第5部 杜王町を離れるまで 後編
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「なまえさん。この生地はシャツに使えないのか?色や柄が気に入ったんだが。」
「わ、かわいいね!この生地は…んー、シャツには向いてないかな。こっちの生地でこの柄の生地が作れないか、お店の人に聞いてみるね。」
約束していた週末。4人でSPW財団の協力のもと、日本有数の布地屋さんへとやってきた。ありとあらゆる生地がたくさんあって、それだけでワクワクする。それは露伴も同じようで、あっちへ行ったりこっちへ行ったりと忙しそうだ。
「ねぇ、さっきの生地、大丈夫だって!1週間くらいかかるみたいだけど、あとで送ってくれるって。」
「本当か?SPW財団の力って、やっぱりすごいな。」
ここはSPW財団とは関係のないお店ではあるが、財団員が交渉すると大抵の事は通るので今回同席をお願いしたのだ。私も一応は財団員ではあるが、交渉には慣れていないので本当に助かっている。
「この色、初流乃に似合うんじゃあないか?初流乃、こっちに来てみろ。」
露伴が選んだのは意外にも明るいビビットなピンク色で、少し派手なんじゃないかと心配したが初流乃に当ててみると確かに意外と似合っている。やっぱり、露伴も連れてきて正解だった。
「うん、とっても似合ってる。じゃあこれと…この色も。あとは……、ねぇ露伴。これ、典明に似合うかな?」
「いいんじゃあないか?というか、花京院さんのなら君の方が分かってるだろ。」
「!ふふ、そうかな?じゃあ、これも下さい。」
露伴に褒められて、嬉しい。それも典明に関する事で褒められて、頬がだらしなく緩むのが分かった。
「なまえ。あんまり外で、そんなにかわいい顔しないでくれ。正直、露伴や初流乃にだって見せたくない。」
「っ!!露伴っ、今の聞いた!?てて、典明が…!」
「うるさいな、聞いてたよ。いいから早く選べよ。あんまりちんたらしてたら、先に帰るからな。」
酷い。典明のかっこよさを共有したかっただけなのに、拒否されてしまった。やっぱり、典明しか勝たん。
「典明…好き…。」
「…うーん…今日の君は、一段とかわいいな。」
「典明は、いつも素敵。20歳の典明も、魅力的だね。」
「おいそこ。イチャイチャするな。」
「なんでよ!別にいいじゃない!」
「早く選べって言ってるんだよ!本当に帰るからな!」
「ふっ…。」
露伴が大声をあげたところで、初流乃が堪らず吹き出した。「すみません、お二人の掛け合いが面白くて」と目尻を下げて笑う初流乃は思い出したようにふふ、と再度笑い声を漏らした。
「岸辺先生は、僕の前だといつもなまえさんに怒ってますね。照れ隠しですか?」
「は、はぁ!?初流乃、お前ッ…!」
「岸辺先生みたいな人、天邪鬼、って言うんですよね?本で読んだ事がありますが、本当にいるんですね。」
「お前、この僕をからかってるのか…!?」
初流乃、なんか変わった…?辛辣な言葉を言うのはいつもの事だが、なんというか、煽っているというか…。なんにしても、笑顔で人の事を怒らせるようなことを言うので、少しばかりDIOに似ている一面と言えなくもない。い、いや、DIOよりも、ポルナレフに対する典明の態度に似ている、という事にしよう。
「典明、二人で装飾品の方見に行こ。」
「うん、行こうか。」
「待て!置いていくな!」
「あはは、やだなぁ岸辺先生こそ、置いていかないでくださいよ。」
楽しそうに笑う初流乃を見ていると、からかわれた露伴には申し訳ないがとても安心する。預かる事を決めた当初に比べると本当に楽しそうで、私も嬉しい。
「ねぇ見て。典明の目みたいで綺麗。」
「…綺麗だけど、僕の目ってこんなにキラキラしてるかな?」
「してるよ!典明の瞳って、透き通ってキラキラして、私、一番好きなの。ねぇ露伴、これでお揃いの装飾品を作ったら、当日着けてくれる?」
「あぁ、僕が気に入るものならな。」
「なまえさん、僕の分も作ってください。」
「じゃあ、僕のもお願いしようかな。」
「典明も初流乃も、かわいいッ…!もちろん作るよ!」
作って欲しいと言われれば、俄然やる気が出るというもの。露伴もここまでとは言わないが、もう少し素直になればいいのに。
その後もあれやこれやとワイワイ騒ぎながら服の生地やボタン、装飾品やアクセサリー類の材料まで揃えて、大満足で帰宅した。露伴と相談してデザインした初流乃の服も衣装もみんなに似合いそうで、早く形にしてしまいたい。
「なまえさん、いつから作り始めるんだ?良ければ作っているところを見学したいんだが。」
「取材?そうだなぁ…結構時間が掛かるから、扉絵をあと2枚完成させてからになるかな。採寸して型紙を作るのならすぐにできると思うけど、一緒にやってみる?」
「!いいのか?」
なんだか今の露伴の反応が猫が楽しい時にする顔と似ていて少しキュンとした。目を少し見開いて黒目がちになって、猫の耳があったならピンと立っていただろうなと思う。
「…おい、なんだこの手は。頭を撫でるな。」
「あぁ、手が勝手に…。」
今まで何度か感じてはいたが、露伴は猫みたいだと思った。天邪鬼なところなんか、特に。いつもツンツンしているというのに、本当、かわいくてずるいなぁ。
「型紙を起こすには広めの机がいいんだけど、露伴の仕事場のデスクを使ってもいい?」
「…あぁ。一度、不要な物は退けよう。先に行ってるぞ。」
急に頭を撫でられて少し不満げではあったようだが、嬉しくもあったようで、照れ隠しのためかそそくさと背を向けて仕事場へと足を向けてしまった露伴。こういうところも、なんだかんだかわいくて仕方がないと思ってしまう。
「…最近、露伴に君を独占されている気がする。」
「!典明…!」
「確かに、お仕事ですから仕方がないですが、少し寂しいですね。」
「初流乃まで…!…あぁ、私が3人いれば…!」
典明の事はもちろん、露伴だって初流乃だって、大好きで大事だ。きっと私は今、人生で一番モテている。過去の記憶を遡ってもこんなに何人もの人に求められた事はなく、どうしたらいいのかさっぱり分からない。
「いや、君は一人でいい。君が3人もいたら、3人共独占したくなってしまうからな。」
「典明…ッ!あぁでも確かに、私も典明が3人いたら監禁しちゃうかも。いやでも、その前に典明の過剰摂取で心臓が持たないかもしれない。」
「ふ…君が死ぬのは絶対に嫌だけど、僕にドキドキして死んでしまうのなら、許してしまいそうだな…。」
「う…、今日の典明、なんか、いつにも増してキラキラしてる。」
「そう?最近君に触れてもらえなくて、寂しいんだ。…なまえ、今、抱きしめてもいいか?」
典明がそんな事を聞くなんて珍しい。初流乃の前ではあったが、典明がゆるりと腕を広げて不安そうにしているのに、抗えるわけなんてない。
「はぁ…。やっぱり君は、最高にかわいいな…。かわいくて、愛おしい。このまま、離したくない。時が止まればいいのに…。」
「…承太郎呼ぶ?」
「…はは。止めた時間の中で意識があるのは、君だけだろう?それはずるいじゃあないか。」
「それは露伴に協力してもらって…。」
「…それ、意味ありますか?」
初流乃の言葉に、確かに、と納得してしまった。二人とも動けるのなら、別に承太郎を呼ばなくともこうしていれば良い。
典明の方を見ると優しい瞳と目が合って、その瞳がさらに細められ、頬にキスをひとつ。初流乃の前なので唇へはできなかったようだ。
「典明…相変わらずかっこいい…!」
「ありがとう。…君からのお返しのキスが欲しいな。」
「っ!」
私が既に心臓の音を速めているのを分かっているくせに、今日はとても押しが強い。それほどまでに、私を求めてくれているのだと思うと嬉しくて、横を向いて差し出された頬にキスを送りながら、こんなんじゃ全然足りないな、と思ってしまった。
本当に典明は、何度も何度も、私を虜にする。私にとって世界最強の男だ。