第2部 杜王町の殺人鬼
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「注意深く観察して行動しろ、だぜ。康一くん。」
承太郎は既に観察を終え、犯人像を絞り込んでいる。
身長175センチ前後、会社員、独身、年齢は25歳から35歳、比較的裕福な男。そこまで分かっているなら、この狭い田舎町の中から見つけ出すことは難しい事ではないだろう。少々、骨は折れるが。
それでも康一くんは、そこにいるのだから追おうと口にするが…承太郎はゆっくりと辺りを見回した。
「追うなというより追えないんだ。どっかその辺に、さっきの爆弾スタンドがいるからだ。」
「えっ!?スタンドが!み、見たんですか…!?」
康一くんはキョロキョロと辺りを見回すが、姿は見えない。飛び出すタイミングを見計らっているのだろう。…右手の痛みは、大分引いてきた。まだ血は出ているが、もうすぐ塞がるだろう。
「見てはいない。だがいるはずだ。ゆっくりと、ドアから外に出るんだ。」
康一くんは承太郎の言葉を半信半疑で聞いている。戦闘経験がないのだから、仕方のない事だ。
「康一くん。承太郎の言葉に従って、ゆっくり、外に出るよ。大丈夫。私と、承太郎と典明、最強の3人がついてる。」
最強の3人。その言葉は康一くんを安心させるには充分な言葉だろう。典明のハイエロファントの触手を最低限伸ばしつつ、全員ドアの方へ寄って歩く。
「康一くん!危ない!!」
本当にいるのかなぁ?と油断していた康一くん目掛けて、先程の爆弾のスタンドが飛び掛ってきた。それを左手を伸ばして康一くんへ触れるのを阻止して、床へとたたき落とすが、今の感触。このスタンドは、かなり硬いという事が分かった。かなりの力で叩き落としたはずだが傷一つついていないし、左手がジンジンと痺れている。これは、少し厄介かもしれない。
カチッ、と嫌な音が聞こえ、康一くんと典明の背中を抑えた直後「スタープラチナ!ザ・ワールド!」という声とともに時間が飛び、床に穴が空いていた。爆発はしていないようだ。
康一くんは「時間を止めたんですね!」と喜んでいるが、承太郎は眉間に皺を寄せて床に空いた穴を睨みつけている。まさか、壊せなかったというのか、承太郎に。
私も典明も穴を睨みつけていると、微かに、カタカタと音が聞こえるのに気がついた。
「まだ倒してない!下がって康一くん!」
私の声と同時に、穴からスタンドが飛び出した。スタープラチナがオラオラとパンチを繰り出すが、やはりダメージは入っていなさそうだ。最後に私もパンチを当てるが、やはり硬い…!硬すぎる!
またも向かってくるスタンドを、スタープラチナは今度は内側から割ろうとするも、カチ、とスイッチが入ってしまい外に投げるしかなかった。スタンドは壊れない、触ると爆発する、では、現状どうすれば良いのか分からない。
「10メートル以内に本体がいるはずです!」と、康一くんは本体を叩く事を提案するが、承太郎は「余計な事はするな。」と突っぱねてしまった。…本当に、言葉足らずだな…!
「康一くん。私達は、あなたを守らなくちゃいけないの。下がって、敵の攻撃を躱すことに集中して。じゃないと死んじゃうよ?」
康一くんは悔しそうにスタンドを出し、外へと飛ばした。承太郎に戦力外扱いされたと思っているのだろう。典明もハイエロファントを外に伸ばして、遠くから敵本体の位置を確認している。もう、70メートルは離れているようだ。
「コッチヲミロォォ!」
敵スタンドは、近くにいる承太郎ではなく康一くんに照準を合わせて向かってきている。
「分かったぜ。ソイツは温度の高い方を優先的に追撃してくるスタンドだ。だから遠隔操作でも、パワフルに攻撃できる!エコーズで身を守れ!」
承太郎がそう叫ぶが、康一くんのスタンドは外に出している。咄嗟にサッと体を間に潜り込ませ、スタンドに向かって踵落としを落とすが、大したダメージにはなっていない。カチ、という音を聞き、康一くんと典明を抱いて距離を取った。このままでは、ずっと平行線だ。考えろ。考えろ。考えろ!
頭をフル回転させて辺りを見回していると、スタープラチナが木片で火を起こしているのに気がついた。敵スタンドは、その熱の方へ向かっていっている。なるほど…熱感知…!
「!このパワーは…!!」
「承太郎!!」
今までの爆発とは比にならないレベルの爆発。いや、大爆発だ。それを近くで食らってしまった承太郎は、血を流し、壁に激突して気を失ってしまった。
「大丈夫…!生きてるッ…!!」
典明に康一くんを任せて承太郎に駆け寄ると、気を失っているだけで脈は正常だ。頭を打ってしまったのだろう。承太郎を抱き上げて、治癒の波紋を流しながら考える。司令塔をしていた承太郎がいない今、私か、典明がこの次のアクションを考えなければならない。出入口には敵スタンド。私1人であれば簡単に出る事はできるが、3人を安全に外に出すのはどうだろうか?
「典明。次の指示をお願い。」
「!」
バリバリの戦闘派の私よりは、典明の方がいい手を思い浮かぶであろうと典明に振ると、彼は一瞬驚いた表情を見せたがすぐに視線を巡らせ、後ろのドアへと目を向けた。
「奥へ逃げよう。」
典明の言葉に、私達は奥の扉へと足を向けた。敵スタンドは今の爆発は人間ではないと気づき、またしてもこちらへ向かってきている。
「康一くん!電気をつけてくれ!」
先に走る康一くんへ指示し、電気がつくと、敵スタンドは照明へと向かっていく。時間稼ぎにはなっているようだ。咄嗟に気がつくなんて、やはり典明に任せて正解だった。
「ここは、台所!ここならいっぱい火があるぞ!」
康一くんは安心してコンロを点火するが、どうやら電気コンロのようだ。次に見つけた電気ポットを投げつけるも、中身は空っぽ。本当に、ツイてない。
承太郎を床に座らせ、典明を見る。彼も眉間に皺を寄せて考えている所を見るに、いい案は浮かんでいないようだ。ふと、テーブルに置かれた新聞紙が目に入る。これを使えば、時間稼ぎはできるかもしれない。
「…緋色の波紋疾走!」
台所の入口まで来ていた敵スタンドへ向かって丸めた新聞紙をばら撒き、それに波紋のエネルギーを流し込んだ。新聞紙が燃え尽きるまでの、本当に僅かな時間だが、時間を稼ぎたい。敵は新聞紙の火に向かって、あちこち行き交っている。しかし、紙には限りがある。そして、火を起こすと温度が高すぎて、威力も上がるようだ。奴との距離を見誤り、何度か爆風を食らってしまった。
「なまえ…!」
「典明!!私の心配をしてる場合じゃない!次の手を考えて!」
こちらへ一歩踏み出そうとした典明を言葉で制止する。少し、キツい言葉になってしまったが、もう、紙がなくなってしまったのだ。こうなったら、自分の体で行くしかない…!
「なまえ!」
波紋の呼吸で、体温を上げる。この中の、誰よりも。そしてみんなから距離をとり、廊下へと戻った。決して離れすぎないように、距離に気をつけながら。
上へ下へと移動しながらしばらく逃げ回っていると、急に敵スタンドは台所の方へと向かっていき、そして大爆発の音と同時に、また体から血が噴き出した。典明が、攻撃を食らったのだ。
「う…みんな、無事?」
台所へ入るとハイエロファントがすぐさま私を引っ張り、全員外へと脱出した。みんな少なからず負傷しているようだが、承太郎ほど大きな怪我はないようで安心した。
「本当に君は…!」
典明は、血だらけの私を正面からぎゅ、と抱きしめた。安心したくてそうしているのだろうと、振りほどきはせずに黙って受け入れた。
「…康一くんが今、電話で仗助を呼んだ。彼が来る前に、奴を倒そう。」
仗助くんが来る。それだけで心強くて、不思議な気分だ。まるで、10年前の承太郎みたいだ。