第5部 杜王町を離れるまで 後編
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「仗助ー億泰ー初流乃ー!ご飯もう少しかかるから、先に誰かお風呂入っちゃって〜!」
「はい、分かりました。」
「オカン…。」
台所で露伴と夕飯を作っている最中、大声で2階に呼びかけると初流乃だけが顔を出して返事を返した。ほんと、いい子。隣にいる露伴は人の事をオカン呼ばわりだというのに。別に間違ってはいないのだが、なんだか言い方が気に入らなかった。
「そういえば、そろそろいいかなって思ってお酒買ってあるの。冷蔵庫に入れてあるから、飲んでもいいよ。」
「!本当か?」
「あはは!かわいいなぁ、露伴。お酒の飲み方、ちゃんと練習しようね。」
あの猫みたいな表情を浮かべる露伴はわかり易く喜んでいてとてもかわいい。思わず声を上げて笑ってしまって、露伴に意外な顔をされた。
「花京院さんもなまえさんも、いつもそういう風に笑えばいいのに。」
「典明はともかく、私は笑ってる方じゃない?というか、こういう風に笑うと子供っぽいかなって少し気にしてるのよ。」
「そうか?僕は好きだけどな。」
「本当?典明は…好きって言ってくれそ〜!」
「僕は君のどんな姿でも好きだよ。」
「典明!」
シュルシュル、とハイエロファントの触手がお腹に巻き付くのと同時に典明が登場して、タイミングの良さにキッチン内が盛り上がった。いや、主に私だけか。
「典明!露伴がね、私の笑顔がかわいいって。」
「おい、なんか色々捻じ曲げてないか?」
「なまえはいついかなる時でもかわいいだろ。違うか?」
ダークな笑顔を浮かべて露伴に詰め寄る典明は、ハイエロファントの触手を露伴にも巻き付けて、恐らく締め付けている。
「花京院さん、段々過激になってないか?おい待て、かわいくないとは言ってないだろう!」
「典明はいつもかっこよくて綺麗で、たまにかわいくて。いついかなる時でも完璧…。」
「おーおー、また言ってるんスかなまえさん…、いや、どういう状況っスか?」
初流乃がお風呂へ行き、部屋から典明が退室して暇になったのだろう仗助と億泰までキッチンへとやってきて、私達の状況を見て不思議そうに首を傾げる。どういう状況と言われると、口で説明するのが少し難しい。
「えぇと、露伴が私をかわいいって言ったり言わなかったりで、典明が私の王子様で、典明は露伴を絞めようとしてるところ?」
「いや、なんにも分かんねっス。」
短く纏めようとしたのだが大失敗した。これじゃあまたバカ扱いされてしまう。
「なまえちゃん、頭良いんじゃあなかったのか?俺とそんなに変わらねぇ気がするぜェ。」
「あーまたバカにしてる!いいもん、私には典明がいるもんね!」
「フッ…それがバカだって言ってるんだ。」
「ヘブンズ・ドアだって私の味方だもんね!」
「ヘブンズ・ドア、それに関しては本当に考え直せ。」
「…スタンドって、懐くんスか?」
「なんかペットみてェだな。」
スタンドは精神エネルギーが具現化したのも。のはず。だから私や典明のようにスタンド自体に意思がないのが普通のはずなのだが。
しかし露伴のヘブンズ・ドアは確かに私に懐いているし、露伴の意志とは関係なく動く事もある。
それにペットみたいというのであれば、懐かれるのも頷ける。どういうわけか私は犬や猫、その他動物に好かれる傾向にあるのだ。
「おい、ヘブンズ・ドア。勝手に出てくるな。」
「ヘブンズ・ドア…久しぶりだね。」
自分の話をされていると察したのか、突如姿を現したヘブンズ・ドアは、フワフワと浮遊しながら私の前で止まってこちらを伺っていて、どうやら抱っこしてもらえるのを待っているようだ。小さい姿も相まって、めちゃめちゃかわいい…!
濡れた手を拭いて「おいで」と腕を差し出すと嬉しそうに私の胸元までやってきて、腕の中に納まった。ヘブンズ・ドアは表情が分かりやすくて本当にかわいい。
「へー、本当に懐いてるっスね。俺のクレイジー・ダイヤモンドはどうスかね。」
こうなってくると気になってくるというもの。みんな興味津々でクレイジー・ダイヤモンドに注目した。クレイジー・ダイヤモンドは普段あまり表情を表に出さないし仗助の指示に忠実だが…。
注目を浴びて居心地悪そうに視線をさ迷わせるクレイジー・ダイヤモンドは、ややあって私の方を見て少しだけ目を細めた。…気がする。反応が今ひとつ曖昧だったのでこちらからニコ、と笑いかけて手を伸ばすと頭をこちらに向けたので受け入れてはくれるみたいだ。ヨシヨシと頭を撫でるとなんとなく嬉しそうで「マジかよ…」という仗助の声とともに肩に重みが加わった。視線をそちらにずらすと典明の柔らかい髪の毛が見えて「君がモテるのは勘弁だな…僕もヨシヨシしてくれ」と破壊力抜群のセリフを囁かれてクレイジー・ダイヤモンドそっちのけで典明を撫でるほかなかった。好き…!かわいい…!!好き!!
「はは…、誰も花京院さんには敵わないっスよ。」
「当たり前でしょう!!あぁもう!かわいい!!好き!!!」
「ほら、ヘブンズ・ドア、分かっただろう?いい加減戻れ。…おい、お前の主人は僕だぞ!無視するんじゃあない!」
「露伴。そんな風に怒ってばかりだと、ヘブンズ・ドアに嫌われるぞ。」
ツーン、と露伴から顔を逸らしたヘブンズ・ドアは一向に私の腕の中から移動する気はないらしく、こういう態度は露伴に似てなくもないなと思った。露伴もヘブンズ・ドアも、二人ともかわいい。
「皆さん、なんだか賑やかですね。」
「初流乃。ねぇ、初流乃もスタンド出してみてよ。スタンドが私に懐くか、試してたの。」
「へぇ、それは気になりますね。」
ラフな格好になった初流乃は、ス、と自身のスタンドを出した。まだ名前のない初流乃のスタンドは私と目が合うと、まっすぐこちらへと近づいてきて、ぎゅ、と私を抱きしめた。これには、私も典明も驚きだった。
「えぇ…と、初流乃、なんにも指示してないんだよね?」
「?はい、出しただけです。」
「……なるほどな。ありがとう初流乃。もう戻していいぞ。」
典明は今、なにかに納得したようだったが、なにか気づいた事でもあるのだろうか?少し声が硬いのが気になるが、典明はニコ、と笑顔を浮かべるだけだった。
「実験もキリがいいし、ご飯にしようか。ご飯を食べたら、億泰のザ・ハンドも試してみよ?」
「夕飯ったって、ヘブンズ・ドアがいたら食えないだろう。」
「ふふ、大丈夫だよ。ヘブンズ・ドア。これからご飯を食べるから、一度露伴の元へ戻ろうね。食べ終わったら、また出ておいで。」
目を見て子供に言い聞かせるように伝えると、ヘブンズ・ドアは一度だけ頷いて姿を消した。ちゃんと優しく諭せばいう事を聞いてくれる、いい子なのだ、ヘブンズ・ドアは。
「別に、悔しくなんかないからな。」
「はいはい。」
ツンデレか。
夕食後。仗助がお風呂に行っている間に再び勝手に姿を現したヘブンズ・ドアを膝に乗せて、ザ・ハンドと対峙した。対峙というのは、ザ・ハンドの右手に触れると削り取られるのでいくらか緊張感があるからだ。
「ザ・ハンド。こうして改めて対面するのは初めてだね。よろしくね。」
握手をするように左手を差し出すと、ザ・ハンドも左手を差し出して、私の手を握った。典明はその様子を真剣に見つめていて、何かを確認しているようで「やっぱり…。いや、あとで話すよ」と言葉を濁した。
「そういえば、なまえさんはスタンドに触れられるんですね。」
初流乃からの鋭い指摘に、思わず自分の手を見て考える。私のスタンド能力クイーン・オブ・カップは、"掴む"能力で、"触れる"能力ではない。膝の上のヘブンズ・ドアを撫でると、確かに触れている感触がある。
「…確かに…。今まで意識してなかったけど、もしかしたら私側の意思じゃなく、スタンド側の意思なんじゃないかな。スタンド側が、私に触れられるのを許しているというか…。」
「大方、合っているんじゃあないかと思う。」
典明の同意をもらえたという事は、恐らくそういう事だ。理由は説明してくれなかったが、それも"あとで話す"と言った事に含まれているのだろう。
典明のいう事は一番信用できる。きっと子供達が寝たあとで、話してくれるに違いない。それにしても…。
「ヘブンズ・ドア、寛ぎすぎじゃない?」
膝の上で仰向けになって目を閉じているヘブンズ・ドアは、人間の子供だったら眠っているのではないかと思うほどリラックスしていて、とてもじゃないが動けない。本当に、随分懐かれたものだ。露伴に似て、憎めない子で本当にかわいい。