第5部 杜王町を離れるまで 後編
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「お邪魔します。」と玄関で挨拶をして上がらせてもらうと、リビングから「なまえさん!」と初流乃の嬉しそうな声とともに初流乃本人が顔を覗かせた。か、かわいい…!
「なまえちゃん、いらっしゃい。…すごい荷物ね。一回家に帰ったんじゃないの?」
初流乃の後ろから顔を覗かせた朋子さんは、仗助の持っている袋の数を見て驚いて…いや、若干引いているようにも見える。
「あぁこれ、全部お土産とお礼です。とりあえずこれ、今日のおやつに。」
S市内のお店で買ってきたスイーツの箱を手渡して、案内されたリビングへ入ると「そんな、いいのに…」と気を遣わせてしまったが「いいんです。急なお願いを引き受けて頂いて助かりましたし、大事な初流乃を5日間も預かって頂いたんですから。」と言って無理やり納得させた。受け取ってくれないと困る。
「これとこれとこれは食品で、こっちは無難に写真立てです。お部屋のインテリアに合うかなと思って。」
「さすがなまえちゃんね、センスいいわぁ!」
「なまえさん、これ、もしかして俺に…!?」
お土産を仕分けていると、仗助が目敏くひとつの袋をピックアップして掲げてみせた。それは以前靴を買いに行った時に仗助が欲しがっていた靴のブランドの袋で、お土産を選んでいる時に偶然近くのショップで見つけたものだった。
「ふふ、そうだよ。気に入るか分からないけど、開けてみて。」
「マジっスか!?…うひょーカッチョイイ!なまえさん、マジ最高っス!」
「ちょっとなまえちゃん、コイツにそんなお金使わなくてもいいのよ?お金は大事に使わなきゃ。」
「ふふ、大丈夫ですよ。私、こう見えてお金持ちなので。お金があるなら使わなきゃ。経済を回すのが、お金持ちの義務ですし。」
尤も、今回回してきたのはアメリカの経済ではあったが。私の言葉を聞いた朋子さんは呆気に取られたような顔をして「なまえちゃんて意外と、太っ腹というか、男前よねぇ」と感心したように漏らすのでちょっとばかし照れくさい。
「ちゃんと朋子さんにも買ってきたんです。これも朋子さんの好みか分からないんですけど、たまにでいいので使ってください。」
「マジ?GUCCI?」
流行りに左右されにくいGUCCIのバッグ。無難なものをと露伴にも一緒に選んでもらったので、ハズレはないだろう。案の定包みを開けた朋子さんは「ありがとうなまえちゃん!大事にするわ!」ととても喜んでいた。本当、露伴と一緒に選んで良かった。
「初流乃には、家に帰ったらちゃんとあるからね。」
「ふふ、ありがとうございます。楽しみです。」
5日振りに会った初流乃は、金髪にまだ慣れないせいもあっていつもより眩しかった。
「じゃあ初流乃、帰ろうか。初流乃に会ってほしい人が来てるの。」
「僕に、ですか?」
本当は、会わせたくないのだが。それを態度に出さないように、あえてこのタイミングでそう告げた。
「来たばかりで申し訳ないんですが…。」と朋子さんに告げると「一緒にお茶したかったけど、仕方ないわね。ほんと、なまえちゃんは忙しいわね!」と嬉しい事を言ってくれるので「じゃあ、また今度お時間のある時に」と約束をした。
「仗助くんも借りていいですか?」
「仗助?ご自由にどうぞ〜!」
本人を目の前にして仗助の貸し借りの約束をすると仗助は少し呆れたように目を細めたが、その顔が少しだけ露伴と似ているなと思ったのは私の心の中だけに留めた。
「お邪魔しました。」
「じゃあね〜初流乃!よかったらまた遊びにきてね。」
「はい。ありがとうございます。」
玄関で別れの挨拶をする初流乃を見て、随分東方家に馴染んだな、と思った。最初は初流乃が気を遣うのではないかと心配していたのだが、どうやら本当に要らぬ心配だったらしい。
「俺になんか用っスか?なまえさんが俺に用って、正直嫌な予感しかしないんスけど。」
「今、承太郎が来てるのよ。」
「はぁ?承太郎さんが?…初流乃を連れてっていーんスか?」
仗助のその言葉に、そういえば初流乃の事は承太郎に漏れないよう口止めしていたなと思い出した。
「ちょっと、状況が変わってね。承太郎に初流乃の事を話したら、一度会わせてくれって。」
「承太郎さん、ですか。」
「いや、それと俺になんの関係があるんスか?」
「仗助は、怪我治し要員だよ。」
「花京院さん!」
うーん、話がややこしい。初流乃と承太郎が会う事と、仗助を呼んだ事に繋がりはないのだが、それを説明するのが面倒だ。典明はいつもこういうタイミングで姿を現してくれるので、本当に助かっている。
「初流乃が承太郎と会うのとは別件で、なまえは承太郎にお仕置をする必要があってね。なまえのお仕置は、シャレにならないだろう?」
「承太郎さんにお仕置って…何がどうなったらそんな事になるんスか?」
「承太郎があまりに分からずやだから、かな。」
「初流乃、事前に言えなくてごめんね。正直、承太郎に会わせたくないから色々と回避できないか考えたんだけど…。」
今回の件に関しては、どう足掻いても無理だった。断る理由を見つける事ができなかったのだ。
「僕は別に大丈夫ですよ。むしろ、なまえさんや花京院さんの知り合いに会えるので、嬉しいです。」
「初流乃…!なんていい子なの!」
大人の勝手で親元を離れて、その先でも大人の都合でこうして隠れて暮らして、また預けられて。不自由な暮らしをさせているというのに、本当にどこに出しても恥ずかしくない、どこまでもいい子だ、初流乃は。
「ただいまー!さぁ承太郎。初流乃と話すか私と戦うか、どっちにする?仗助は連れてきたわよ。」
「ゲ…東方仗助…。なまえさん、連れてくるなら僕に一言教えてくれないか。」
「あぁ、ごめん。そこまで気が回らなかった。」
岸辺邸のリビングの扉を開けて開口一番、承太郎に選択を迫った。家を出る前は腑抜けていたはずだが、時間を開けて落ち着いたらしい承太郎はそれを聞いてあからさまに顔を顰めた。まだ諦めてなかったのかという顔だが、こちとら徐倫にお願いされているのだ。諦めるとかそういう問題ではない。
「…やれやれ…。…よし、嫌な事は先に終わらせよう。」
そう言って立ち上がる承太郎は覚悟が決まったようで、外へ向かって歩いていく。私と戦う、とは言ったが、外へ出るという事はやり返すつもりだという事と捉えていいだろうか?承太郎がそのつもりなら、私だって肩パン一発で済ませるのはやめた。