第2部 杜王町の殺人鬼
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岸辺邸へ戻ってきたが、露伴は出掛けてしまっているようで留守だったので、合鍵で中へと入らせてもらった。荷物を置いたあと昨日の火事の後片付けをしていたら玄関のドアが開く音がしたので覗いてみると、露伴が帰宅したところだった。
「おかえり、露伴。」
昨日ホテルへ送ったはずの私がここにいる事に、彼は驚いた顔をしている。そして「花京院さんは?」と。
「典明は⋯⋯今は承太郎といるの。」
笑顔で答えようと思ったが、思わず声が震えてしまった。その事に気づいたらまた涙が出そうになってしまうので、必死に気が付かないふりをして深呼吸をした。
「露伴、今日の予定は?また写真撮りに行くの?」
不自然な話題転換に露伴は何も言わず、思い出したかのように顎に手を当てて眉間に皺を寄せた。
「これから、バイクで二ツ杜トンネルに行こうと思っている。吉良吉影の手掛かりになりそうなんだ。」
吉良吉影の名前に、頭が自然と仕事モードに切り替わる。防衛本能のようなものだろうか?
事の顛末を露伴に説明してもらうと、確かに、吉良吉影に繋がるなにかが掴めるかもしれない。
「そういう話なら、私も行く。バイクもう1台ある?」
ないのならレンタルでもいい。1人で行くよりも2人で行った方が安心だろう。露伴は少し渋ったが、やがてため息をついて「君、免許はあるのか?」と。あぁ、そっちか。
「私、SPW財団員だよ?車も大型バイクも重機もクルーザーもヘリコプターも、結構なんでも乗れるのよ。」
「なにっ!?⋯それは初耳だな⋯。」
露伴は大袈裟に驚いているが、それもそうだろう。見た目20歳そこそこの小娘がありとあらゆる乗り物を操縦できるなんて、誰が思うだろうか。
「そうと決まれば、行こう。露伴。」
駅前に行けば、バイクのレンタルをしているところが見つかるだろう。そこまでは後ろに乗せていってもらおうと、露伴の手を引いて、岸辺邸を後にした。
「このトンネル?意外と、普通のトンネルだね。」
二ツ杜トンネルに着くと、そこそこの数の車の行き交う、至って普通のトンネルだった。この中で、露伴は家のドアを見たと言う。恐らくスタンド関連だろう。気を引き締めて行かなくては。
「よし、行こう。」
露伴の合図で、私達はトンネルの中へバイクを走らせた。見逃しがないように、いつもよりもスピードを落として、壁を注視して走行した。
やがて出口が見えてきた辺りで、露伴は1度停車して、壁に手をついた。見間違いだったのか⋯と彼は言うが、そんな見間違い、何度もするだろうか?
復路も見てみようと提案するために口を開いた瞬間、露伴が触れている壁が扉へと変化し、向こう側へと開いた事で露伴はバイク諸共、音を立てて転倒してしまった。
「露伴!脚は?無事?」
倒れたバイクを起こしながら、バイクと地面に脚が挟まれていないかと確認すると、どうやら問題ないらしく、ひとまず安心した。しかし、これは⋯どう見てもスタンド能力だ。
バスの中から見た部屋だ、と言う露伴の言葉に、辺りを警戒した。トンネルはコンクリートだが、この部屋は木造だ。幻覚の類なのか、はたまた何かしらの力で別々の空間が繋がっているのか⋯。思考を巡らせていると、キャビネットから物音がし始めた。
「露伴!出るよ!」
グイ、と露伴の手を引き部屋を出て、バイクに跨る。露伴が発進する準備が出来ている事を確認して、来た道を戻るように走り出すと、後ろからちゃんと露伴も着いてきているようだった。だが、エンジン音に紛れて、足音みたいなものが聞こえてくる。チラリとミラーで後ろを確認すると、赤黒い足が、露伴にぴったりとくっついて走っているのが見えた。時速60キロのスピードで、あの足は走っている。
ギアを回してスピードを上げると距離が離れるあたり、60キロが限界のようだ。とりあえず、トンネルの外に出ようとスピードを上げた。
しかし1台のトラックとすれ違ったあと、露伴の様子がおかしい事に気がついた。ヘブンズ・ドアを出しているし、何やら苦しそうだ。
「露伴!っ!危な⋯ッ!」
露伴に何が起こっているのか分からないが、ハンドルから手を離してしまい、露伴はバイクから振り落とされた。
「露伴!!」
すぐに戻りたかったが、露伴のバイクが迫ってきている。そして、出口も見えてきている。1度外に出て、バイクを躱してから、すぐに引き返そう。
エンジンをふかしてトンネルから勢いよく飛び出すと、何故か仗助くんの姿が見えた。轢いてしまわないように彼を避けると、露伴のバイクがそばまで迫っていたので思わず蹴り飛ばしてしまった。仗助くんがいるなら、直してくれるだろうと思っての事だ。
「なまえさん!?と、露伴のバイク!!?」
仗助くんが驚いているが、私には今何が起こっているのか分からない。とりあえず露伴の安否確認が先だ。
ギュァァアア!!と大きな音を響かせてドリフトターンをし、そのままもう1度トンネル内へと戻る。久しぶりにやったが、失敗しなくて良かった。
「露伴!」
露伴の姿を捉えると、同時にスタンドの姿も見えた。襲われている!そう思ったら、体が勝手に動いて、バイクを乗り捨てて敵スタンドを思いきり蹴り飛ばしていた。
「なまえさん⋯!」
タン、とその辺の壁に着地すると、露伴が私の名を呼ぶので、死んではいないようでとりあえず一安心した。敵スタンドは⋯衝撃でかなりの距離吹っ飛んだようだが、まだ意識はあるようだ。なかなかしぶとい。
「なまえさん?露伴?」
外から仗助くんが私達を呼ぶ声がする。露伴のバイクの惨状に加えて、私のバイクの轟音を聞いて心配してくれたのだろう。
「なまえさん⋯奴のスタンドは、あの部屋に入った人間の養分を吸い取る能力⋯。なまえさんも、さっき、あの部屋に入っただろう⋯。」
養分を吸い取る能力⋯それで露伴は、今このような状況に。思いきり蹴り飛ばしたのに再起不能にならなかったのは、露伴の養分を吸い取ったからだったのか。
「仗助くーん!こっち!バイク直してー!」
そういう類のスタンドは、本体を直接叩くしかない。それに、あのスタンドは足が速いのだ。なるべく早く、本体を見つけださなければ。
やがて姿を現した仗助くんを連れてバイクを直してもらい露伴のいたはずの場所へ戻ると、またしても部屋が出ている。そして、先を歩いていた仗助くんは、部屋に一歩入ってしまっている。
「仗助くん!」
油断した!まだ立ち上がれるようになるまで時間がかかると思っていたのだ。
「仗助くん、本体を探すよ!露伴のバイク乗って!」
仗助くんの首根っこを掴んで、トンネルの出入口に向かって思いきり放り投げた。少々手荒だが、急いでいるので仕方がないだろう。
「露伴!死なないでね!」
露伴にそれだけを告げて、バイクを走らせた。トンネルを出ると既に露伴のバイクは直っており、仗助くんはバイクに跨っていた。
「敵は触れた人の養分を吸い取る能力で、時速60キロで追いかけてくるの。倒すには、本体を叩くしかない。今からどうにかして、私達で本体を探す。質問は?」
簡潔に説明をすると「ないっス!!」と元気な声が返ってきたので、安心してバイクを発進させると、仗助くんもちゃんとついてきてくれた。奴も、動き出している。私と仗助くん、どちらを追いかけるだろうか。
「この先、道が2つに別れて、その後合流するでしょ?仗助くんは右に行って。」
どちらを追いかけるのか確認のため提案すると、仗助くんは再びハキハキと返事を返してくれた。本当にいい子だ。
分かれ道、私は左へ、仗助くんは右へと分かれると、敵スタンドは仗助くんの方を追いかけた。
私も部屋へ入ったが、先に入ったのは露伴だ。もしかしたら、1度に1人しか匂いを覚えられないのかもしれない。
これは⋯仗助くんに逃げ回ってもらっている間に、私が本体を探すのが効率が良さそうだ。しかし、私は杜王町の事に詳しくない。推理は多少できるが、場所を絞り込めたところで、この広い町の中、私に探し出す事ができるだろうか?
「なまえさん!なにかいい案思いつきました?」
合流した仗助くんが指示を仰いでくるが、私は言葉に詰まってしまった。こんな時、承太郎や典明ならば、かっこよく指示を出せるのに。
「典明⋯。」
無意識に、彼の名前を呼ぶ声が口から漏れた。そうだ、典明ならば。
「仗助くん。1人で10分…いや、5分でいいから、逃げられる?」
いい案、かは分からないが、やってみるしかない。仗助くんは私の言葉を聞いて1度大きく頷いて、バイクのスピードを上げた。私は仗助くんとは逆方向へ向かい敵スタンドを確認すると、やはり仗助くんの方へ向かって行った。その事を確認して1度路肩へバイクを停車し、私は承太郎へと電話をかけた。
早く、繋がってくれ。そして近くへいてくれと願いながら、コール音を聞いた。