一緒に、出前でも食べよ。典明と遊んでくれたお礼に奢るから。仗助には内緒ね!」
内緒、と人差し指を唇に当てると、億泰はいいんすか…!と目を輝かせた。素直に喜んでくれて、とてもかわいい。露伴には、自分でなんとかしてもらえばいいだろう。彼は大人なのだから。
億泰の家で出前をとって、結局家に帰ったのは8時を過ぎた頃だった。玄関のドアを開けると露伴が腕を組んで立っていたので思わず悲鳴を上げてしまった。
その後彼の説教が始まってしまい、大人しくそれを聞いていたのだが、そもそも彼に怒られる筋合いがない事に途中で気づいた。だが彼の言う事を纏めると、要は昨日帰ってきてから露伴を放ったらかしにしていたのに拗ねたのだ。それが分かるとなんだかかわいく思えてきて、露伴を思い切り抱きしめて頭を撫でてあげた。かわいいヤツめ。