第2部 杜王町の殺人鬼
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「ん?」
典明の魔性のオーラが消え去ったのを確認して体を離すと、私達のテーブルの空いている席に1人の子供が着席しているのに気がついた。
「何やってんだ!ここは僕の席だぞ!」と露伴は大人気なく怒っているが、本当に、先にこのテーブルに着いていたのは私達ではある。「アンタまだ座ってないじゃないか。」とその子は言うが、いくらなんでも無理がある。しかし子供相手に、露伴のような態度で接する事も憚られた。
「なんなんだお前は、さっきから!」
さっきから、という事は、この子は露伴についてきたのだろうか。なぜか、露伴とジャンケンをしたがっているようだ。
「ねぇ露伴。ジャンケンしてあげなよ。じゃないと、この子きっと、諦めないよ。」
「…ハァ、なまえさんが言うなら…。いいか、なまえさんがしろって言うからするんだからな、ジャンケン!」
私が言わなくてもジャンケンくらいしてあげればいいのに、何を子供相手にムキになっているのだろうか?
典明なんて、ニコニコと笑顔を浮かべて優しく見守っているというのに。
「いっくよ〜!ジャーンケーン、ホイッ!」
機嫌を直したその子がウキウキで勝負を仕掛けたが、露伴に負けたようで悔しがっている。その様子を見る露伴は、やっぱり大人気なく子供を煽っている。
下を向いてトボトボと去っていくその子の背中が悲しそうで、少しばかり可哀想になった。ジャンケンに負けただけなのに、あんなに落ち込むなんて…。
「さ、なまえさん。なにか食べよう。僕は今、最高に気分がいい。カフェで申し訳ないが、ここは僕が払おう!」
前から分かっていた事だが、露伴の性格の悪さを再認識した。典明も冷たい視線を送っているが、見えていないのだろうか?
「そう?じゃあ遠慮なく。すみませーん!コレとコレと、コレも。あとコレと、コレも下さい。食後にはコレとコレを。」
「ちょ、ちょっと待てなまえさん!」
あの子の代わりに仕返しとばかりに注文すると、露伴は慌てはじめた。まだまだ食べられるが、セーブしたというのに。
「ふふ。お腹空いちゃって。」と言うと、典明がフッ…と笑って「まだ足りないんじゃあないか?なまえ。」と追加の注文を促したのでチェリーケーキを追加で頼んだ。
やがて運ばれてきた料理はどれも美味しく戴き、典明にもチェリーケーキを食べさせてあげる。やっぱり彼は特徴的な横髪を抑えて口を開けるので髪の毛をサッと避けてあげると、いつもよりも男前な、綺麗な顔がこちらに向けられて1人で勝手にドキドキした。
本当に、典明はいつどんな時に、どの角度から見ても完璧にかっこいい。
露伴の財布にダメージを与えたあと、仗助くん達とは無事別れて私達は書店にやってきていた。露伴が、資料になる本が欲しいと言うのでやってきたのだ。
「見て、典明。この景色すごく綺麗!」
露伴とは離れて典明と2人で店内を歩いていると、世界の絶景スポットが載っている本を見つけて手に取った。そこにはエメラルドグリーンに輝く湖の写真が載っており、典明を連想させる。
「こっちも綺麗…ここに、典明を立たせたいなぁ…。」
きっと、典明がここに立っていたら、それだけで絵になるだろうと想像する。
「この景色は、君によく似合いそうだ。」
典明はそう言って別の綺麗な景色を指差すが、私はそこにも、典明がいた方がいいと思った。
「典明と、色んな景色が見たいな…。いつか行こうね。」
幸いSPW財団員として世界中を飛び回っているので、仕事の合間に行くことができるだろう。私達は、人よりも長く生きられるのだ。その時間を大事に使って、典明と色んなところに行って、色んな景色が見たい。もちろん、たまには普通に旅行として、典親も一緒に。
「うん。」
私の言葉を聞いて、典明は嬉しそうに笑って繋がれた手の甲にキスをひとつ落とした。なんて幸せなひと時だろうと甘い雰囲気に浸っていたら、露伴の、雰囲気をぶち壊す声で無理やり現実へと引き戻された。
とりあえず手にした本は買う事にしてレジへと向かうと、露伴と、先程カフェで会った子供が言い争っているのが目に入った。既に、ジャンケンをして露伴が負けたらしい。
「!?露伴!?」
何が起こっているのかよく分からないが、露伴が男の子の方へと吸い寄せられ、スタンドを引きずり出されているのだけは分かった。
「近寄るな!なまえさん!…ッヘブンズドア!この子供を本にしろ!」
思わず前に出ようとしたが、露伴に近寄るなと言われ、典明には肩を掴まれたのでその場に留まった。
男の子はヘブンズドアで"岸辺露伴を攻撃できない"と書き込まれて外に吹っ飛んで行った。
とりあえずお会計を済ませて外に出ると、露伴が少年を読んでいるところで…驚く事に、先程露伴が書き込んだ文字が勝手に書き変わり、目を覚ました。
「露伴!」
首根っこを掴んで少年から引き離したが、あまり意味がなかった。ヘブンズドアを見ると、腕がない。スタンドの能力を、一部奪われている!
「…能力を取り戻すには、ジャンケンに勝つしかないようだな。大丈夫だ。心配するな。」
相手は子供。私は、手出しできない。典明もだ。ここは露伴が、自分で何とかするしかない。
「ジャーンケーン、ホイ!」
「なにっ!?」
ハラハラと祈るような気持ちで見守っていたら、またしても露伴は負けてしまい、ヘブンズドアは足も奪われてしまった。
「露伴……、ッ露伴!」
「なまえ!」
典明の制止を振り切って露伴の前までつかつかと歩いていき、両手で頬を掴んで目を合わせた。いつかやった、落ち着かせる方法だ。
「露伴。負けるビジョンを考えちゃダメ。カフェの時みたいに、勝った時のことだけ考えて。」
「なまえさん…。」
露伴はあまり、プレッシャーに強い訳ではない。というより、戦闘経験が少ない分、劣勢になった時に慌ててしまい、対処ができないのだ。
「私の目を見て、ゆっくり呼吸して。…そうだなぁ…。露伴は、ご褒美があった方ががんばれる?」
安心させるように優しい声で、笑顔で声をかけながら、指で頬を撫でる。そして耳元で「ご褒美は、ここに、私からのキス、でどう?」とダメ押しの一言を発すると、彼は頭を抑えてため息をついた。…もしかして、彼のやる気を削いでしまったのだろうか…?
「やめてくれ。そのご褒美は喉から手が出るほど欲しいのは確かだが、花京院さんに絞め殺されるだろう。」
「……。」
チラリと典明の方を見ると、いつの間にか背後に立っており、頭にハテナを浮かべている。聞こえてはいないようだが、本当に絞め殺そうとするだろうか?
「大丈夫だ。その言葉だけで、勝てる気がしてきた。ありがとう、なまえさん。」
露伴は気持ちを切り替えて、子供に向き直った。グイ、と肩を押されたので一歩下がると、典明に腕をグ、と捕まえられた。
「なまえ。最近いつも、いとも簡単に僕の腕から逃げていくじゃあないか。常に、抱きしめていようか?」
言っていることは甘い言葉なはずなのに、顔は見えないながらも、声色から眉間に皺が寄っている事が分かる。
「え…と、ごめん。でも、ちゃんといつも帰ってくるでしょ?」
「かわいく言ってもダメだ。僕から離れるんじゃあない。」
今まさに目の前で露伴ががんばっているというのに、典明は後ろから片腕をぎゅ、と私の腰に巻き付けて後頭部に頬をくっつけていて、全然目の前の戦いに集中できない。なんなら、ただのジャンケンなので気づいたら終わっていた。
「全く君達は…!ジャンケン中くらいイチャイチャせずにいられんのか!もう終わったぞ!」
目の前で露伴が怒っている。これではさすがに露伴に申し訳ない。
「あ、あの。典明…?」
典明相手では強く言えないので、腰に回っている彼の腕に触れて窺うように声をかけると、ふ…と耳元で笑ったのが分かった。
「典明…!」
わざとだ。理由は分からないが、典明はわざと、わざとこんな事をしたのだ!
「ここまでしないと、君は僕から逃げるだろう?逃げようとしたら、またやるからな。」
…これは、とても厄介な事を思いついたものだ。あんな事されたら、離れられないじゃあないか。典明が私の扱い方を、またひとつ覚えてしまった。
「え、あれ?ジョセフさんと仗助くん!わ!露伴、手!怪我してるじゃない!えっトラックに轢かれかけたの!?…で、赤ちゃんがこの辺りにいるって…!?」
辺りを見ると色々な情報がいっぺんに入ってくる。いつの間にかジョセフさんと仗助くんがいるし、露伴は左手にガラスの破片が刺さっている。ハイエロファントの触手で無事に赤ちゃんを見つけ出したあと、露伴の左手の状態を見る。無理やり抜いて細かい破片が残るといけないのでクイーンの能力で全て取り出して仗助くんに治すのをお願いしたのだが、露伴が嫌がるので無理やり治させた。漫画家が手を怪我してどうする!
「露伴、帰ろう。」
「ハァ…そうだな。」
ジョセフさんと仗助くんに別れを告げて歩き出すと、仗助くんに「なまえさん?」と呼び止められた。どうしたのかと振り向くと「杜王グランドホテルはあのバスっスよ。」と、ちょうど来たバスを指さしている。
「あぁ…あの、なんというか…。」
「まだ少し、済んでない用事があるんだ。じゃあね、仗助。ジョースターさんをよろしく。」
しどろもどろになっている私の背中を押しながら、典明は余裕の笑顔で私をフォローしてくれる。さすが。こういう時、本当に頼りになる。好き。
「ふぅん。まぁいいっすけど。」
なんとなく納得いっていないようだが、仗助くんも典明相手に詰めよれないらしく大人しく引き下がってくれてホッと息をついた。露伴は「別に、君が僕の家で暮らしている、と言ってもいいのに。」とは言うが、高校生組は私と露伴の仲を勘ぐっているので、下手な事は言いたくない。とてもややこしいのだ。大騒ぎするに決まっている。
もう数日の間に、まさかの承太郎の口から勝手に暴露される事になるなんて、この時は思いもしなかったが。