第1部 M県S市杜王町
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-岸辺露伴視点-
一度ヘブンズ・ドアを解除すると、2人は無言で抱き合った。正確には、花京院さんが抱きしめて、なまえさんが背中を摩っている、だが。
お茶を入れて戻ってくると、2人はもう離れていて、なまえさんが凝った体を解していたので彼女の前にお茶を置いた。休憩にして正解だったな。
僕もお茶を飲んで、一息ついた。
「…思っていたよりも、すごい旅だな…。」
内心、僕だったら行きたくない、と思っている。簡単に、あっさりと人が死ぬのだ。この人達のメンタルが、羨ましい。そりゃあ、最強にもなるだろう。
「続き、見られそう?」
そう言う彼女は笑顔だが眉が下がっていて、気遣わしげな表情をしていた。彼女のこんな顔、初めてだ。
「もうちょっと休んだら、読ませてもらうよ。」
正直に伝えると、彼女は安心した表情になった。彼女が、僕に見てほしい記憶とは、どれの事だろうか?花京院さんへの愛は、胸焼けするほどに伝わってきた。今の彼女とは少し違う、本当に純粋な、熱いほどの愛。
…もしかして、過去と今、変わってしまったところ。あるいは変わっていく過程を見て欲しいのではないか?なんにしても見ない事には始まらない。
…もう一度、覚悟を決めるか。本日二度目の覚悟を。
「ヘブンズ・ドア!」
続きは、またしてもDIOに攫われるところからだ。彼女は、DIOという男に大層気に入られているようだ。何度も夢に出てきたと言っていたし、早くも二度、攫われている。そして、伴侶にしたいと、しつこく言っているようだ。しつこい男だな。
しかし、DIOという男は吸血鬼だと書いてあるのに驚いた。まさか、本当にいるとは、誰も思わないだろう。だから、伴侶にすると言いながらも、血を欲していたのか。とても、興味深い。
読み進めると、動けないなまえさんを花京院さんが助けたので安心した。のだが、驚くべき事に、自分が囮になって2人を逃がしたと書いてあって目眩がした。
「なまえさん…無茶しすぎじゃあないか…?花京院さんや承太郎さんが過保護になるのも、やっと理解できた。」
「ほら!やっぱり君は無茶をしすぎだ!」
花京院さんの反応を見るに、今まで何度も無茶するなと注意してきたのだろうと分かった。そして、それを今まで無視し続けている事も。思わずため息が漏れた。
「この後、僕は死ぬ。事前に、知っていた方がショックは少ないだろう。」
花京院さんが突然、声のトーンを落としてそう言うので、驚いて彼を見た。その瞳はどこか遠くを見ているようで、既に心臓が締め付けられる。
見なくては。きちんと。真剣に。
思わず手が震えるが、それを気にもとめず、ページを捲った。
「!?そんな……こんなに、あっさりと…!?」
思わず口を手で覆った。だって、こんな事があるか!?あの花京院さんが、こんなにもあっさりと死ぬ、なんて事!なまえさんの感情も書かれているそれは、あまりにも切なくて、あまりにも悲しい。さすがの僕も、涙が出てくるのが分かった。なまえさんを見ると、彼女も思い出して、涙を流している。
紙が濡れてしまわないように、そばにあったティッシュを花京院さんに渡すと、受け取ったハイエロファントが優しく拭ってあげていた。
花京院さんが息を引き取ったあとの彼女は、かっこよくて、強かった。大事な人を殺されて、その悔しさをバネに、かなりの無茶をしているが、それがとてもかっこいいのだ。頭をちゃんと切り替えて、ボロボロになりながら戦い、彼を迎えに行くまで、全てがかっこいい。この2人はどちらも、世界一、宇宙一かっこいい2人だ。
涙は未だ、流れ続けているが、ページを捲って新しいページを見た途端、涙が引っ込んだ。花京院さんも驚いたように、そのページを見ている。
"典明 好き 大好き 愛してる 死なないで 置いていかないで 寂しい 死にたい 死にたい 死にたい"そのような単語が、黒いページに白字で埋め尽くされている。
これは、彼女の闇だ。彼女に悟られないよう、ページを捲ると、2人の間の子供ができたと書かれている。嬉しいが、花京院さんがいないと、上手く育てられる自信がないと、彼女の不安が読み取れる。産まれてからはかわいがって育てていたようだが、妊娠出産はSPW財団の力で学校には秘密にされていたため、体が回復したあとは普通に復学したようで、学校が終わって帰ってきてからしか育児ができなかったようだ。
SPW財団入社後はかなり忙しく世界中を飛び回っており、帰国する度に花京院さんに似てくる我が子にどう接していいか分からず、精神を病んでいる。
…これは確かに、旅の時とはまた違う過酷さだ。よく、ここまで回復したものだと感心した。
「!」
次に見えたのは自殺未遂、という文字。そばにいる花京院さんには触れられない。会話もできない。承太郎さんも忙しく世界中を飛び回っている。孤独だ。孤独は、人を弱くするものだ。もう、DIOを倒した時のかっこいい彼女は、姿を消してしまっている。思わずため息が漏れた。胸が、苦しいのだ。なんて人生を、送っているのだ。彼女は。
花京院さんを悲しませて、承太郎さんに怒られて、彼女は反省をしたようだが、それでもここまで黒くなってしまった心を浄化するのは、到底無理だったようだ。
そこからしばらくは、真っ黒なページが続いている。
その黒が薄まったページには、2人の子供、典親の事が書かれているようだった。喋れるようになってきた頃、かわいらしい笑顔で「まま」と呼んでくれたと書いてある。そこで彼女は、自分はこの子のママで、この子は私の子供。この子は、花京院さんではないと改めて気付かされたと。やはり、子供の力はすごい。真っ黒だったものを、たった一言でここまで軽くするものなのかと驚くほどだ。
さらに軽くなったのは、ここ、杜王町に来てから。つまり最近の事だ。徐々に黒が薄まって、一番新しいページは、通常の白色に戻っている。
「これは、昨日の事か…?」
花京院さんに聞くと「そうだ。」と同意の言葉が返ってきた。詳細は一切聞いていないが、僕に見てほしいと言っていたページのひとつだ。文字を目で追うと、彼女が何を聞きたがっていたのか理解した。同時に、やっぱりなまえさんと花京院さんはすごい人達なのだと、再認識した。