第5部 杜王町を離れるまで 後編
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「なるほど…確かにこれはすごいな。」
昨日と同じ部屋。壁を埋め尽くす真っ白なドレス達を前に、露伴は右へ左へと視線を移動させた。
「露伴。挙式では、プリンセスラインという形のドレスを着てもらおうと思っているんだが。」
「プリンセス?センスの欠片もない名前だな。」
スタッフの目の前で失礼な言葉を吐く露伴にため息が出た。これだからあまり連れてきたくなかったのだ。
典明がカタログを示し露伴を誘導すると、パラパラとページを捲り「あぁ、これか」と該当するページを開いて机に置いた。そのまま黙って視線を巡らせ、1ページ目、2ページ目、と目を通し、最後まで見終わってから視線をあげた。
「君。これとこれとこれ、なまえさんに着せてやってくれ。」
スタッフに指示する様はこの場の誰よりも偉そうだが、スタッフさんは嫌な顔ひとつせず「かしこまりました」と頭を下げた。うーん、プロ。
1着目、2着目と着替えて3着目に着替えて出てきた頃には若干飽きてきた。これを、当日もやるのかと考えると今から億劫である。
「花京院さん。今の3着でどれが一番良かった?というより、先に聞くべきだったな。他になまえさんに似合うと思ったものがあったか?」
「いや…言っただろう。全部似合うんだよ。むしろ3つまで絞ってくれてありがたい。今の中で選ぶなら…そうだな…。」
典明は言葉を切って、顎に手を当て考え込んだ。昨日決まらなかったものが、これでやっと決まるのだ。しばし考え込んで、やがて視線を上げた典明の目が真剣そのもので、心臓を射抜かれたような感覚がした。
「強いて言えば、今着ているものがいいと思う。首元のレースが、なまえによく似合ってる。」
「あぁ、確かにな。なまえさんは首元じゃあなく、肩を出した方が映えるな。」
「ありがとう…。こんなにあっさり決まるんだね…。」
ドレスひとつ決めるのに、昨日あんなに悩んだのが嘘のようだ。二人はもう既に楽しそうに、このドレスに合うベールやグローブの話を始めている。私の着るドレスの話をしているはずなのに、なんだか疎外感。
「ベールはこれとかいいんじゃあないか?」
「あぁ、いいと思う。グローブも色々種類があるな…。素材はこれで、長さは…。」
まぁ、2人が楽しそうなら、いいか。再び着せ替え人形のようにあれやこれやつけては外しつけては外し。そうしてやっと決まったのはこの部屋に来てから40分ほど経った頃だった。早い。
「ありがとう、露伴。」
「別に構わんが、逆によくこれに一日費やしたな。」
「ふふ。典明は頭を抱えてたよ。ねぇ、次は典明のスーツを選びたいんだけど「なまえ。まだ挙式用のドレスしか決まってないだろう?終わってないぞ。」
「……。」
そうだった。典明はお色直し用のドレスもたくさん着てほしいと言っていた。決まったのはまだ、挙式用の純白のドレスだけ。有無をいわせない典明の笑顔を見て無言で露伴に助けを求めたがフイ、と逸らされた。酷い。
「挙式のドレスより、そっちの方が大変だな…。」
そう呟いた露伴の言葉通り典明はあれもこれもととても楽しそうに選び、その度に着替えて、最終的に頭が痛みだしてきた頃にようやく典明からの要求は止まった。つ、疲れた…。
「結局、決まったのか?決まったんだろうな?」
私と同じくなぜか疲れた様子の露伴が典明を問い詰めているのを横から眺め、普段なら典明に怒るなんてと間に入るのだがその元気もなかった。うーん、と少し唸った典明の答えは「5着まで絞った」で、予想通り露伴の「そんなに着替えられるわけないだろう!どれだ!花京院さんが絞ったという5着を教えろ!僕が決めてやる!!」という怒号が響いた。
私が着替えている間に二人は大声で何やら言い合いをしていて、着替えを手伝ってくれていたスタッフさんに「騒がしくてすみません…」となぜか私が謝った。スタッフさんからしたら、露伴が一人で騒いでいるように見えるのだろうが、それでも充分うるさい。
結局5着のうち2着はウェディングフォトを撮る時に着るという話で落ち着いたらしいが…え?私、結婚式当日に4着着て、写真撮影の時にも4着着るの…?と背筋が冷えた。これは、典明にも同じ思いをしてもらわなくては。
昼食を摂って元気になった私を見て露伴は若干引いていたが、ここからは私が好き放題できる時間。典明に色々と私好みの服を着させる事ができるのだ。そりゃ元気にもなる。
露伴と同じようにカタログを眺めて、典明を見て、まずは色から絞っていく。私のカラードレスに合わせた色にしたいから…まずは紫色。そして緑色。青色。典明の雰囲気に合わせて淡い色味にして…さっきのドレスと並んだ時に綺麗に纏まって見えるのは。そして典明のかっこよさ、綺麗さ、儚さを引き立てるのは。
「露伴。紫色のスーツなんだけど、これとこれ、着てきてくれない?」
「……言うと思った。」
「露伴、お願いね。」
目を細めて嫌だとアピールする露伴に満面の笑みでおまけに語尾にハートもつけてお願いすると、ため息を吐きつつもフィッティングルームへと向かってくれた。なんだかんだやってくれるのが露伴の優しいところ。
「ほら、着てきたぜ。花京院さん、早く入ってくれ。こういう色は、僕は似合わないんだ。」
少しして戻ってきた露伴は、部屋に入るなり典明を呼んだ。確かに典明に比べると鋭利な顔つきの露伴には淡い色は似合わないかもしれない。本人も落ち着かないのだろう。しかし典明が露伴の体に入るとその姿が一瞬ぼやけて、瞬きの間に神々しい程に淡い色のスーツを着こなす、典明の姿に変わった。
ガタ、と音を立てたのは私。あまりのかっこよさに圧倒されて、思わず後ずさって椅子を倒してしまった。
「む、無理……嘘でしょ…かっこよすぎて直視できない…!き、着替えてきて…!」
倒れた椅子の横でしゃがみこんで、震える手で顔を隠した。普段学ランの姿しか見る事がないため、スーツという最強装備を身につけた典明は立っているだけで最強だった。
典明の姿のまま着替えに行ったらしく、部屋に一人でいると少し冷静になって起こした椅子に座り直したのだが「なまえ、こっちはどうかな?」と戻ってきた典明も結局かっこよすぎて話にならなかった。
最終的には私がカタログから厳選した選択肢の中から色だけは指定して露伴に決めてもらい、靴やタイなどは自力で選んだ。偉い。頑張った。私の分の靴や装飾品はまた典明と露伴で仲良く相談し、そちらもすぐに決まったようだった。
挙式用も無事に選び終えて、どうにかこうにか当日着る分は全て決まった。これで、やっと帰れる…。と思ったのだが、ブーケがまだだと言われて危うく膝から崩れ落ちるところだった。結婚式の準備って、想像以上に大変だ…!!