第1部 M県S市杜王町
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「もし読まれている最中、何かあったら……何かしらの方法で教えてくれ。そうだ、花京院さんに手を握っててもらおう。」
楽な姿勢でいられるようにと、ソファのある部屋に移動して、全員心の準備を決めた。今の岸辺くんはもう、初めて会った時の面影なんてない程に、私を気遣ってくれている。その彼を安心させるように笑顔を見せると安心したように笑ったので、やはり少し不安がっていたのだろうと思った。
「典明。典明も、読んで。旅の間の、私の記憶。」
「!…分かった。」
紳士的な彼の事だから、私の胸の内など読む気はないだろうと思い、彼にお願いをした。典明の事をいつから、どのくらい愛していたのか、知っておいてほしいのだ。
「じゃあ、行くぞ…。ヘブンズ・ドア!」
岸辺くんのその言葉を合図に、意識が薄れていくが、前みたいに気を失ったりはしなかったようだ。手足は全く動かせないし声を出すことはできないが、紙になった部分が、なんだか擽ったい感覚がある。
「花京院さん。ページを捲って、僕が読んでも問題ないか、先に確認してくれ。」
「…分かった。」
岸辺くんと、典明の声がしっかりと聞こえる。体だけ、部分麻酔をされたような感覚だ。典明が恐る恐るページを捲るのを確認して、ゆっくり目を閉じた。
「…このページはダメだ。次のページを確認する。」
その言葉に、杉本美鈴にヘブンズ・ドアを使った時の事を思い出した。確か最初のページには、身長・体重・スリーサイズ、それから身体的特徴まで書かれていたのだ。確かに、体重やスリーサイズを知られるのは嫌だなぁ、と思わず笑うと「!なまえさん、意識が…。」と岸辺くんは驚いた様子だ。通常は意識を失うものなのだろうか?パチパチと瞬きをして大丈夫だと伝えるとちゃんと伝わったようで、典明が私の手を指の腹で撫でた。やっぱり少し擽ったくて、私は再び目を閉じた。
-岸辺露伴視点-
「ここからなら、構わないだろう。」
花京院さんのOKが出たのでなまえさんの方へ目を向けると、2ページ目、つまり基本情報の次のページだった。基本情報には身長・体重・スリーサイズまで書かれているので、花京院さんの気遣いだろう。
「この辺りは、以前直接聞いた話だな。全て読みたいが…今はやめておこう…。」
パラパラとページ目的のページまで飛ばして、ついに、前に話した場面の続き、花京院さんが目に怪我を負ったシーンに辿り着いた。
「なまえ…。君、気を失った僕を1人で…。」
水のスタンド使い。それもかなり手強い。なまえさんを庇おうと、花京院さんが両目に怪我を負い、そのまま気を失ったようだ。彼女は花京院さんを守ろうと、1人で抱えて走り、敵の攻撃から守っていた。なんとも健気だ。応援したくなる。
「ここからは、入院、しているようだな…。」
入院、という単語を聞いて、彼女が花京院さんに合図を送ったらしい。なにか、僕に知られたくない事があるようだ。花京院さんの彼女に対する反応を見るに、どうせ好き勝手イチャイチャしているんだろうと予想した。
「入院中のページは、僕だけが読む。すまないが、待っていてくれないか。」
花京院さんとなまえさんのお願いだ。断るわけにはいかない。すぐに了承して一歩後ろで待機する事にしたが…そのページを見ている花京院さんの僅かに見える耳が、段々と顔が赤くなっていって「君…僕の事本当に大好きだな…。」と呆れたように呟いたので、やっぱりただイチャイチャしているだけだったようだ。
「ゴホン。…すまない。ここから読んでくれ。」
ここ、と指定されたのは、カイロのホテルにいるところから。ホテル…それも同室…そして花京院さんの肉体に関する感想などが書かれていて色々と察した。…なるほど。彼等の間の子供は、この時の子か、と納得した。
「カイロのホテル…。ここで指輪を…。クソ…かっこいいじゃあないか、花京院さん。…本当に、幸せそうだな…2人とも。」
彼女がいつもしているパープルダイヤモンドの指輪。セリフも渡し方も、全てがかっこよすぎて、花京院さんは漫画のキャラクターなのではないかと疑うレベルだ。この見た目なので、それはそれはサマになるだろう。
ペラ、と次のページを見ると、イギー…あの犬の事が書かれていた。2人が外で出会った時、前足を1本失っていたと書かれている。
「!あの犬、義足だったのか?やる気のない顔をしているのに、やる時はやる奴なんだな。どんなスタンドなのか、1度見てみたい。」
「…やめておいた方がいい。」
イギーという犬の事は、正直よく知らないが、花京院さんは表情を固くしている。あんなに小さい犬だというのに、もしやとても凶暴なのだろうか?
少しあの犬に興味が湧いてきたが、花京院さんが「…ここからは、慎重に読み進めよう…。」と声のトーンを落として言うので、改めて気を引き締めた。そして、ゆっくりとページを捲った。
「!これは…!すごい…すごい緊張感だ!光景が、目に浮かぶようだ…!テレンス・T・ダービー…。肉弾戦じゃあないのか。…なるほど。ゲームで負かした相手の魂を人形に。…花京院さん、アンタ、ゲームが得意なのか!」
館を見つけてから中に入るまでも緊張感があったが、敵との対峙もものすごい緊張感だ。思わず手が震えるのが分かる。
しかし、花京院さんがゲームが得意でかっこいい、という単語を見て、意外性があって驚いた。
「いや…ただ、好きなだけだ。ほら、負けているだろう。」
「何を言ってるんだ!なまえさんの記憶を読むに、相当上手いぞ!へぇ…意外だな。…だが、そうか…負けてしまったのか。……なまえさんの動揺が、文字から伝わってくる…。無理もないな。魂を抜かれたんだ。」
負けてしまった事で花京院さんの魂が引っ張り出される場面を目の前で見せられたなまえさんの当時の心境は、見るに耐えないものだった。敵スタンドと彼の魂を引っ張りあった末に、自ら手を離した彼女の心境に、思わず胸が締め付けられる感覚がする。
「この時は、心配させてしまったね…。こんなに取り乱して…。魂を取り戻してくれた承太郎に、改めて感謝しなくちゃな。」
その後には、承太郎さんがきちんと魂を取り戻していたのでホッと安堵のため息がでたのだが…。
「承太郎さんの精神力…半端じゃあないな。」
確かに彼は、何を考えているか分からない所があるが、これはそんな言葉で済ませていいレベルではない気がする。
それと前から気になっていたのだが、なまえさんは、承太郎さんとの距離が近すぎるんじゃあないか?花京院さんの魂を取り返してもらったとはいえ、抱きついた上にキスまでするか?普通。
「やっぱり、キスしてたんじゃあないか。」
花京院さんは拗ねたようにそう言っているが、その程度でいいのか…?後で、承太郎さんとの関係も読ませてもらおう。
「!この直後、DIOに攫われるのか…。あぁでも、すぐに逃げているのか……。」
「ッ、君!こんな簡単に、殺せたのか!?」
殺せた、という物騒な単語。今読んでいた所の少し後、犬を助けたシーンに、その物騒な単語が書いてある。心臓を掴んで引っ張り出した、と。犬を助けるために、人を殺したと。言葉にするとおぞましく感じるが、あの犬は彼女の仲間で、仲間を助けるためには殺すしかなかったのだと思う。殺さずに助けるなんて都合のいい事は、できなかったはずだ。10年前のこの事件は、僕が思っていたよりも過酷で、血腥い。
覚悟はしていたつもりだったが、全然足りていなかった。気がつくと、午後3時。一度休憩にしようと、彼女のために言ったように装ったが、本当は、自分の頭が疲れているからだった。お茶でも飲んで、一度リセットしよう。