第1部 M県S市杜王町
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あれから、10年が経った。
最愛の人、花京院典明の死から、10年。
この10年、彼の事を忘れた事は1度だってない。
常に、私の心の中心には、彼がいた。
そして、隣にも。
私は、隣にいる彼を見上げた。
「もうすぐ着くね。」
彼は優しい顔で笑って、こちらを見ている。
花京院典明。彼の魂は、10年前、DIOとの戦いで死んでしまった彼の魂を私が掴んで離さなかった事により、成仏する事ができず、それ以来、ずっとそばにいる。
最初の数日は言葉を話してくれたのだが…ある時から一言も言葉を発さなくなってしまった。
それが彼のした選択なのか、自然の摂理のようなものなのかは分からない。
だって、彼は話してはくれないのだから。
「!」
代わりに、彼のスタンド、ハイエロファントグリーンが出てくるようになっていた。
ハイエロファントはその触手で、私の体を包んでくれた。
彼が死んでしまって3年後くらいだっただろうか。
彼のいない虚無感に、誰もいない部屋の中で1人静かに泣いていたら、突然姿を現し、私を慰めてくれたのだ。
「ありがとう、ハイエロファント。」
彼、典明の体では私には触れられないが、ハイエロファントは触れられる。
少しでも彼に触れられて、私はいつも安心と、彼の愛をもらっている。
依存、しているのかもしれない。彼に。承太郎にもそう言われたし、自覚もある。だが、やめられないのだ。
やめてしまったら、私はもう、生きる意味を失ってしまう。全てどうでもよくなって、きっと、死んでしまうだろうと、本気で思っている。
1度、私が死んだら、彼も成仏できるという思いに取り憑かれ、自殺をしようとした事がある。
その時は承太郎にしこたま怒られたし、そばにいた典明は申し訳なさそうな顔で涙を流したので、考えを改めたのだが。
そのくらい、私は彼を愛し、彼に依存している、と思う。
「ワフ。」
「イギー!ジョセフさんから離れたらダメじゃない。」
私の肩に飛び乗ってきたイギーも、随分歳をとった。
出会った頃はまだ3~5歳くらいだったが、あれから10年。もうすっかりおじいちゃんになってしまった。
それでもまだ私の肩まで飛び乗る元気があるので、まだ、私と生きてくれるだろう。
「ありがと、イギー。」
イギーは私が落ち込むと、いつもそばに来てくれた。鼻が利くというか、勘が鋭いのだろう。イギーがそばにいてくれて、本当に助かっている。
私はイギーを撫でる手を止め、今乗っているクルーザーの進行方向である海を見つめる。
私達は今、M県S市杜王町へ向かっている。
突如、杜王町にスタンド使いが現れたらしい。それも1人ではなく、複数。
先に行っている承太郎からそのような報告を受け、SPW財団はジョセフさんに協力を仰いだのだ。そして私は、ジョセフさんの護送役兼、必要があれば承太郎と共に調査をするという役割を与えられた。
私の生まれた町の、隣町である杜王町。
ここで、何かが起こっている。
必ず原因の究明、対策、解決をしなければ。
「さ、ジョセフさんのところに戻ろう。イギー。」
肩のイギーを腕に抱え直し、私は踵を返し歩き出す。
杜王町まで、あと1時間ほど。
それまでは、クルーザーでゆっくりしていよう。