第2部 杜王町の殺人鬼
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「おはよう、露伴。」
朝起きて、着替えを済ませて家主である露伴へと挨拶する。昨日はなぜか承太郎にこの家の前で車から降ろされたので仕方なく入ったのだが、露伴に話を聞くと既に承太郎から、しばらく私を泊めてやってくれと頼まれたと言うので、それ以上抗議するのは諦めた。けどそれにしたって、露伴じゃなく私に先に言うのが筋だと思うのだが。典明もそれには同意のようで、昨日はため息をついて頭を抱えていた。
「おはよう。なまえさん、花京院さん。僕は今日は朝から駅へ行くが、2人の予定は?」
予定…特にないが、しばらくホテルで過ごしていたので寝巻きや歯ブラシなどを買いに行きたい。その事を伝えると「じゃあ駅前まで一緒に行こう。」と提案してくれたので、ざっくりと今日の予定が決まった。
露伴が用意してくれたトーストを齧りながら、居候しているのだからご飯の用意くらいはしないとな…とぼんやりと考えた。
「あぁ、なまえさん。これ。気を遣わずに、自由に出入りしてくれて構わない。」
駅前まで歩いてきて別れ際手渡されたのは、家の鍵。所謂、合鍵、というものだった。ありがとう、と言って受け取ったが、なんだか同棲でもしているようでなんともいえない気持ちになった。これが典明の家の合鍵だったなら、飛び上がるほど嬉しいだろうに、と考えてしまった。
「なまえ。先に何を買いに行く?久しぶりに、少しだけデートしよう。」
スッと出てきた典明が左手を差し出して言うので思わずときめいた。今の…最高に王子様っ…!!
「ふ…また見とれてるな?キスしたくなるって言っただろう?それに、そんなかわいい顔、人がたくさんいるところでするんじゃあない。」
ふに、とほっぺを摘まれて、慌てて我に返った。このままでは、また腰を抜かしてしまう。気を確かに持たなければ…!気を引き締めて典明の左手に自分の右手を絡めて歩き出すと、典明がまた、ふ、と笑ったのが分かったが、必死に見ないようにした。見たら絶対に、見とれてしまう自信があったからだ。
「ねぇ、今週のピンクダークの少年見た!?」
亀友デパートで典明と買い物デートをしていたら、そんな声が聞こえてきたので思わず耳を澄ませて聞き耳を立てた。ピンクダークの少年とは、露伴が描いている漫画の事だ。私はまだ読んだ事がないが、今噂をしている子達のような、女の子の読者もいるなんて驚きである。感想しだいでは、あとで読んでみようかな、と思ったのだ。
「見た見た〜!新しく出てきたカップル、めちゃめちゃキュンとしちゃった!」
「ね!露伴先生、ああいうの描くの珍しいよね!女の子の方、とってもかわいくてかっこよくて好き〜!」
「男の子の方も王子様みたいでかっこいいよね〜!」
ほぅ…カップル。そして王子様。なんだか心当たりのある単語に、典明と顔を見合わせた。もしかして…と書籍コーナーへ行ってジャンプを開くと、案の定だった。私と典明、まんまじゃないか。別にモデルにするのは構わないが、露伴の脳内では私達はこんな感じなのかと思うと妙な気分である。なんだか気恥ずかしくなってしまい、そのままジャンプをそっと棚に戻して、買い物へと戻った。あとで読むか読まないかは、一旦保留だ。
「仗助くん!億泰くん!」
露伴との待ち合わせ場所であるカフェ・ドゥ・マゴへ行くと、仗助くんに億泰くん、そして以前1度オーソン前で会った美少女に出くわした。前回は一言も会話らしい会話はできなかったので、お互い改めて自己紹介をし、典明の事も紹介をして、彼らの隣のテーブルへついた。
「なまえさん、今日は花京院さんと2人だけスか?最近、露伴なんかと仲がいいみてーだけど。」
仗助くんの問いに、内心ギクリとした。別にやましい事は何もないのだが、露伴との間の事を説明するのは私の口からはとてもじゃないが上手くできる自信がない。とりあえず、当たり障りのない返答をしよう。
「露伴と、ここで待ち合わせてるの。ランチする事になってて。」
私の言葉を聞いて、みんなはなぜか一斉に、典明を見た。思わず私も典明の方を見ると、キョトンとして首を傾げていてめちゃめちゃかわいくて、思わずハートを射抜かれた。
「うっ…!」と声を出して心臓を抑えていたら典明が笑う声が聞こえて、その顔が無邪気な笑顔で、また心臓が音を立てた。
「はは。なまえは本当に僕が大好きだね。」
「…うん。」
なんだか今日の典明は機嫌が良さそうだ。彼の笑顔には一点の曇りもなくて、とても眩しい。私のドキドキが止まらない。
「素敵な2人ね…。」
頬に手を当ててそう呟いた由花子ちゃんは、なんだか少し、暗い顔をしているようだった。
「由花子ちゃん…!由花子ちゃんも恋をしてるのね…!?」
「!」
思わず立ち上がり手を取ると、彼女はなぜ分かったのかと、驚いた顔で私を見上げた。
「分かるよ。私もそういう顔してる時あった…ん?あったかな?あったっけ、典明?」
典明に聞くとフルフルと首を振っていた。思い返せば、片想いをしていた時から両想いになるまで、不安になった事があっただろうか。いや、ない。お互いきっと、最初から惹かれあっていて、一緒になる事が分かっていた気がする。
「でも、分かるよ。好きな人の事を考えてる時、そういう、雰囲気?出ちゃうもん。私もずーーっと典明の事が好きでね、10年一緒にいても、毎日ドキドキしてるの。」
「10年…。」
彼女は10年という単語に、口を抑えた。やば。そういえば彼女には、波紋の呼吸の話とか、典明が幽霊だって話とか、何もしてない。
「すげーよなーなまえさん達。そもそも、そういう相手に出会えるのが奇跡だよなぁ。」
仗助くんが宙を見つめてぼやくので「好きな人とかいないの?」と聞くと「全く。」と返ってきた。億泰くんも首を振っている。
「そうね。私と典明は片想いの期間ですら、お互いしか見えてなかった。相手にどう思われるかなんて、全然考えてなかったな。もう、好き好き〜!しかなかったな。」
「それは君だけだ。僕は君に嫌われるんじゃないかって、ずっと怖かった。」
「えっ!!?」
10年目の新事実。ずっと私と同じだと思っていた。だって、そんな人があんなに積極的に、私をドキドキさせようと…!ハッ、まさか、無意識にやっていたというのか…!
「そうね…私はただ、好きでいればいいのよね。」
由花子ちゃんは何か憑き物が落ちたように明るく表情を変えた。私の経験談が、少なからず役に立ったようで何よりだ。
「僕は、君に嫌われるのが怖かったけど、こんな臆病な僕でもきっと君は受け入れてくれると思ったから、あの日、告白する事ができたんだ。」
典明は、話すのは今しかないとばかりに言葉を続けた。その言葉は、典明の胸の内にしまってあったものだ。
「えっ!?告白って、なまえさんからしたんじゃあないんスか!?てっきり…!」
仗助くんは驚いて腰を浮かせている。私がいつも"典明好き好きオーラ"を垂れ流しているおかげで、私が猛アタックした末に付き合い始めたと思っていたらしい。
「違うよ。きっと、告白した時は僕の方が好きだった。」
「はぁ?それはない。絶対にない。」
さも当たり前のように、聞き捨てならない事を言うのですぐ口を挟む。私よりも典明の方が好きだったなんて、絶対にない!自信がある!
詰め寄った私を見て、ふ…と幸せそうに笑う典明の笑顔に、みんな目が釘付けになるのが分かる。私はもちろん、由花子ちゃんや仗助くん、億泰くんですら。
「てっ、て、典明……!そういう顔は、外でしちゃダメ…!!」
「そういう顔ってどんな顔だ?僕にも見せてくれよ花京院さん。」
典明の顔を隠そうと両手で頬を包み込むと、後ろから露伴が顔を出し、彼の顔を覗き込んだ。典明の顔に見とれていて、近づいてくるのに全然気が付かなかった。
「露伴…!て、典明が、笑顔でみんなを虜に…!!」
「そうなのか。僕も見たかったな。」
突然の露伴の登場に、みんな視線を典明から露伴へと移して、今度は彼を凝視している。
「欲しいものは買えたか?というか、なんで仗助達なんかと一緒にいるんだ?」
「…こっちも逆に、なんでなまえさんと露伴が仲良さげにしてんのか聞きたいんスけど…。」
どんどん移動していくみんなの視線は、今度は私のところへとやってきた。
「欲しいものは買えたし、仗助くん達と会ったのは偶然で、露伴と仲良くしてるのは……気が合うから、だよ。」
嫌いじゃない、と言うと聞こえ方が悪いかと思い、気が合うから、と言ったが、これもしっくりこない。かといって好きだから、も違うよな。と、微妙な顔をしていたら、みんなも微妙な顔をして私を見ていた。
「なまえと露伴が仲がいいのは、なまえが露伴を認めたからだ。それ以上は、大人の事情で秘密だよ。」
私のフォローをしようと口を開いた典明が、そう言って口に人差し指を当てて大人な顔でウインクするものだから、慌てて抱きしめて顔を隠した。あまりに色っぽすぎて、みんなには見せられない!いや、見せたくない!
「はは、なまえ。すごいドキドキしてる。」
典明は楽しそうに笑っているので、私はいま、からかわれたのかもしれない。だけどそれにしたって、絶対に見せられない…!たちが悪いからかいだ…!