第5部 杜王町を離れるまで 後編
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「おはよー…寝坊しちゃったぁ…。」
朝。昨日の典明は最高にかっこよかった…と余韻を胸に下に降りると、子供達が既に起きて各々朝食を食べており、その代わり露伴の姿がない。どうやら大人だけが揃いも揃って寝坊したらしい。
「ママ、パパ、おはよう。」
「おはようございます、なまえさん。紅茶でも淹れましょうか?」
「いいの?ありがとー、初流乃。」
その間に歯を磨いて顔も洗ってこよう、と洗面所へ歩を進めるとちょうど露伴が階段を降りてきたところに出くわしたのだが…やはりというかなんというか、相も変わらず二日酔いみたいだ。
「おはよう露伴。昨日は上手に飲めなかったみたいだね。ずっとそばにいられればよかったんだけど。」
「おはよう…。そういう君は、元気そうだな…。」
「まぁね。」
典明にあんなにたくさんの愛を貰えたら、そりゃあ元気になるに決まってる。
元気な私とは対称的にグロッキーになっている露伴が可哀想に思えてきて、歯を磨きながら頭に治癒の波紋を流してあげると目を細めて気持ちよさそうにするので、猫みたいでなんだかかわいい。
「今日は特に予定はないよな?あったとしても僕はもう動きたくない。正直、ずっと治癒の波紋を流していてほしいくらいだ。」
「今日の予定は、貞夫さんのお見送りくらいかな。承太郎も帰るらしいけど。」
貞夫さんのお見送りは都内まで行こうと思ったのだが、そこまでしなくていいと断られてしまった。どうやら財団員が車で迎えにきてくれるらしいので承太郎が手配して、一緒に空港まで行くのだろう。
「露伴はここ数週間、なまえを独占していたじゃあないか。そろそろ僕に返してもらうぞ。」
「…独占してしまっていた自覚はあるが…。…今日だけは貸してくれないか?頭痛や吐き気が治まったら返すよ。」
「そんな人を物みたいに。」
息をするように憎まれ口を叩くんだから。
「まぁ、お昼までは治癒の波紋を流してあげる。それ以降はその時の状況によりけりでいいよね?」
「なまえがそう言うのなら。」
「ありがとう、なまえさん…。」
一応、お酒を飲む時は飲み方を教えてあげると約束していたので、またこうなってしまった露伴を見て少なからず罪悪感を感じている。昨日は聖子さんと貞夫さんがいて、その他にも大勢いたので許してほしい。
「なーなまえさん。今日どっか出掛けねーっスか?」
「なに、どっか行きたいところでもあるの?」
朝食を食べ終えて貞夫さん達を待つ間、仗助がつまらなそうにそう口にした。飽きたというのなら帰ればいいのに、ここにいれば朋子さんにお小言を言われずに済むと思って帰らない辺りずる賢くて、かわいい。
「いや〜せっかくの春休みだし、パーッと遊びてぇなって。」
「…遊ぶって、具体的には何をするの…?」
出た。仗助達との経験値の差が。
人生経験なら私や典明の方があるが、友達とどこかに行って遊ぶ、という事に関しては仗助達には負けるだろう。友達がいなかった私や典明には、友達と遊びに行く時にどこに行くのか、さっぱり分からない。
仗助は「あー…マジか」とちょっと引いてる気がするし、億泰も驚いたように目を丸くしている。悪かったな、友達がいなくて。
「僕も今まで友達と出掛けた事がないので、ぜひお出掛けしたいです。」
「初流乃がそう言うのなら…いいよ、午後から出掛けようか。」
初流乃はまだ子供なのだし、仗助達に年相応の遊び方を教えてもらえるいい機会だ。ついでに、若い子達がどういう遊びをしているのか知っておいて損はないだろう。そう考えたのは私だけではないようで「僕も行くぞ…バカ達が普段何をして遊んでいるのか、取材する…」と露伴が痛む頭を持ち上げるのでゾンビのようだ。勉強熱心なゾンビ。
「えっ!聖子さん、帰っちゃうんですか?」
空条家の3人がやってきたと思ったらそんな事を告げられ、聖子さんとまだ話し足りなかった私は完全に意気消沈してしまった。
「イギーが財団で暴れ回っているらしい。」
「う…。それを言われると、仕方ないかも…。」
イギー…最近大人しくなったと思っていたのに…。やっぱり財団員が嫌い、という事か。
「ごめんねなまえちゃん。私もなまえちゃんと、もっとお話したかったんだけど…。」
「いえ…仕方ないです。典親は、春休みが終わる前に私が連れていきます。…早く迎えに行かないと、みんなスキンヘッドになっちゃうし…。」
「スキンヘッドぉ?」
「イギー、気に入らない人の髪の毛を毟る癖があるのよ。困った事に。」
イギーとスキンヘッドになんの繋がりが?と疑問符を浮かべる億泰にイギーの癖を説明すると、仗助と顔を見合わせて2人とも頭を抑えた。2人とも髪型には拘りを持っているので、毟られたらたまったもんじゃないだろう。
「結婚式が終わったら、また帰ります。」
「えぇ。待ってるわね。」
「そういえば、結婚式で着るドレスも決まったんだろう?写真はいつ撮るんだ?撮ったら送ってくれよ。」
「そうなんです…!典明ってば、どんなスーツも着こなしちゃって、決めるのに苦労したんですよ…!2日かかりました!」
「まぁ!ますます楽しみだわ!」
貞夫さんは多忙な身だし、聖子さんはイギーのお世話があるし…仕方がない事だが、もっと一緒に過ごしたかった。せめてイギーは私が迎えに行って、露伴の家で過ごしてもらおうかと提案したら「なまえちゃんしかお世話できないじゃない。忙しいんだから、無理しないで」と優しく断られた。女神だ…。
「じゃあ、次は結婚式で。それまで元気でな。」
「はい。」
「承太郎とも仲良くな。」
「…ふふ、それは保証できません。半年に1回は大喧嘩してますし。」
「ははっ!それでもこうして一緒にいるんだから、仲は良いだろう?」
「確かにそうかも。仲良くしてね、承太郎。」
「…テメーが大人しくしてりゃあな。」
顰めっ面をしてそう吐き捨てる承太郎は、本当に私と仲良くするつもりがあるのだろうか。そんな嫌そうな顔する?と思ったが、半年に1回の大喧嘩で私に骨を折られているので無理もないのかもしれない。
3人が車に乗り込んでそろそろ出発か、というタイミングで、運転席の窓をコンコンとノックすると、少し嫌そうな顔の承太郎が窓を開けた。
「なんだ。」
「承太郎、アメリカのあのアパートに近々帰る?」
「あぁ、明日ちょっと寄るくらいだが。」
「そう…。ねぇ、いつでもいいんだけどさ、あのアパートの私の荷物、ここに送ってくれない?」
「あぁ?テメー、アパート出てくのか?」
「うん、そのつもり。露伴にはまだ言ってないんだけど、もし断られても、この辺に家を買おうかなって。」
「ハァ…やれやれだぜ。これから帰るって時にする話じゃあねぇな。」
「あはは、そうだね。また連絡するよ。」
2回目のため息をついて、スル、と私の頭を撫でる承太郎。聖子さんが「キャー!かわいいわぁ!」と喜んでいるが、承太郎のこれは子供扱いのような気がしてならない。
「じゃあ、貞夫さんも聖子さんも、お身体には気をつけて、お元気で!」
このままではいつまで経っても出発できない。もう承太郎の事は放っておこう。
車が見えなくなるまで手を振って、やがて見えなくなると途端に寂しくなる。これでは本当に子供みたいじゃないか。でも、普通に寂しい。
「ホリィさんと貞夫さんといる君は、子供みたいでかわいいな。」
「む…。典明、その顔はからかってるでしょう。」
「はは、バレちゃったか。かわいいと思ってるのは本当だよ。」
また、かわいいって言えば私が喜ぶと思って!その通りだけど!
「ママ〜、そろそろお出掛けする〜?」
玄関から聞こえてきた典親の呼び掛けに振り返る。むしろ子供の方が、気持ちの切り替えが早いらしい。
「うん、そうだね。露伴はもう動けそう?大丈夫そうなら、準備して行こうか。」
「露伴のヤローは行く気満々みたいっスよ?俺らとしては別に着いてこなくていいんスけど。」
「この岸辺露伴が取材をするんだ。光栄だろ?」
「喧嘩するならペナルティを課すけど。露伴は置いていくし、仗助と億泰は置いていくと初流乃が可哀想だから、帰宅次第帰らせる。」
「すんませんっしたぁ!」
すぐさま謝罪する仗助と、唇を尖らせて不満気な露伴。一体どっちが大人なんだか。