第2部 杜王町の殺人鬼
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目を覚ましたのは、なぜか誰かの家だった。病院でも、ホテルでもない。
「…典明…?」
何となく見覚えのあるような気がする部屋を見渡しながら典明を呼ぶと、彼はすぐさま姿を現して柔らかい笑顔を浮かべた。
「良かった。仗助に、傷は治してもらったんだ。ここは、露伴の家だよ。」
岸辺くんの…?あぁ、通りで見覚えがあると思った。だけど、なぜ…。
「ふふ。仗助が、来る前に露伴に連絡したらしい。あの後すぐに、車で来てくれたんだ。」
仗助くんが、大嫌いな、岸辺くんに、連絡を。珍しい事もあるものだ。
「…典明。疲れた。もっと寝たい。」
体は綺麗に元に戻っているが、なかなかにハードだったため頭が休みたいと言っている。ベッドに腰掛ける典明に擦り寄って手を握ると「ふ…かわいい。かわいいね。なまえ。」と頬をフニフニと触られて思わず笑みが零れる。…死ななくてよかった。
コンコン、という控えめなノックの音に反射的に返事をすると、ドアは勢いよく開かれた。
「目を覚ましたのか!起きたんなら、教えてくれたっていいじゃあないか!花京院さん!」
今さっき起きたばかりで、典明と穏やかな時を過ごしていたので、彼の声は頭に響いて、思わず布団を頭までかけた。
「おい露伴。なまえは今起きたばかりなんだ。煩いぞ。」
「んん…露伴、煩い…。」
視界が暗くなって、また眠れそうだな、と目を閉じたのだが「待っ、待ってくれなまえさん!今…!」とまたしても大声を出している。名前を呼ばれたので目だけ布団から出すと「今、僕の名前を…!」と驚いているようだ。名前…確かに今、下の名前で呼んだかもしれない。典明がそう呼ぶから、寝ぼけた頭で無意識に真似してしまったのだろう。
「ん…。呼んだかも。」
岸辺くん…いや、もうこの際露伴でいいや。彼は感激したように口に手を当てて、目を開いて喜んでいる。そこまで、嬉しいものなのだろうか?
「典明、もっとこっち来て。ここ。」
ポンポンと枕元に典明を呼ぶと、彼はベッドの横に膝をついて、畳んだ腕に顔を乗せた。うん。完璧。煩さでしばらく眠気はやってきそうにないので、典明の顔を見て癒されたい。
「はぁー…かっこいい。ずっと眺めていたい。ねぇ露伴。ちょっとこっちきてみて。典明がかっこよすぎる。」
「…あぁ。これは確かに。」
私の後ろに回り込んだ露伴が真剣な声で同意を示した。やはり、男性から見てもかっこいいのだ、典明は。
「まだ寝ぼけてるのか?なまえ。…はぁ。かわいい…。本当にかわいいね、なまえ。」
典明と指を絡めてきゅ、と握ったり、スリスリと摩ったり。なんだか安心してきた。
「露伴…。露伴も手を握ってくれない?そうしてくれたら…もう少し眠れそうなの。」
「…!」
その言葉に露伴は、若干緊張しながら典明の隣に回り込んできて、ストンと膝をついた。近くで見る露伴の顔は、じっと観察すると意外にも整っているのが分かった。典明程ではないが。その目の前の彼は、おずおずと右手を差し出してきたので右手を開いて待っていると、やがて触れ合い、優しく握られた。
「…温かい…。」
典明が優しい顔で私を見るから、ふにゃと笑顔を返すと露伴はなぜか「うっ…!」と呻いたが、やってくる眠気に逆らいたくなくて目を閉じてスルーした。
「おやすみ、なまえ。」
その典明の声を最後に、再び意識は途切れた。
次に目を覚ました時、部屋の中には典明と、露伴と、承太郎がいた。3人が何やら神妙な面持ちで話しているので、私も話を聞こうとムクリと起き上がる。二度寝した頭と体は、スッキリしていた。
「なまえ…。」
眉間に皺を寄せ、承太郎は私に、あの後の事を話し出す。康一くんが突き止めた吉良吉影という男。奴は名前を知られた事で逃走し、顔や体を人と入れ替えることのできるスタンド使い 辻彩の元へ行き、別人の顔、体になったと…。そしてその辻彩さんは、奴のスタンド能力によって、殺されてしまったのだと伝えられた。
「そんな…また、振り出しなんて…。」
犯人を見つけ出したのに、もう少しで殺せたのに、奴は、吉良吉影は、別人になって逃げ仰せている。
そして重ちーに続いて、また非戦闘員の被害を出してしまった。悔しい…。ベッドの上で悔しさで震えていると「振り出しじゃあないぜ。」と承太郎は言った。
「辻彩の能力で別人にはなったが、背格好は変わらない。それに、吉良吉影は吉良吉影だ。習慣や性格までは変えられない。昨日の今頃よりは、情報は出ているぜ。」
昨日の今頃、という言葉に外を見ると、窓から差し込んでいるのは朝日だと気付いた。まさか日が変わるまで眠っていたとは驚きだ。
「今日はこれから吉良吉影が住んでいた家に行く。行けそうか?」
承太郎はホテルに置いていた私の荷物を差し出す。着替えやらなんやらが全て入っている鞄である。全く用意がいい。
「うん。30分あれば出られる。露伴、シャワー貸して。」
「あぁ。使い方を教えよう。こっちだ。」
鞄から着替えを取って露伴の案内で風呂場まで行くと、彼はポツリと「あまり無茶はするな…。」と呟いた。昨日、典明に何か聞いたのだろうか?
「君の仕事の邪魔はしない。だが、心配や忠告はさせてくれ。」と言った彼の顔は真剣そのものだった。
なんだか典明に言われているようで「ふふ。分かった、ありがとう。」と少し笑ってしまったので、彼は本当に分かったのか?と眉を顰めた。
「露伴。なまえは分かってて直さない、いや、直せないんだ。…困った事にな。」
典明はため息をついて私の頭にポン、と手を置いた。私は苦笑いを返すしかない。
「ハァ…そうだろうな。花京院さんが彼女を心配しないわけがない。今までの苦労が目に浮かぶよ。…ほら、これでお湯が出る。」
露伴も諦めたようにため息をついて、シャワーのお湯を出し、お風呂場、脱衣所から出て行った。
本当に、いつの間にか2人は仲良くなっていて驚いてしまう。私を経由しているはずなのに、私の知らないところで信頼関係が築かれている。なんとも不思議な気分である。