第5部 杜王町を離れるまで 後編
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子供達を寝かせた深夜。露伴は久しぶりに解禁したビールを飲みながら、私は膝にヘブンズ・ドアを抱えながら、リビングへと集まった。普段はあまり飲まないが、露伴に付き合って久しぶりにビールを飲んだが、やっぱり美味しい。
「さっきの、スタンドの懐き具合に関してだが。」
唐突に典明がそう話し始めるので、自然と私と露伴の視線は典明へと向けられた。やはり、このタイミングだったか。
「これはほぼ確信に近い仮説なんだが…あれは、もしかしてスタンドの持ち主の気持ちが関係しているんじゃあないかと思うんだ。」
「気持ち…って、意思とは違うの?」
「意思は関係ない。そうだな…分かりやすく言えば、持ち主の、君に対する好感度、と言えば伝わるかな?」
好感度。私の事をどれくらい好きか、という事。目に見えて私に好意的だったのは、ヘブンズ・ドアと初流乃のスタンド。対して控え目だったのは、クレイジー・ダイヤモンドとザ・ハンド。
「なるほどねぇ…。」
スタンドとは持ち主の精神エネルギーが具現化したもの。私と典明のスタンドと露伴達のスタンドで性質は少し違うが、結局スタンドはスタンド。つまり持ち主とは別の意思を持ちながらも、持ち主の影響は受けると。うーん、ややこしい。
「だとしたら、露伴はだいぶ私の事好きだね。かわいいなぁ。」
「…それを素直に喜ぶ君も、大概だぜ。」
「ふふふ…!私達のスタンドも、意思を持たないかなぁ…。」
そうしたら、ハイエロファントもヘブンズ・ドアみたいに私にくっついてきてくれるんじゃないだろうか?好感度が目に見えるなんて、そんなの見てみたくなるに決まっている。
「そんな事になったら、僕はハイエロファントを一生仕舞う事はできないだろうな。」
「あまりオススメはできないぜ。そのうちなまえさんの命令に従うようになるんじゃあないかと心配だよ。」
「え〜。そんなの、ますます私最強になっちゃうじゃん。」
別に私は最強じゃなくていいのに。そんな称号、承太郎にくれてやりたい。私は、典明の生涯の伴侶という称号さえあれば幸せなのに。
「あ、でも、私と典明も、勝手にスタンドが発動した時あったよね!」
「!…そういえば、そうだな…。あの時は無意識に発動したものだと思っていたが、案外…。」
典明が顎に手を当てて考え込んでしまった。いま彼の頭の中では様々な憶測や考察が駆け巡っているに違いない。かっこいい。
「ねぇ露伴、勝手にハイエロファントが出た時の話聞いて。」
「…ふ、あぁ、いいぜ。特別に聞いてやろう。」
あの時の嬉しさや愛おしさを露伴に聞いて欲しくて彼に視線を移すと、ふ、と優しい笑顔が返ってきて一瞬ドキッとした。その笑みはお酒のせいなのか、それとも私が"ねぇ露伴"と呼んだからなのか。はたまた両方か。どちらにしても私が遠い過去の記憶を話し続けている間も変わらず優しい笑顔で相槌を打ち、しまいには「やっぱり花京院さんの話をしている君が一番かわいい」とまで言ってのけた。
「ねぇ露伴、酔ってる?」
「…まだ1本目だぞ。人がせっかく素直にかわいいって言ってるんだから、君も素直に受け取れよ。」
「え、ほんとに酔ってないの?」
露伴は頬を僅かに赤くして「そうだって言ってるだろ」と唇を尖らせるし、ヘブンズ・ドアは露伴にヤキモチを妬いているのか私の手を頻りに引っ張ってアピールしているし。
「典明っ…露伴がかわいい…!」
「ははっ。なまえ、僕もかわいいだろ?」
「かっ、…!!」
典明までもがテーブルに頬杖をついてかわいいアピールをしてきて、もう心臓が限界だった。私の顔は今、どうなっているだろう。きっと真っ赤になっているはずだ。
「む、むり…かわいいの暴力…!!…解散!!」
ガタ、と音を立てて立ち上がったのを阻止したのはハイエロファントの触手で。
「おい、せっかくお酒が解禁したんだから最後まで付き合えよ。」
「なまえ、僕を置いて行くのか?」
「う…、…本当、二人とも私の事大好きだよね…。私も好き…!!あ、うん、ヘブンズ・ドアも好きよ。」
腕の中で必死になっているヘブンズ・ドアを見て少しだけ落ち着きを取り戻したが、部屋の中に充満するなんともいえない空気感がいたたまれない。本当ならば幸せな空間なはずなのに、ここまで熱の籠った視線を浴びせられると居心地も悪くなる。
「おはようなまえさん。今日もかわいいな。」
「!!」
朝、露伴がリビングに来るなりらしくない事を口走るので部屋内の空気は凍りついた。朝ご飯を食べていた仗助は箸から食べ物を零すし、億泰なんて飲んでいた水を吹き出しかけて噎せている。
「あの、露伴…一体どうしたの?」
「別に……。少し牽制しただけだ。」
牽制と言ってチラ、と視線を向けたのは初流乃の方で、目が合った初流乃は不思議そうに首を傾げている。確かに初流乃のスタンドも私にくっついてきたが、それに対して何も言わずにライバル視するなんて…考えすぎではないだろうか?
「君は朝食は済んでるか?済んでるなら、僕は仕事場で食べるから一緒に行こうぜ。」
「た、食べたけど…ろ、露伴っ…!」
サンドイッチが乗ったお皿を持ち、典明のように私の腰に腕を回して歩き始める露伴に、思考が追いつかない。仗助や億泰も見ているのに、一体どういうつもりだろうか。
「はー…。花京院さんはいつもこんな事をしているのか…正気じゃあないな。」
部屋を出ると私に触れていた腕をパッと離し、その手で顔を覆い隠した。…照れるくらいならやらなきゃいいのに。
「ねぇ露伴、本当に、急にどうしたの?教えてよ。」
「…君を他の奴らに取られたくないだけだ。…いや、さすがにそれは子供っぽいか?まぁ、君にこれ以上変な虫が寄ってこられると僕も困るからな。」
独り言のようなそれは、本当に露伴らしくない。夢でしたと言われた方がしっくりくる。しかしこれは夢ではないし、露伴は本気でやったのだろう。
「はぁ…、最近の露伴はかわいいなぁ。」
「うわっ!急に持ち上げるなよ!危ないだろ!」
かわいい露伴を抱き上げると手に乗ったお皿を取り落としそうになり、それを私の空いた方の手でキャッチした。好きな子に抱き上げられるなんて、怒るだろうかと心配したがどういうわけか受け入れていて意外だった。
「典明も一緒に抱っこできたら、両手に花なんだけどなぁ。」
「確かに花京院さんは花というに相応しい顔立ちだな。」
「ふ…、露伴も綺麗な顔してるよ?花で例えるなら、典明は藤の花とか桜で、露伴は椿とか山茶花、梔子って感じ。月下美人も似合いそう。」
「…マジに言ってるのか?」
「マジだよ。はい、到着。」
自分の顔の良さが分からない露伴を床へと降ろして、どうしようかと考える。別に今から作業を始めてもいいが、あんな風に退室してきてしまって、典明が質問攻めにあっているのではないかと少し心配だ。
「君が戻っても話がややこしくなるだけだぞ。花京院さんに任せておけばいい。」
「…露伴、私の心を読んだの?」
「読んでない。君が分かりやすいだけだ。」
分かりやすい、か。確かにポーカーフェイスとは絶対にいえないのは、私も自覚している。とはいえ典明も露伴も、私の顔を見ただけで思考を読めるなんて、どれだけ私の事を理解しているのだろう。いつの間にか姿を現して私の首に抱きついていたヘブンズ・ドアを抱っこして、じっと見つめると頬を擦り寄せてきた。「ヘブンズ・ドア…!お前また…!」と露伴に叱られる気配を感じるとツンと顔を逸らす仕草は露伴に似ていて思わず笑みが零れたが、次いで私の頬にちゅ、とかわいらしいキスをしてくるのでその小さい体を抱きしめた。あーかわいい。癒される。
「クッ……!ヘブンズ・ドア…お前…!」
「怒らないでよ、露伴。ほら、朝食早く食べちゃって。」
「なまえさん!ヘブンズ・ドアは小さいだけで、子供じゃあないんだからな!」
「分かってるよ。そもそも、露伴の精神エネルギーでしょう?自分の精神と喧嘩しないの。」
露伴がヘブンズ・ドアに怒るから、ヘブンズ・ドアも露伴にこんな態度を取っているのではないだろうか?
自身のスタンドと喧嘩しているさまは、傍から見ても随分と滑稽である。