第2部 杜王町の殺人鬼
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「もしもし承太郎!?典明に変わって!!」
何回目かのコールのあと、電話が繋がった。私が切羽詰まった様子で言うものだから、承太郎は素直に典明へと電話を向けたらしい。電話口に典明のもしもし、という声が聞こえてきて、1日振りの彼の声を聞けて、少しだけ嬉しくなった。
「もしもし、君いま、どこにいる?また何か、事件に巻き込まれているだろう。」
電話口に出た典明は、私が話し出すより先にそう言うものだから驚いてしまった。どうやら、数分前からなにか嫌な予感がしていて、これから露伴の家へ向かおうとしていたらしいのだ。
今いる大まかな位置を伝えると、典明達はホテル近くの海にいるらしい。近くにはいないようで少し不安になったが、典明は「大丈夫だ。落ち着いて。」と優しい言葉をかけて私を落ち着かせてくれた。いつも思うが、典明が言う大丈夫は、魔法の言葉だと思う。本当に大丈夫な気がしてくる。
「君は今、バイクだろう?僕らは川沿いの道を行くから、君もその道を通ってきてくれ。途中で合流しよう。」
典明の的確な指示に、私はじゃあ後で、と告げてすぐに動き出した。ここからだと15分か、20分くらいはかかるだろうが、向こうからも向かってきてくれている。仗助くんも港へ向かって走っていたので、むしろ都合がいいだろう。私が急げば、仗助くんと早く合流ができる。ハンドルを握る手をグッと握りしめ、アクセルを全開にして川沿いの道を走り抜けた。
法定速度をかなりオーバーしてしばらくバイクを走らせていたら、やがて少し走った先に、承太郎の運転する車が見えてきた。上には高速道路が走っていて、その下の曲がり角を右へ行くと港へと向かう道だ。ウインカーを出して右へ曲がる事を伝え、典明が車からハイエロファントで飛び出したのを確認して再びドリフトで右へターンすると、ハイエロファントの触手がタイミング良くお腹へと巻きついた。
「全く…君は本当に、かっこいいな…。振り落とさないでくれよ。」
典明の声が耳元で聞こえて、お腹に回された腕を見て、無事に乗れたのだと安心した。同時に、この距離に典明がいる事が嬉しくて、口角が上がるのが分かった。ダメだ、喜んでいる場合じゃない。カーブを曲がりながら、私は頭を切り替えようと軽く頭を振った。
「敵は今、仗助くんを追いかけてる。人にくっついて養分を吸い取る能力で、匂いを覚えて、時速60キロで追いかけてくるの。露伴はもう、二ツ杜トンネルで養分を吸い取られた。」
典明ならば、匂いもなしい実体もない。それに頭も良いので、何かしらの作戦が思い付くかもしれない。そう思って、彼を呼んだのだ。
「そうか…。港なら、倉庫がたくさんあるだろうし、法皇の結界が張れるだろうな。」
法皇の結界。DIOと対峙した際に1度目にしたが、とても綺麗だったのを覚えている。
「杜王町に住んでいる仗助くんに、本体を探してもらうのがいいと思うんだけど…。」
「いや…本体は、きっと病院にいるだろう。」
典明のその言葉に、私は慌ててブレーキをかけてバイクを停めた。
「待って、病院て、なんで…。」
頭の回転が速いなんてもんじゃない。スタンド能力と、現状の説明しかしていないのに、もう本体の場所を絞り込んだというのか。
「ちゃんと説明する。とりあえず仗助のところまで走ってくれ。」
典明の声に慌ててまた、バイクを発進させる。本当に、典明を連れてきて良かったと心の底から思った。
「本体は、怪我をしているはずなんだ。じゃなきゃ露伴の養分を奪ったあと、仗助を追いかける必要がない。傷を早く治そうとしてスタンド能力を使っているはずだ。」
典明の話す事に、なるほどと納得する。確かに、人1人の養分をほぼ吸い尽くしていたはずだ。それでも足りないから、今度は仗助くんを狙ったのだ。養分が足りないという事は、怪我、もしくは病気で入院しているというのに、すんなりと納得した。典明は、やっぱりすごい。
「ありがとう、典明…。私、どうしていいか分からなかったの…。仗助くんに指示を求められても、自信がなくて…。だから典明が来てくれて、本当に良かった…。」
どうしても言わずにはいられなかった。言いながら涙が出てくるが、それは風が全て吹き飛ばしてくれている。
「なまえ…。はぁ…。ダメだ、なまえ。今、君にキスしたくてたまらない。」
ぎゅ、と腕の抱きしめる力を強めて、私の首筋に顔を埋めて典明が言うものだから、危うく意識が飛びかけた。そんなの、私だってそうだ。こんな状況じゃなければ、すぐにでもバイクを乗り捨てて、典明にキスするのに。
「ねぇなまえ、キスしてもいいよね?」
この状況で一体どうやって、と思う間もなく、典明が後ろから首筋にキスをするので、さすがにハンドル操作を誤った。車体が大きく揺れたが、なんとか冷静に対処し、真っ直ぐに戻した。
「てっ、典明!!」
「はは、ごめん。君なら大丈夫だと信じてたよ。」
今走っているスピードだと、さすがの私でも擦り傷では済まないだろう。だというのに、典明は楽しそうに笑っている。本当に、私が転倒することなど心配していなかったのだろうと思うと嬉しくはあるが、心臓は未だバクバクと鳴っているので少し憎らしく思った。
「いた。仗助だ。仗助を乗せて、町の中心へ行こう。僕が、奴の邪魔をして時間を稼ぐから、詳しい場所を特定するんだ。」
遠くの方に仗助くんの姿を認めると、典明は急に真剣な声で作戦を話し始める。後ろを見る事はできないが、今の典明は絶対に、かっこいい顔をしているのだ。見たい。今すぐ振り向きたい。
「仗助!こっちだ!」
後ろは見えないが、典明が立ち上がった気配がする。いくら私にハイエロファントを巻き付けているとはいえ、ヒヤヒヤする。
「典明!早く座って!次の角で曲がるよ!」
5…4…3…2…1!典明の腕がお腹に回されたのと同時に、本日何度目かのターンを決める。ハイエロファントが仗助くんを掴んで後ろへ乗せると、乗り捨てた露伴のバイクはまたしても轟音を響かせて倉庫へと衝突した。あとで、仗助くんを連れて取りに来なければ…。
「仗助。振り落とされたくなかったら、なまえにちゃんとしがみつけ。本当に、振り落とされるぞ。」
典明のその言葉に、仗助くんは肩に控えめに置いていた手を私のお腹へとぎゅ、と回した。カーブではその腕の力が強くなって、青くなっているのが想像できて、ちょっとかわいい。
「仗助くん。典明が、敵本体は病院に入院してるんじゃないかって言うんだけど…。」
典明がエメラルドスプラッシュで時間稼ぎをしてくれている間にと、私が話し出すと、仗助くんは「康一も病院だって言ってたっス。」と言うので驚いた。承太郎が康一くんを気に入っているのは知っていたが、まさかそこまですごい子だったとは。それに、わざわざ新聞を調べてくれて、ぶどうヶ丘総合病院にいると予想もついているらしい。
「仗助くん、案内して!」
名前は康一くんが今調べてくれているらしいし、きっとすぐに判明するだろう。今はとにかく早く、速く、ぶどうヶ丘総合病院へ行かなくては。トンネルへ残してきた露伴が心配である。