第2部 杜王町の殺人鬼
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「露伴。お願いがあります。」
「いいよ。なんだい?」
典明とある仮説を思いついたのだが、それは上手くいく保証がどこにもなく、なんなら頼んだ露伴になにかが起こる可能性まであったので真剣な顔で、拒否される覚悟で頼みに行ったのだが⋯彼は理由を聞く前に軽く承諾してくるので思わず言葉に詰まってしまった。本当に、私を無条件に許しすぎなのではないか?
「えぇと⋯今のは一旦聞かなかった事にして。今からお願いする事は、露伴に危険が及ぶ可能性があってね、」「いや、構わない。」
一から説明をしてからもう一度返答を貰おうと思って説明を始めようとしたのだが、またしても即承諾の意を示したので思わずため息が出た。本当に、話を聞かない奴だな。
「うーんと、とりあえず説明するとね、典明の魂、今はいつも外に出てるか、コレに入ってるでしょ?」
コレ、と言って示したのは、10年前にテレンス・T・ダービーから奪った人形を作り替えた物。いつも、コートの下に付けている物だ。あぁ、そうだな。との返答を聞き、私は説明を続ける。
「テレンスの能力を見て、典明が死んだ時、コレに入れるかって聞いて、結果、入れたんだけど⋯。⋯人の体にも入れるのかって、ずっと疑問だったんだ。」
疑問だったが、気軽に実験できる訳もなく、今まで口にしてこなかったのだ。
「あぁ、なるほど。花京院さんの魂を、僕の中に入れてみようって事ね。いいぜ。やってみよう。」
「露伴!⋯ちゃんと、分かってる⋯?」
本当に、何が起きるか分からないのだ。典明の魂が入る事で、露伴の魂が押し出されてしまったり、するかもしれない。そうなったら、もし死んでしまったら、彼のファンはとても悲しむのではないか?
「分かってるさ。万が一僕の魂が外に出てしまっても、君がクイーンの能力で戻してくれるんだろう?だったら、問題ないじゃあないか。」
確かに典明と、不測の事態になった時の対応策も考えてはいるが⋯彼は本当に何も心配してないように言うので、私も段々、上手くいくような気がしてきた。
「君の精神力の強さには、恐れ入るよ⋯⋯。」
典明も、思わず圧倒されているようだった。続けて君と似ている、なんて言うものだから、典明の中の私は露伴みたいな奴って事なのだろうか?と考えてみたら、私も典明にお願い事をされたら理由も聞かずに「いいよ。」と答えるだろうと思い、そういう事かと腑に落ちた。
「何かあったら、絶対助けるから。ありがとう、露伴。」
私と似ている彼ならば、きっと本当に、不安を感じてはいないのだろう。私を信頼してくれている彼ならば。その証拠に「君がいるなら頼もしい。」と、余裕の笑みを浮かべている。
「気分が悪くなったり、異変があれば、何かしらの方法ですぐに教えてくれ。」
露伴と対峙している典明が真剣な顔でそう言うと、露伴も少し声のトーンを落として「分かった。」と返答した。少しは、緊張しているらしい。私は不測の事態に備え、傍らに立って見守っているだけだ。
やがて典明がフッと姿を消したと同時に、露伴が目眩を起こしたように下を向いて頭を抑えたので、何かあったのかとそばに駆け寄った。
「露伴⋯じゃない⋯⋯。典明⋯⋯!」
先程まで露伴に見えていた彼の顔は、典明の顔へと変わっていた。中に入れたようだが⋯では、露伴は?
「なまえ。露伴は大丈夫みたいだ。眠っている、ような感覚だって⋯。意思の疎通ができるようだ。」
「そう⋯よかった⋯!」
予期せぬ事態にならなくて良かった。そう思って、典明を抱きしめると、露伴の匂いがして違和感があったが、体が温かくて少し、涙が出た。
「はは⋯露伴が戸惑っているぞ、なまえ。」
「だって⋯!ごめん⋯。典明、周りの物は触れるの?典明から見て、何か不自由な事はある?」
体を離して典明に問うと、彼は顎に指を当てて少し考える素振りを見せた。細くて長い指が彼の綺麗な顔に当てられて、とても絵になっている。
「体があるのが久しぶりすぎて、違和感があるくらい、かな。それに、物には触れるよ。ほら。」
典明は嬉しそうに、テーブルの上の鉛筆を持ち上げた。いつもハイエロファント越しでしか物に触れられなかったが、体は露伴のものなので当たり前に触れて嬉しいようだ。かわいい。
典明の手を取って、指を絡めてぎゅ、と握ると、彼も優しい笑顔で握り返してくれた。
「露伴の体なのに⋯私には典明の姿に見える⋯。典明は⋯?」
気になった事を口にすると、彼は開いた方の手を閉じたり開いたりして、特徴的な横髪を摘んでみている。
「僕も同じだ。自分の姿に見えている。と、思う。」
不思議だ⋯服は、露伴の服なのに⋯。そう考えて、思考が一時停止した。露伴は今日、お腹の開いた服を着ていたはずだ。という事は⋯。
「典明のお腹⋯⋯!」
視線を下にずらすと、案の定典明のお臍が出ている。もちろん割れた腹筋も。
「本当だ。服は露伴の服なのか。はは。僕がこの服を着るなんてな。」
典明は無邪気に笑っているが、私はそれどころではなく、彼のお腹から目が離せなかった。彼の趣味とは全く違う服なのだが、決して似合ってない訳ではない。逆にそのアンバランスさが、いけないものを見てしまっているような気になってくるのだ。つまりとてもセクシーなのである。
「典明⋯⋯このタイミングで新たな魅力出してこないでよ⋯!!」
完全な八つ当たりに、彼はキョトンとして首を傾げている。かわいい⋯かわいいのだが、セクシーさがかわいさを上回っている。
「おっと。これ以上は、今日はやめておこう。なんとなく、よくない気がする。」
典明はそう言い露伴の体から出て、姿が元に戻った。露伴の体が、露伴の姿に戻った。繋いでいた手をゆっくりと離すと、露伴は後ろのソファにドサッと腰掛けて頭を抱えて下を向いてしまった。
「これは⋯思ってたのと違う意味で、心臓に悪いな⋯。」
「ふふ⋯かわいいだろう、僕のなまえは。」
心臓に悪いと聞いて心配したのだが、どうやらそういう意味ではないらしい。典明がなぜか得意気に私の事を自慢するので、思わず照れてしまった。
「あぁ⋯そうだな。」と露伴も真剣な顔で言うものだから、照れくさくて居心地が悪い。
なんにしても、何事もなく終える事ができて一安心だ。これならば露伴でなくとも、私の体を貸しても問題ないだろう。私は典明に、色々としてほしいのだ。
「露伴、ありがとう。これで、典明ができる事が増えたよ。本当にありがとう。」
露伴の手を取って感謝を述べると、彼は少し驚いた表情を見せたがすぐに「あぁ、構わないさ。また何かあれば言ってくれ。」と笑顔で答えてくれた。なんというか、盲目的だなぁ、と思ったが私もそうなので口にはできなかった。本人が幸せなら、何も言うまい。