第5部 杜王町を離れるまで 後編
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私は今、所謂バージンロードを歩いている。隣には貞夫さんがいて、一歩、また一歩と、ゆっくりと歩を進めている。俯いていて前は見えていないが、この先には露伴の体を借りた典明が立っている。
足を一歩踏み出す度に、これまでの記憶がひとつひとつ蘇ってくる。
DIOと出会い、スタンド使いになった事。
花京院典明と出会った事。
その人に恋をした事。
エジプトに向かった事。
旅での事。
想い人であった花京院典明と恋人になった事。
その人と体を重ねた事。
彼の死、絶望、暗闇。
ベール越しに、いつか私が選んだ靴が見えた。貞夫さんとは、ここでお別れだ。
自身の手を貞夫さんから典明へと移したが、顔は見ない。きっと今見たら、泣いてしまうから。
止まった足をまた、一歩、一歩と踏み出す。
次に思い出すのは、杜王町に来てからの事だ。
最悪だった、露伴との出会い。
典明と初めての大喧嘩。
承太郎と初めての大喧嘩。
吉良吉影との死闘。
典明からのプロポーズ。
露伴と"Tenmei"を描いた事。
あぁ、私本当に、生きてて良かった。
「新郎、花京院典明。あなたはここにいるみょうじなまえを、悲しみ深い時も喜びに充ちた時も、共に過ごし、愛をもって互いに支えあうことを誓いますか?」
「…はい。誓います。」
静かな教会内に、よく通る典明の声が響く。それは私の胸まで震わせて、涙が出そうになるのをグッと堪えた。
「新婦、みょうじなまえ。あなたはここにいる花京院典明を、悲しみ深い時も喜びに充ちた時も、共に過ごし、愛をもって互いに支えあうことを誓いますか?」
「はい。誓います。」
そんなの、もう何年も前から誓っている。
「では…指輪の交換を…。」
ゆっくりとグローブを外し手を差し出すと、典明の手が温かくて少し驚いた。露伴の体に入っているので当たり前なのだが、典明の体温を感じた気がして、思わず涙が出そうになった。
「ふ…」と典明が微笑む気配を感じてチラリと覗き見ると、やはりこちらに向かって微笑んでいて、心臓がぎゅー、と掴まれる。今日の典明は一段と、今までで1番、かっこいい…。
ス、と左手の薬指に通されたのは、新しい指輪。今までのはパープルダイヤモンドの指輪だったが、新しいものはパープルダイヤモンドに加え、エメラルドが嵌め込まれている。一目見て典明を連想させるデザインのそれは、典明が露伴と一緒に考えたというのだから嬉しい事この上ない。
私からの指輪は、自分でデザインしたものだ。典明の左手を取って、その細い指先に通していく。うん、やっぱりよく似合ってる。打ち合わせはしていないのだが、パープルダイヤモンドとエメラルドを使った指輪は、典明によく似合っている。
「それでは、誓いのキスを。」
神父の言葉に倣い、向かい合って頭を垂れるとゆっくりとベールが解けていく。ようやく、典明の顔がよく見えた。
「今日の君、一段とかわいい…いや、綺麗だな…。」
コソ、と小さい声で、頬を赤くして呟く典明。もう、本当にかっこいい。かっこよすぎる。
「典明こそ。やっぱり、どこかの国の王子様だよね?」
「…全く…。違うって言ってるだろう?」
「コホン…。」
おっと。つい、いつものようにイチャついてしまった。気を取り直して向き直ると、グイ、と腰を引かれてお腹がくっついた。典明の綺麗な顔が目の前にある。
「君はずっと、僕のものだよ、なまえ。」
「!!」
反則。
遠くで何やら億泰や仗助の盛り上がっている声が聞こえたが、それどころじゃない。
典明のかっこよさが、宇宙を越えた。
あまりのかっこよさにその後の記憶が飛んでしまい、気がついたら教会から出たあとだった。気を失いながらも、どうやら恙無く挙式を終えたらしい。
「典明…!あれは反則…!かっこよすぎるよ…!!」
「本当、パパ、かっこよかった…!」
「はは、さすがに少し照れるな。」
一緒に掃けてきた典親すら、顔を赤くして興奮している様子だ。かっこよすぎる。限界突破してる。
「これから披露宴がありますので、お着替えを。」
係の人に連れられ控え室に移動したあともドキドキが止まらなくて、またしても気がついたらお色直しが終わっていた。典明の魅力、恐るべし。
「なまえ…花京院…!」
「!…っポルナレフ!!!」
披露宴も恙無く進み、やっと少し余裕が出てきた頃、既に涙でぐちゃぐちゃのポルナレフが高砂までやってきた。その顔を見て私も涙を我慢する事ができなくなって、とうとう我慢していた涙が溢れてきた。
「会いたかったよ〜、ポルナレフ〜!」
「お前ら…!やっと結婚したのか…!遅いぜ、全く…!!」
10年振りの再会に、かつては絶対にしなかったであろう熱い抱擁で再会を喜びあった。ポルナレフは、私と典明が結ばれた時、「結婚式には呼べよ!」と言っていた。それが実現できて、嬉しい。
「ポルナレフぅ…本当に会いたかった…!」
「俺もだぜ。…あぁほら、今日の主役が泣くんじゃあねぇぜ!せっかくの綺麗な顔が台無しだぜ?」
「泣かないなんて無理だよ〜。典明…涙拭いて〜。」
「うん。大丈夫。君は泣いててもかわいくて、綺麗だから。」
トントンとハンカチで優しく顔を拭いてくれる典明は、発言も相まって正真正銘、王子様だ。
「オメーら、変わんねぇな…。なまえに至っては、全然あの頃と変わらねぇんじゃあねぇか?むしろ、なんで花京院の方が年取ってんだ?」
「それには色々と訳があってね…。って、もしかして、承太郎に聞いてないの?」
私の問いに首を傾げるポルナレフを見る辺り、何も知らされていないようだ。毎度の事で、思わず大きなため息が出た。
「なに?お前ら、この10年で仲悪くなったのか?」
「ふふ。いや?承太郎となまえは相変わらず仲良しだよ。喧嘩するくらいにね。」
「もう!からかわないでよ典明!」
典明を諌めて露伴の説明をすると、ポルナレフは露伴に会いたいと言うので典明が体から出てきて、席に座っていた典明が露伴になった。
「マジかよ…」と口を開けて驚いているポルナレフに「初めまして、岸辺露伴だ。貴方が噂のポルナレフさんか。ぜひ貴方の記憶を読ませてほしいんだが」と露伴はポルナレフに興味津々で、当たり前だがこちらの制止を意に介さず能力を行使できるヘブンズドアを抑えるのが大変だった。
「スタンド使いにも、色んなのがいるんだな…」と落ち着いたところですぐ側に承太郎の姿を見つけたので呼び出すと、あの顰めっ面で仕方なしにこちらにやってきた。どういうつもりの顰めっ面なんだ。
「え、承太郎、もしかして泣いたの?嘘でしょ?」
近くで見てみると睫毛が濡れ、目が赤くなっている事に気がついた。まさか、あの承太郎が?
「挙式の時には既に泣いていらっしゃいましたよ。なまえさんと花京院さんが一緒に歩いている時から。」
「初流乃。言わなくていい。」
なるほど。だから顰めっ面か。どう見ても泣いた顔を見られたくなかっただろう。
「承太郎〜…!」
治まったはずの涙が、ぶわっと溢れてくる。承太郎の胸に飛び込むと当たり前だが承太郎の匂いがして、なんだか懐かしい。
「承太郎〜、今までごめんね。ずっと守ってくれて、ありがとう〜!」
「…あぁ。」
「典明と、典親と、露伴と、初流乃の次に好きだよ〜!」
「承太郎、随分ランキング下がったな。」
「ポルナレフも好き〜!」
「あぁ、ありがとな。」
「ママ、好きな人たくさんだね。」
「うん…だから、幸せなの…!幸せでいっぱいなの…!」
「なまえ。ほら、1回涙を拭こう。こっちを向いて。」
幸せが、毎日のように更新されていく。これも全て、典明がいてくれるからだ。典明がいてくれるこその幸せ。
「なまえちゃ〜ん!写真撮らせて〜!」
あの日の写真は、今も大事に持っている。とても大切な、旅の記憶。
だけど今日のこの写真も、きっと同じくらい大切なものになる。
私の幸せな瞬間の記憶。