第5部 杜王町を離れるまで 後編
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ぞろぞろとみんなでやってきたのは、いつかも承太郎とやりあった丘の上。別に露伴と初流乃は家で待っていてくれて良かったのだが、露伴は「君達の戦闘シーンは参考になるからな」と言ってついてきたし、初流乃も「なまえさんが戦っているところ、見た事ないので見たいです」と言ってついてきた。逆に仗助は帰りたそうにしているが。
「じゃあ…合図とかは、いらないよね?」
「あぁ。いらねぇ。」
むしろその言葉を合図に、私達の戦闘はスタートした。お互い最初の距離のまま、ジリ、と靴を鳴らして相手の出方を見る。承太郎は、動く気はないようだ。とりあえず様子見として、一度大きく跳躍して空へと跳び上がった。そしてそのまま踵を振り降ろしたが…ドォン!と大きな音がした割に、承太郎に当たった感触はない。一度下がって距離を取ろうと思ったのもつかの間、砂煙の中から伸びてきたスタープラチナの手に、足首を掴まれた。これは、前回と同じ…!と思った次の瞬間には、思い切り地面に叩きつけられた。私とした事が、前回と同じやられ方をするなんて。
「今回も、手加減なしって事ね。」
「…手加減しねぇと、一方的にやられるだけだろうが。」
それはごもっともだが、そもそもこれがなんのための戦闘か、忘れてやしないだろうか?
ドン、と音を立てて地面を蹴り、承太郎の周りを駆け回る。スタープラチナの目ならば、もしかしたら見えるかもしれないが、どうだろうか?移動しながらも承太郎とスタープラチナからは目を離さずにいると、やがてスタープラチナと目が合った。やっぱり、見えている!なら、次の動きは。
「ッ!なにィ!?」
拳を握ってパンチ、と思わせておいて、避けようとして動いたスタープラチナの拳をクイーンが掴んだ。同時に私も承太郎の手を取って「残念だったね、承太郎。」と満面の笑みを浮かべた。以前はここで空中へと跳び上がったが、今回はやめた。また読まれると面倒だからだ。
「ハァ…もしかしてこれは、詰みか?」
「うーん…そうかもね。」
グ、と足に力を込めて、承太郎を掴んだ腕にも力を込めて、一本背負いのように地面へとその体を叩きつけた。前はこれで終わりだったが、今回はそうはいかない。まだ、私は承太郎の手を離してはいない。「これは、さっき承太郎が私にした攻撃の分ね。」と言うとギョッとした顔を見せたが、まだ続きがある。
「それと、これは徐倫の分。」
今度は軽く跳び上がって、空中で承太郎の手を離して胸倉を掴み、勢いそのままに地面へと押し込んだ。これで終わりだ。
「承太郎、怪我の度合いは?」
「…折れてる…。」
「ふふ…私を怒らせると怖いねぇ。」
「違ェねぇ…。」
「おーい、仗助〜!治して〜!もちろん私を先にね!」
私の言葉を聞いて一番最初に動き出したのは典明、いや、ハイエロファントだった。ハイエロファントの触手によって仗助が投げ飛ばされて、とんでもないスピードで私達を治した。典明の過保護さは、過保護とはいいつつもなんだかバイオレンスなのだ。
「やっぱり、君は強いな。」
「本当、すごいです!」
典明と初流乃が賞賛の言葉をくれて、なんだか照れくさい。改めて言われると、照れてしまう。
「なまえさん、前よりも強くなってないスか?」
「そう?」
「ほんと、かわいい顔してやる事えげつねーよなァ…。」
「やれやれだぜ…。もうぜってーに、テメーとはやり合わねぇ。」
立ち上がった承太郎は、本当に嫌そうな顔で私にそう宣言した。よっぽど嫌だったのだろうが、今回のは承太郎の自業自得なのだが。
昼食がまだだったためカフェ・ドゥ・マゴへ行き各々食事をしていると承太郎が初流乃に話を聞こうと近づいてきたので「今はゆっくり食事をさせて!」と慌ててそれを制した。本当、油断も隙もない。家に帰って干してある布団の向きを変えてリビングへ戻ると既に話し合いの準備が整っていて、テーブルにはお茶の用意までされてあった。「仗助、帰らなくていいの?」と既に用事の済んだ仗助に聞くと「や、気になるんで気が済むまでいます」と同席をする気らしい。あまり詳細を話していないから気になるのは分かるが、聞いていて楽しい話ではないので気が引けるが…本人がいたいというのなら止めはしない。
「汐華初流乃くん…だったかな。なまえが作った資料を読ませてもらった。」
「はい。あなたは、空条承太郎さんですよね?なまえさんと花京院さんから、たまにお話聞いてます。」
穏やかな空気感で、挨拶が終わった。ここからが、本題だ。
「君はDIOの息子で、最近突然変異で黒髪が金髪になった。間違いないか?」
「はい、間違いありません。」
「えっ。」
驚きの声を上げたのは、仗助だ。DIOの話は以前にしてあるが、初流乃が奴の息子である事は話していない。無言を肯定の証として、静かに頷いてみせた。
「髪の毛を1本、見てみてもいいだろうか?」
「はい。」
初流乃の承諾を得て、承太郎が髪の毛を1本引っこ抜いて、それをまじまじと見つめた。そして「毛根まで金髪、だな。」と。なるほど、そこまでは気が回らなかった。
「首の後ろの痣を、確認してもいいか?」
「分かりました。…どうぞ。」
初流乃が首元を広げるのを見て、仗助も無意識に自分の左肩に手を置いた。仗助にも覚えがあるのだろう。
「ありがとう。…なるほど、確かにジョースター家の血も引いているらしいな。なまえ。血液検査の結果は、コピーを取ってあるな?」
「あぁうん。ここにあるよ。」
承太郎に指示されたわけではないが、彼なら要求してくるだろうと1回目と2回目、どちらも用意しておいた。その読みがどうやら当たったらしい。
「ふむ…。」
承太郎の鋭い視線が初流乃を見て、私を見た。今何を考えているのか、皆目見当もつかない。
「スタンドは、まだ出せないんだな?」
「はい。一応、見えはするんですが。」
「そうか…。もし、スタンド能力が発現したらすぐに連絡するように。スタンドの訓練は、花京院に任せる。」
「ふ…、なまえと同じ事を言うんだな。」
典明が姿を現して、部屋の中の重苦しい空気が一瞬にして軽くなった気がする。そばにいるから、いい匂いがするし。
「感覚派のなまえよりは、理論派の花京院の方が適任だろう。」
それでいうと確かに、私も承太郎も露伴も感覚派だ。多分仗助も億泰もそうだ。そう考えると初流乃にとって典明の存在は、思っている何倍も大きい。
「典明がいてくれてよかった。」
「!…君にそう言われると、どうしようもなく嬉しいな…。」
あぁやばい。こんなに人がいっぱいいるのに、私が言った何気ない一言で、典明が僅かに頬を染めてまで喜んでいるのがかわいくて嬉しくて、今すぐ抱きしめたい。助けて露伴!とずっと黙っている露伴に目で訴えると、呆れたような顔で私を見ていたのでいくらか気持ちが落ち着いた。いつも思うが、あれが愛しい恋人に向ける目だろうか?
「この子の母親と連絡は取れるのか?」
「あー…えぇと、一応電話番号は、控えてるけど…。」
「母は、きっとなまえさんからの電話には出ませんよ。知らない番号からの電話も出ない人でしたから…。」
「一応、番号はメールで送っておくよ。」
「あぁ、頼む。ホル・ホースの奴、電話に出やがらねぇんだ。」
なるほど?確かにホル・ホースは承太郎と気が合わなそうだ。わざと電話に出ないという事もありえる。
「ふ…、私からの電話なら、出ると思うけど。」
「…なに?」
見せつけるようにその場でホル・ホースに電話をかけると、やはり数コールで繋がった。女の子からの連絡は放っておけないもんねぇ、ホル・ホース?