第5部 杜王町を離れるまで 後編
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「本日はお越しいただきありがとうございます。今回の個展は、約50点程ある"Tenmeiの中から私が厳選した10数枚に加えて新作の第49番、第50番、そして隣にいる漫画家 岸辺露伴先生と…夫である花京院典明と一緒に描き上げた"天命"を初公開する場となります。……私の描く典明を、皆さんに見て欲しくて…。こうして足を運んで下さり、幸甚の至りです…!…本日は一般のお客様はおりませんので、どうぞご自由にご鑑賞ください。」
深々と頭を下げると、なんだか涙が出そうになった。まだ玄関ホールだというのに"Tenmei"への想いで胸がいっぱいになってしまった。
「なまえちゃん…大人になったわね。」
「聖子さん…。ふふ、びっくりしました?」
聖子さんの一言で、緊張していた空気が一瞬にして緩んだ。聖子さんはやっぱりすごいな。場を和ませる天才だ。
「堅苦しい挨拶は今ので終わりです。皆さん、ここから入って自由に見て回ってください!」
「立派な挨拶だったぞ、なまえ。」
「本当ですか、貞夫さん!いつも露伴に頭が悪そうって言われるので自信なかったんですけど、貞夫さんがそう言うなら大丈夫そうですね!」
「ハッハッハ!露伴くんは随分辛辣なんだな。」
承太郎と似ている貞夫さんが声を上げて笑うので、少し違和感を覚えた。というか…承太郎の口下手で話が通じないところは誰に似たのだろうかと不思議だ。
「ママ、この服自分で作ったんでしょう?とっても綺麗でかっこいいね。」
当たり前のように承太郎に抱っこされた典親が嬉しい事を言ってくれるので、そのままぎゅ、と抱きしめた。あぁ、かわいい。
「典親〜!ありがとね〜!典親も、ママが作った服を着てきてくれて、嬉しいよ。そろそろ前に作った服も小さくなってきたでしょ?新しいの作らなきゃ!」
「ふふ。ママの服、僕好きなんだ。新しいのも、楽しみにしてるね。露伴先生も、すごく似合っててかっこいい!」
「あぁ、ありがとう。実は僕も少しだけ手伝ったんだ。」
「そうなの?ねぇ露伴先生。一緒に見て回ろう?承太郎さんも一緒に!」
「えっ。」
そんな…典親…!
承太郎と露伴によく懐いているのは分かるが、少し…いや、かなり寂しい。確かに私と露伴がずっと一緒にいる必要はないが、いくらなんでも寂しすぎる!
「なまえさん、僕や仗助さん達じゃあ不満ですか?」
「初流乃…。」
「なまえさんが向こうに行っちゃうと、岸辺先生と仗助さんがまた喧嘩しちゃいますよ。もちろん、僕はそういうのを抜きにしてなまえさんと一緒にいたいですけど。」
「まぁ、それは確かに…。わっ!」
背中に何かが触れる感覚がして見てみると、ヘブンズ・ドアの姿があった。主人である露伴は少し離れたところまで移動していたが、急に姿を現したヘブンズ・ドアを見て驚いているようだった。どうやら本人の意思ではないらしい。
「ふふ…ヘブンズ・ドアも一緒に見ようね。」
「なまえさん…ヘブンズ・ドアの事赤ちゃんか何かだと思ってないスか?」
「赤ちゃん…まぁ、懐いてくれてるからかわいいなぁ、とは思ってるよ。」
「本体の方は全然かわいくねェけどなァ…。」
「ふふ。」
億泰の言葉には笑うだけにしておいた。分かってないなぁ、億泰。露伴はね、本当はとってもかわいいんだから。
「なまえちゃん、やっぱ絵上手だよなァ。」
絵を見上げて感心したようにそう漏らす億泰に、仗助は呆れたようにため息を吐いた。
「バッカ億泰。なまえさんは有名な画家なんだぜ?絵が上手いのは当たり前だろ。」
いつも露伴の家にいて遊んでいるとでも思っていたのだろうか。確かに落ち着きはないし仗助や億泰とも一緒に遊んだりもするので大人の威厳とかはないのかもしれないが。
「そうなんだけどよォ…。俺、芸術の事なんててんで分からねぇんだけどよ。それなのになんつーか、なまえちゃんの描いた花京院さんを見てると、胸がいっぱいになるっつーか…。花京院さんの事本当に好きなんだなーって伝わるっつーか…。」
「!!…おっ、億泰…!!」
頭が悪い典型的な感覚派の億泰の言葉は、私の涙腺をいとも簡単に刺激した。彼の言葉は嘘やお世辞なんかじゃないのは、数ヶ月の付き合いだが分かっている。
「なまえさん…どうぞ。」
初流乃から手渡されたハンカチを汚さないよう、そっと涙を吸い取ったのだが、いつもと違ってきちんとお化粧をしているので、案の定少し色が移ってしまった。
「良かったですね、なまえさん。億泰さんには、ちゃんと伝わりましたね。」
初流乃はハンカチが汚れた事なんか気にもとめずに、優しい声色で言うのでやっぱり典明に似てるな、と関係のない事を考えた。
「なまえ…。」
「!典明。」
後ろから抱きしめられる感覚は、今度はヘブンズ・ドアではなく典明だ。「どうしたの?」と聞くと「なんだか君が愛おしくて仕方ないんだ」と腕の力を強めるので心臓がぎゅう、と縮まった気がする。好き。好きすぎる。
「全く…こんなとこでイチャつかないでくれません?」
「えへへ…幸せだから許して。」
「…やっぱ花京院さんといる時のなまえちゃんが1番かわいいなァ。」
「うふふ、そうでしょう?典明は私がいなくても常にかっこいいんだけどね。」
「僕も、君がいるからだよ。君がいないと僕は、自分に自信が持てないんだ。だから、ずっと僕といてくれ。」
「!!じょ…仗助!心臓が!心臓がおかしい!このままだと死んじゃう!治してー!!」
「うるさいぞ君。主催者が騒ぐんじゃあない。」
ぎゅむ、と結構な力で頬を摘まれ、少し正気を取り戻した。見ると露伴が呆れたような顔をして私の頬を掴んでおり、その後ろには貞夫さん達の姿も見えた。めちゃめちゃ恥ずかしいところを見られたのではないだろうか。
一同は道順通りに進んでいき、ついに最後の目玉である"天命"の前までやってきた。
「これは、私と露伴と典明、3人で描いたものです。生前の典明と、死んでしまったあとの典明、そして、未来の典明を表してます。…未来の典明は、露伴がいなければ絶対に描けなかったもの。私は…露伴に出会えて良かった。本当に。ありがとう、露伴。」
「!…みんなの前で言うのは、反則じゃあないか?」
「僕からも礼を言うよ、露伴。君と出会ってなまえは、本当の意味で救われたんだ。なまえの心が救われた事で、結果的に僕も救われた。感謝しているよ。」
「か、花京院さんまで…!…やめてくれ。僕は、全部僕のやりたいようにやっただけなんだ。」
「ふふ、そうだね。」
露伴はそう言うだろうと思った。本当にそんなつもりで色々やっていたわけではない事も分かっている。それでも、感謝を伝えずにはいられなかった。
「…運命の出会い、だな。なまえ、君は出会いに恵まれているな。この縁を切らさないようにしないとな。」
貞夫さんの言葉を聞いた瞬間、承太郎と出会った時から今までの記憶が走馬灯のように駆け巡った。承太郎と出会い、聖子さんと出会い、実の家族をDIOに殺されたのちに家族同然になった事。典明と出会った事。ポルナレフ、イギーとの出会い。エジプトの旅。
典親との出会い、ホル・ホースとの再会。
杜王町では仗助、億泰、康一くんに由花子ちゃん、初流乃、そして露伴との出会い。
色々な人達との出会いが、私を救ってくれ、私を成長させてくれたのだ。みんなみんな、私の大事な人達。
「私…今が1番幸せです…!典明と両想いになった時と同じくらい。」
「はは!そりゃあ最高に幸せだな!よかったよかった!」
貞夫さんの言葉は重みが違う。それは貞夫さんの持つオーラのせいだったり真っ直ぐな言葉のせいだったりもするが、やはり色々な事を経験してきたからなのだと思う。
ポロポロと零れる涙を拭いたのは、今度は初流乃のハンカチではなく露伴のハンカチだった。「あーあー、せっかく綺麗にしてもらったのに、美人が台無しだぜ」と言いながらも優しい顔をしていて、泣いている最中だというのに思わず笑みが零れた。
「オイオイオイオイ。今の顔、最高にかわいかったな。なぁ、ちょっとスケッチさせてくれないか?」
「え、や、やだよ。というか、人前なんだから離れて。」
「…チッ。」
舌打ちした!!今の今まで優しい顔で涙を拭いてくれてたのに!なんて奴だ!!