第5部 杜王町を離れるまで 後編
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個展の一般公開が始まって、2週間が過ぎた。
公開初日は私も露伴も会場に立ち、その後も内緒で来てくれた典明のご両親の案内をしたり、事前に連絡してくれた朋子さんの案内をしたりと、普段通りの私の姿で何度か会場へと足を運んでいた。その際に周りの人達が話しているのを聞いたのだが、どうやらこの個展のチケットが取れなさすぎて苦労した、というもの。
もともと私ひとりだけでやる予定だったものだったので期間は約1ヶ月と短く、その上あの岸辺露伴とのコラボだというのだから普通の個展に比べて人が入るのは仕方がない。それにS市は新幹線も通っているので、遠方から来る人も多いらしい。
という事で、期間延長&東京、大阪での追加開催は自然な事だった。なんだか、自分が有名になったと勘違いしてしまいそうである。
「馬鹿か君は。僕の知名度だけなわけがあるか。君も充分、有名だよ。」
ほら、と目の前に置かれた段ボールには、私宛てのファンレターがたくさん。集英社に届いたものを編集者さん達が分けてくれたらしく、その数の多さに感激したし、戸惑った。なんでもネット上で「集英社に電話したら、みょうじなまえ宛てのファンレターを集英社へ送っても構わないと言われた」という投稿が広まっているらしい。
「なまえさん、こんなにたくさんのファンがいるんですね。すごいです。」
初流乃は自分の事のように喜んでくれて、なんだか胸の辺りがムズムズする。嬉しい。
「SPW財団に頼んで、ファンレターの送り先を作るよ。」
「そうしてくれると有難い。泉くんが死にそうなんだ。」
"Tenmeiに恋してます"
"どのTenmeiも素敵です"
"Tenmeiへの愛、Tenmeiからの愛を感じます"
"Tenmeiが"、"Tenmeiの"、"Tenmei"。
「私…、こんなにたくさんの人が見てくれてるなんて、…知らなかった…っ!こんなにたくさんの人に典明を知ってもらえて…嬉しい…!!」
自然と、涙がポロポロと溢れてくる。私が"Tenmei"を描き始めたのは、典明の死後、典明の生きた証として、生きていた頃の典明をみんなに知ってほしかったから。確かに花京院典明という人が、この世に存在していたのだと。それが、叶ったのだ。いや、私の知らぬ間に、叶っていた。このファンレターの数が、それを物語っている。
「典明〜、私、生きててよかった…!"Tenmei"を描き続けてて、良かったよぉ〜…!!」
「うん…君が生きてて良かった…。ありがとう、なまえ。」
ぎゅう、と典明の胸に顔を埋めると、典明の匂いでいっぱいになる。いつもは落ち着く匂いだが、いつにも増して愛おしくて、胸が震える。それは典明も同じようで、ぎゅう、と抱きしめる腕の力がいつもよりも強い。
「なんだよ…君達…、なんて純粋で、美しい愛なんだ…。」
「なんで露伴まで泣くの…?」
「君達が、あんまりにも美しいからだ…!ックソ…、スケッチしたいのに…!」
「露伴…初流乃も、おいで…。」
目の前で泣いている露伴と、少し離れたところで静かに涙を流している初流乃を呼び、ぎゅ、と一纏めにして抱きしめた。昨日空条家へと帰ってしまった典親も、ここにいればいいのにと思った。私の、大事な人達。私の宝物。本当に、幸せだ。生きてて良かった。
「みんな、いつもありがとう…。」
こんなメンタルがよわよわな私を好きだと言ってくれて、感謝しかない。
「っ!…ヘブンズドア…お前…。」
「…ふふ、ヘブンズドアも、ありがとう。ハイエロファントも、君も。」
私と典明の間に現れたヘブンズドアと、体に巻き付くハイエロファントの触手と、まだ名前のない初流乃のスタンド。いつの間にか私を中心に1つの塊になっていて、囲まれた私はとても温かい。
私は、縁に恵まれている。貞夫さんの言った通りだ。この先離れて暮らす事になるが、私の大切な人達である事に変わりはない。何よりも、大切な人達。
この縁を決して切らさぬよう、毎日を生きていきたいと、改めて胸に誓った。
「みんな、大好き。」
「天邪鬼な彼」
-完-