第5部 杜王町を離れるまで 後編
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「ちょっとなまえさぁん。なまえさんって、あの空条貞夫さんの娘だったんですかぁ?先に言ってくださいよぉ〜!」
今日最後の予定である集英社の取材のためにやってきた泉さんは、会場内を出ようとする貞夫さんを見て漫画みたいに口を開けて固まっていた。その貞夫さんが泉さんに気がつき挨拶をした事で彼女のミーハー心を火がつきサインやら握手やらをお願いしていたので、彼女は意外にもすごい人物なのかもしれない。
ついでに私もサインを貰ったので、許可を得て会場内に飾っておいた。これはものすごい宣伝効果だ。
それならばと私と露伴もサインを書いて並べると、なんだか自分がすごい人になった気分だった。
露伴は「誰が誰の娘でも関係ないだろう」と泉さんに偉そうに言っていたが、露伴だって驚いてた癖に。
集英社の取材は事前にほとんど終わっていたので、実質やる事は殆どないに等しい。カメラマンが会場内や露伴の写真を撮ったりするだけだ。
「チケット、すぐに売り切れたんだってな。」
「そうみたいだね。みんな、典明の魅力が分かるんだね。嬉しい。」
「はは、君の描き方の問題だと思うけど。」
「そんな事ない。私は典明がいないと描けないんだから。典明の美しさがあってこそだよ。ね、露伴。」
「そうだな。…尤も、僕は僕が見た花京院さんを描いただけで、本物の"Tenmei"を描いたとは言えないけどな。」
「…露伴、難しい話してる?」
「本物の"Tenmei"を描けるのは君だけだって話だ。」
やっぱり、難しい話じゃないか。というか、難しく考えすぎている。
「露伴が描いたのは"Tenmei"だよ。私が"Tenmei"を描き始めたのはね、花京院典明という人間が、この世に存在してたんだって、世界中に知らせるためなの。だから、露伴が描いたのは紛れもなく"Tenmei"だよ。」
「…そうか…。そういうのは、もっと早く言ってくれないか?」
「えー、だって、露伴がそんな事考えてるなんて知らなかったしー。」
「露伴先生〜、なまえさ〜ん。最後に1枚いいですかぁ〜?」
そろそろ終わりが見えてきたようで、泉さんの声がかかる。今日は朝からクタクタだ。早く帰ってもう眠ってしまいたいが、貞夫さんや聖子さんはもうホテルに帰ってしまっただろうか?特に貞夫さんは明日には帰ってしまうので、もう少しお話したいのだが。
「ほら、考え事をするな。ちゃんとしろ。」
「む…いつもちゃんとしてないのは露伴の方なのに。」
「はぁ?君よりはちゃんとしてるぞ。」
「2人とも、こっち見てくださぁい。撮りますよぉ。」
泉さんの言葉を合図に何度か切られるシャッター。これもお仕事なので澄ました笑顔を浮かべるが、露伴も同じように澄まし顔をしているのが視界の端に見えて思わず笑ってしまった。
「あっ、なまえさん、今の顔、とっても素敵ですぅ〜!」
「本当?露伴聞いた?最高にかわいいって。」
「君の耳はどうなってる?…ふっ、ははっ!」
「オッケーです!なまえさん、ありがとうございますぅ〜!」
「いえ。来週の紙面が楽しみです。」
「おい待て。まさか今の写真を使うつもりじゃあないだろうな。」
「「お疲れ様でしたぁ〜!」」
来週のジャンプは、絶対に買おう。
「ただいま〜!かわいいなまえちゃんとかっこいい典明くんが帰りましたよ〜!家主の露伴も帰りました〜!」
「僕をついでみたいに言うな。」
「あら、おかえりなさい。」
「良かった!聖子さん、まだいてくれたんですね!」
聖子さんのお出迎えはいつも帰ってきたという実感が湧いてホッとする。ここが例え露伴の家だとしても、だ聖子さんの笑顔が暖かくて、疲れた体が癒される気がする。
この日は飲んで食べての大騒ぎで、久しぶりに酔い潰れた露伴や寝落ちしてしまった仗助、億泰、初流乃、典親を全員寝室まで運んだところでやっと1日が終わった。
大の大人を担いで家の中を歩き回る私を見て貞夫さんも聖子さんも驚いていたが、最終的には笑い飛ばしてくれたのでやっぱり承太郎の親だなぁと思った。
「ふわぁ〜〜さすがに疲れたぁ〜。」
聖子さんと貞夫さん、承太郎は先ほどタクシーでホテルに帰った。リビングで典明と2人になってようやく、一息つけた。今日一日の疲れは、典明に癒してもらわなければ。
「今日、典明と全然お話できなかったね…。寂しい…。」
「そうだね。僕も寂しい。…おいで、なまえ。」
既に肩に凭れかかっているのに"おいで"とは。それって、めちゃめちゃ甘えていいって事!?
「典明〜!!」
「はは、なんだ、元気じゃあないか。」
ぎゅー、と力いっぱい典明を抱きしめると、当たり前だが典明の匂いがして、疲れていた体が一気に回復した。栄養剤だ。
「今、元気になったの。典明の匂い、いい匂い。好き。」
「ふ…、そう言われてみたら、僕も元気になってきたかもしれない。…なまえ。」
呼ばれたので上を向いたらちゅ、とキスをされた。典明とのキスは、なんだか久しぶりな気がする。
「典明、好き。もっとして。」
「…本当、かわいいな、君は…。」
私のお願い通り、たくさんのキスを降らせてくれる典明は、なんだか幸せそうだ。私も、幸せ。だんだん深くなってくるキスも、全部受け入れたい。典明のする事、全部。
「…実は、最近の君を見てたら、このまま露伴のところに行ってしまうんじゃあないかと心配してたんだ。」
「そう、だったんだ…ごめんね、典明。」
「でも、今日の君を近くで見てたら、安心したよ…。君は変わらず、ずっと僕を大事に想ってくれているんだよな。」
「…うん。私の中ではね、いつも典明が真ん中にいるの。ずっと変わらないよ。なんてったって、魂で繋がってるんだから。」
「…はぁー…本当君って、かわいいなぁ…。」
そんな事言ったら、典明だってずっとかっこいい。好き。熱の篭った視線で見下ろされて、ドキドキする。
「ねぇ、どうしよう。ドキドキしてる。もう、典明とは10年も一緒にいるのに。ずっと好き。」
「うん。僕も好き。好きだよ、なまえ。ずっと、愛してる。」
胸の中からぶわっと何かが溢れだしてきて、典明が愛おしくて、ぎゅう、と力いっぱい抱きしめ直してその胸に顔を埋めた。
あぁ、好きだな。やっぱり、典明が1番だ。好き。大好き。愛してる。
「ねぇ、もしかしていま君、泣いてるのか?君が僕の事で泣くのが、いつも嬉しいんだ。…なまえ、顔を見せてくれ。」
きっと情けない顔をしているのだが、典明のお願いならば。
眉が下がっているであろう涙で濡れた顔を上げると「はぁ…やっぱりかわいい…」と恍惚とした表情で私を見下ろし、再び熱烈なキスが降ってきた。はぁ…幸せ。
「は……典明…。」
「うん…僕の事で涙を流してくれて、ありがとう…なまえ…。僕も好きだよ。僕も…今が1番幸せで、1番大事だ。君が幸せでいてくれるだけで、幸せだから…君はずっと、幸せでいてくれ。」
「…ん…。」
自分だけ言いたい事を言って、キスして。ちょっと狡い。私だって典明に、典明がそばに居てくれるだけで幸せだと、伝えたいのに。
「…っ!」
スル、と体にハイエロファントの触手が巻き付くのと同時に服の中に典明の手が滑り込んできて、思わず体がびく、と跳ねた。
「…なまえ、君は今日、疲れているだろうし、明日も会場に行くんだよな?…君にたくさん、僕の愛を感じて欲しいんだが、今日はもう寝るかい?」
「…っ、この状況で、寝られるわけないじゃない…!」
私の事を気遣うセリフを吐きながらも体を撫でる手は止まらないし至近距離であの瞳に見つめられて、一体誰が断れるというのか。そもそも典明からのお願いを、私が断れるわけないのだが。
「ふ…良かった。」
夜はまだ、長い。