第5部 杜王町を離れるまで 後編
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飛行機を乗り継いで、新幹線に乗り換えて、徐倫のいるアメリカからS市まで帰ってきた。S市駅の外で承太郎と待ち合わせているが…いた。女の子数人に囲まれている人がいるなと思ったら承太郎で、本人は嫌そうな顔をしているのでしばらく放置しようかとも思ったが目が合ってしまったので仕方なく合流した。
「お待たせ、承太郎。荷物持つの手伝って。空港まで迎えに来てくれれば助かったのに。」
「そうか。別に、言ってくれりゃあ迎えに行ったぜ?」
「この子と待ち合わせしてたんですか?彼女…いや、妹?」
「いや、い「妻です〜。これから家に帰るんで、あなた達もどうぞお帰りください。」
左手の薬指の指輪が見えるように承太郎の服を掴むと、群がっていた女の子達は視線を散々さ迷わせたあと、仕方なく、といった感じで去っていった。全く、疲れていて早く帰りたいから妻だなんて言ったが、承太郎の妻だなんて、死んでもごめんだ。
「露伴、眠いでしょう?車で少し眠るといいよ。」
「あぁ、そうさせてもらうよ。」
正直私も少し眠りたかったが、家に帰っても食べるものがないので帰る前にスーパーに行かなきゃいけないし、そもそも承太郎が私が眠るのを許さないだろう。仕方なく助手席に座って、典明は後ろに座ってもらった。
「徐倫は、2人は、元気だったか?」
走り始めて少しして、予想通り承太郎が話し出す。車は以前のセダンタイプではなくバンタイプに乗ってきたらしく、その点は気が利いている。
「あー…そうね、元気だったよ。」
「…なんだ、その間は。」
「徐倫、たまに元気なかったから。パパに会えなくて寂しいって。」
「……。」
私からの口撃を受け、承太郎は口を噤んだ。言い返す言葉もないだろう。
「その事に関してだけど、私は徐倫に、承太郎を懲らしめる許可をもらってるの。思いっきりやっていいって。」
「!…なに…?」
眉を寄せて嫌そうな表情を見せる承太郎に、内心高笑いした。これに関しては、徐倫は私の味方なのだ。承太郎からしてみれば、面白くないだろう。
「本当は出会い頭にやろうと思ったんだけど、車の運転ができないと大変だもんね。仗助に会う前にやらないと。」
「…それは、反撃も可なのか?」
「反撃、できるならどうぞ?前に書き込んだ文字は、消してないからね。」
前に…吉良吉影を倒した際に書き込んだ"ザ・ワールドの中でも動ける"の文字はあの後も弄っていない。故に承太郎が私にザ・ワールドを発動しても、無意味なのだ。
「クソ…ぜってー当てるからな。」
「その時は、僕からのエメラルドスプラッシュが飛ぶからな。」
後ろから物騒な言葉が聞こえてきたが、その言葉とは裏腹に、典明は綺麗な笑顔を浮かべている。もう、かっこいいなぁ!
仮眠をとる露伴を車内に残しスーパーで買い物をして、一度岸辺邸へと帰ってきた。今はまだ朝の時間帯のため、訪問すると迷惑になるかと思い昼頃に行くと仗助にはメールを入れておいた。早く、初流乃に会いたい。
「朝食、買ってきてくれたのか。ありがとう。」
仮眠をとって少し元気が戻った露伴と共にガスの元栓を開けたりブレーカーを上げたりしていつもの状態に戻し、とりあえずは復帰した。ゆっくり朝食を摂って、掃除や荷解きはそのあとだ。
「承太郎、これ。」
承太郎に会った時に渡そうと思っていたフロッピーディスクを取り出して、承太郎へと手渡した。ホテルで時間をかけて作成したものだ。「パソコンを借りたいのだが。」という承太郎を部屋に案内して、私は朝食の席へと戻った。あのままあそこにいては質問攻めにあう事になると思っての事だ。
「朝ご飯を食べたら、リビングと、みんなの部屋も掃除しなくちゃね。」
「なまえ。」
掃除も終わりに差し掛かった頃、承太郎がフロッピーディスクを片手に私を呼んだ。何を言われるのだろうかと若干身構えてディスクを受け取りに行くと「よくできてる」と意外にもお褒めの言葉をもらって拍子抜けした。おまけに「なにか手伝うか?」と聞いてくるので全員分の布団干しをお願いしたら快く引き受けてくれた。なんか変だ。
「はは、あれはきっと、なまえのお仕置きが本当に嫌なんだな。」
「…そういう事?」
それはそれ、これはこれだ。今のご機嫌とりのお礼は、徐倫から預かった手紙を渡して、それでチャラだ。
「…承太郎。もう少ししたら行くけど…はい。」
掃除も粗方終わらせてひと息着いた頃、ついに承太郎へ徐倫からの手紙を手渡した。最初は訝しんでいた承太郎だったが、子供が書いた"パパへ"という文字を見て顔色を変えたのを私は見逃さなかった。
「これを…本当に徐倫が?」
「疑うなら私がもらうけど。」
私の言葉は無視して、承太郎は恐る恐る封筒を開ける。こんなファンシーな封筒に入った手紙に恨み言が書かれているわけもないのに、やけに慎重だった。
カサ、と乾いた音を立てて取り出された便箋は1枚だけで、私のものより少なかったがそのおかげで何が書いてあるのかすぐに読むことができた。
"電話でお話したら、もっとパパに会いたくなっちゃった。徐倫もママも、パパに会いたい。パパ大好き。徐倫"
「承太郎。私と典明じゃないんだから、会って言葉にしないと、愛は伝わらないよ。」
特に、表情の変わらない承太郎はなおさらだ。承太郎からは「そうだな…」と返ってきたが、私の言っている意味がちゃんと伝わっているのか、そもそもちゃんと聞こえているのか分からない。今はきっと、徐倫からの"パパ大好き"を噛み締めているのだろう。
結局家を出る時間になってもボーッとしていたため、承太郎は岸辺邸へ置いて家を出た。色んな意味で仗助の家に行く理由がない露伴もいるので大丈夫だろうが、これではお仕置ができないじゃないか。仕方ない、帰りは仗助を連れて帰ろう、と一人心の中で予定を立てた。
ピンポーン、と時間ぴったりに東方家のインターホンを押すと仗助が出てきたので「車で来たの。ガレージの前に停めてもいい?」と聞くと車を見て「なまえさん、そんなデケー車も運転できるんスね…。グレート。」と親指を立てるので、よく分からないが同じポーズを返しておいた。