第2部 杜王町の殺人鬼
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「ここが、吉良吉影の…。」
私達が仗助くん達と行くと分かるや否や、露伴は1人で行動する事を選択した。昨日仗助くんが露伴に連絡をしたのは、やはり奇跡だったようだ。というより、露伴よりも仗助くんの方が大人なのだ、きっと。
高校生3人組を途中で拾い、そこから車で10分程走ると吉良吉影のかつての家に到着した。平屋の昔ながらの日本家屋。なかなか歴史のある家のようだ。
承太郎が先陣を切って歩いていくが、玄関に鍵がかかっているのを見て彼が拳を握りしめたので慌てて止めた。
「私が開けるから、壊さないで。」
仗助くんに直してもらおうと考えたのだろうが、私だって壊さずに開けることができるのだ。騒ぎをおこして近隣の住民に見られるのはまずい。ス、と右手を玄関の引き戸の鍵へ伸ばし、向こう側からカチャ、と鍵を開けた。
「…お前のスタンド能力、忘れてたぜ。」
普段、パワータイプで前線で暴れてるからな、と余計な事を言うが、あながち間違いではないのでなにも言わな…、言えなかった。
ガラガラ、と戸を引いて玄関へ足を踏み入れると、よく整頓されている。吉良吉影が几帳面な性格なのだろうと予想できる。
戸が開いた事で、全員ぞろぞろと家の中へと足を踏み入れていく。承太郎はともかく若い子たちまで…人の家に勝手に入る事に抵抗などはないのだろうかと、少しだけこの子達が心配になった。
典明が家の中へハイエロファントの触手を伸ばし、異変がないか確認している中、ガチャ、バタン、ガラ、と躊躇なくキッチンの中の引き出しという引き出しを開けていく。予想はしていたが、台所にはなにもなさそうである。
「康一くん、億泰くん。次の部屋に行こう。」
全てチェックした事を確認して、隣の部屋、風呂場と洗面所のドアを開ける。そこで待ってて、と伝えて1人で洗面台のドアを開けるも、特に変わったものは無い。
「なまえちゃん、あ。なまえさん。こういうの慣れてんだな。」
億泰くんは私を見て感心したように声を上げたが、いつも仗助くんと話す時にそう呼んでいるのだろうか?私を"なまえちゃん"と呼んだのを言い直したのがかわいくて、思わず笑みが漏れた。
「ふふ。好きに呼んでくれていいよ。」
風呂場もチェックしてここから出ようと促して、次の部屋へと向かう。この屋敷はまぁまぁの広さがあるが、使っていない部屋もたくさんある。なるべく効率よく調査したいが、突然何が起こるか分からないため、二手に分かれて、それ以上は分かれないようにしているのだ。
「私、こう見えてSPW財団の人間だからさ。戦闘員としての仕事の方が多いけど、ちょっと危険な場所での調査もあったりするし、そりゃ慣れるよね。」
「…俺、やっぱりなまえちゃんが危険な仕事してるなんて、想像できねえな…。昨日も、傷だらけのなまえちゃん見て、驚いたんだよ。俺は。」
そうか、昨日仗助くんと億泰くんは2人で駆けつけてくれたと言っていた。情けないところを見せてしまった。
「心配かけてごめんね。露伴のとこでいっぱい寝たし、もう元気だよ。」
「えっ?」
安心させようと口にした言葉に、康一くんも億泰くんも、驚いて目を見開いて私を見ている。
「まままままま、まさか露伴先生とつつつ、」「違う。そんな関係じゃあない。」
康一くんの動揺した声に返答したのは、私ではなく典明だ。久しぶりに見た、眉間に皺を寄せた顔だ。
「いやいやいやいや…。そういや前は岸辺くん、って呼んでたじゃあねぇか。最近いっつも一緒にいるしよぉ。」
「違う!断じて違う!なまえの恋人は、僕だけだ!」
なんだ、ヤキモチか。思わずニヤニヤと笑みが零れたが、目が合った途端、典明にゲンコツされた。大して痛くないが、酷い。なんで。
「この辺りの部屋は何も無い。承太郎と合流しよう。」
この会話を終わらせるように、典明はそう言って背を向けて歩き出した。さっきのゲンコツも痛くなかったし、それほど怒っているわけではなさそうだ。プンプンと効果音が聞こえてきそうな典明の後ろ姿がかわいくて、後ろから典明の腰に腕を回して下から顔を覗き込むとやはり怒ってはいないらしく、やや見つめあったのち、ふ…と笑顔を浮かべた。典明が私の背中に腕を回した事でさらに体が密着し、思わずドキドキしていたら「確かに…露伴の入る隙はなさそうだな…。」と億泰くんの納得したような声が聞こえてきた。
ガシャン!
吉良吉影の私室から、何やら聞こえてきた物音。仗助くんの声も聞こえてくる部屋へ飛び込むと、誰かと電話が繋がっているようだった。承太郎は手をこちらに向け、それ以上近づくなと制止をかけている。仗助くんの言う事を要約すると、吉良吉影の父親の幽霊がスタンド攻撃を行使してきたようだった。
仗助くんが「こうしてやるよ!」と承太郎の持っていた写真をビリビリに破くと、それと連動して2人の体が裂けるので慌てて「仗助くん!直して!」と叫び声を上げる。すぐにクレイジー・ダイヤモンドで直したから良かったものの、仗助くんは考えずに行動するのでハラハラしてしまう。
「億泰!オメーの出番だぜ!ザ・ハンドで、写真のこの親父のところだけ、削り取ってくれ!」
仗助くんの言葉に、億泰くんは飛び出してしまった。敵の能力もまだよく分からないのに、危なっかしくて見ていられない!
案の定、億泰くんは向こうに吹っ飛んで行ってしまった。というより、仗助くん達のいる空間がないものとなっているようで、その空間に到達した瞬間、向こう側へいたのだ。この空間には、こちらからは干渉できないようだ。試しにクイーンの能力を発動して中の空間を掴もうとしてみたが、手が向こう側へ行ってしまった。これでは、中にいる2人がどうにかするしかない。
「仗助。俺はもう諦めたぞ。」
承太郎のその声に、仗助くんは絶望的な表情になる。だが、承太郎は諦めている顔ではない。全く、言葉が足りない奴だ。引き出しから包丁が仗助くんに向かって飛んでいき、触れる事ができずに仗助くんは承太郎に助けを求めるが…。承太郎は冷静に、いつの間にか手にした写真をカメラへと向け、シャッターを切った。なるほどね…そういう事…。
もう入れるだろうと先程の切り取られた空間へ足を踏み入れると、なんの問題もない。仗助くんの元へ行き背中を摩ってあげた。
「承太郎が言葉足らずでごめんね…怖かったでしょう。」
いつもいつも、何か作戦があるのかないのか、分かりにくいのだ。私や典明ならまだしも、この子達にそれを察しろというのは酷なのではないか。
「…仗助。コイツに何か言ってやれ。決めのセリフをバシッと。」
「えっ。」
承太郎の突然の無茶振りに、仗助くんは狼狽えて考え、その末に「お前なんか全然怖くなかったぜ!バーーーカ!!!」というかわいらしいセリフを吐くので、かわいくて思わず笑ってしまった。
1人写真に取り残された吉良吉影の父親はもう一度写真を撮ろうとするがスタープラチナに阻止され、半分に折り畳まれて柱に画鋲で打ちつけられている。
見つけてほしくない何かがあるはずだと承太郎の推測で部屋の捜索をすると、承太郎の言った通り、それはあった。弓と矢だ。仗助くんが開けた引き出しから見つけたそれは、形こそ違うが私が過去、DIOに贈られた物と同じだ。
「なんだか、向こうが騒がしいな。」
典明の言葉に意識を吉良吉影の部屋へ向けると、確かに騒がしい。何かあったのだろうか?
「気をつけろ!吉良の父親が逃げた!」
承太郎が部屋に来るなりそう言うが、次の瞬間には、仗助くんの手の中から矢は奪われ、壁の隙間へと消えていった。
外を見ると、カラスに糸を巻きつけて空を逃げているのが確認できるが、もう遠くまで行ってしまっている。典明がハイエロファントの触手を伸ばしても、もう見えない所まで遠ざかってしまい、追跡は困難だった。弓と矢が、この杜王町に2組あったなんて…。これは、吉良吉影の問題とは別に、仕事が増えた事を意味している。思わず頭が痛くなる…。
「俺のせいだ…!」
億泰くんが申し訳なさそうに声を上げると、承太郎が「いや、億泰。奴の方が上手だった。あの父親にしてあの息子あり、といったところだ。」と珍しく上手にフォローしていて少し驚いた。
「気にするな。吉良吉影を追っていけば、いつか必ず辿り着く。」
典明も優しい笑顔でフォローしているが、その優しい笑顔は私にいつも向けられているものとは少し違くて、思わずじっと見つめてしまう。
「なまえ…?…もしかして、今、僕に見とれてないか?」
「!…うん。よく分かったね。」
正直に答えると、典明に呆れた顔をされたが、その顔すらもかっこいい。
「…君が僕に見とれてる時の顔、とてもかわいいんだ。今すぐキスしたいくらい。」
最後の言葉は小声で言われたのだが、それをすぐ隣に立ち、顔を覗き込みながら笑顔で言うものだから、思わず床に倒れた。
「お、おい。なまえちゃん、大丈夫かよォ!?」
近くにいた億泰くんがアワアワと慌てている。突然倒れたが、目を開けて明らかに意識のある状態なので、どうしていいか分からないのだろう。典明はそんな私をニコニコと見下ろしているのだが。
「大丈夫だよ、億泰くん…。典明がかっこよすぎて、腰が抜けただけ。」
腰が抜けたどころか、全身力が入らないが!
「こんな時にふざけないでくださいよ〜!」と康一くんは言うが、決してふざけてなんかいないのだ。みんな私の事を最強だと思っているが、私は典明に勝てないのだ。絶対に。つまり、典明が最強という事だ。
「ハァ…コイツのこれはいつもの事だ。帰るぞ。」
承太郎のその言葉を合図に、我々は帰宅した。なぜか私は露伴の家で降ろされたのだが「毎日のように通っているのだから構わないだろう。何かあったら連絡しろ。」とだけ言い残して行ってしまったので仕方なく家のインターホンを押した。