第4部 杜王町を離れるまで 前編
name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
あまりに必死すぎる露伴の声に、2人揃って動きを止めて露伴を見る。もちろん体勢はそのままに。露伴は「あぁ、そのままでいいから」と諦めたようにため息をひとつ吐いて、質問を続けた。
「2人が出会ってから、お互いなにか変わったところは?ないならないでいいが、多少なりとも影響はあるだろう?」
典明と出会って、変わったところ。何かあるだろうかと、口を閉ざして考える。典明も同じように黙っているので、色々と思い出しているのだろう。
「んー…。私は、ないかなぁ…。強いて言えば、かわいくなった、とか?」
「またそれか。」
「いや違くて。うーん…かわいくなったというよりは、かわいくいようと心がけるようになった、かも。」
「あぁなるほどな。しかし、他にあるんじゃあないか?」
「いや、なまえは本当に、何も変わらないよ。なまえはそういう子だ。」
典明…。私の事を一体どこまで理解しているのか。典明は私の取扱説明書か何かか?と思わざるを得ない。
「僕は、何度でも言うが、なまえのかっこよくて強いところが大好きなんだ。不安なんて何もないような、何かあっても"へぇそうなんだ"で笑って済ませてしまうなまえを尊敬していたんだよ。…そんななまえをそばで見ていたら、自分はなんて中途半端な人間なんだと、惨めになった。」
「えっ。」
典明の口から出た意外な言葉。今まで10年も一緒にいたのに、全然知らなかった、彼の本音のようだった。
「だけどそんな惨めな僕を救ったのもなまえだった。DIOを相手に、僕に何かしたら殺す、って言ったのを、覚えてるか?」
「えっと…何度か言った気がするんだけど…。」
「そうだな…。車の中で、君が寝ていた時だ。」
あぁあの時か、とすぐに記憶が呼び起こされた。あれは確か、波紋の呼吸の修行でマスクを付け始めた時だ。夜寝る時もマスクを付けるせいで眠りが浅く、毎日睡眠不足だった頃。
「あの時、毎日寝不足で辛そうな君をとても心配していたんだが、それは要らぬ心配だったと思ったよ。DIOの夢を見て魘されているのに、DIOに向かって僕に何かしたら殺す!なんて…。そんなの、僕も強くならなくちゃ、と思うだろう?君と肩を並べるくらいに。僕があの時感謝を伝えたのは、ただ単に僕のために君がDIOにタンカを切ってくれたからだけじゃあない。君が僕に、勇気を与えてくれたからだ。」
10年越しの告白に、私は言葉を発する事ができなかった。あの時確か典明は、肩を震わせて泣いていたのだ。当時はなぜ泣いているのか分からなかったが、そんな気持ちが込められていたなんて、全然知らなかった。
「もうひとつある。その少しあと、夢のスタンド使いの時も。あの時…ただ一人、君だけは、どんな時も僕を信じてくれただろう?それが本当に…本当に嬉しくて…。未だにずっと、あの時の気持ちが忘れられないんだ。あの時僕らは既に両想いだった。だけど、僕は自分が、君に釣り合っていないと思ってたんだ。情けない事にね。だからなかなか告白できずにいたんだけど…君を、離したくなくなってしまったんだ。」
「うぅ…。」
だめだ。もう涙を堪える事ができない。悲しいわけでも、辛いわけでもないのに、ポロポロと零れてくる涙が止まらない。
「あぁ。花京院さん、泣かせちまったな。」
「…なまえ…。」
「…オイオイ待てよ。花京院さんまで泣くのか…!?」
「う…、露伴が…あんな質問するから…!」
典明の泣き顔を隠すように腕の中に閉じ込めて、私も泣きながら露伴に抗議する。完全に八つ当たりなのは分かっているが、他に言う相手がいないのである。
「っ…典明…好き…!愛してる…典明…。」
「…僕も、…愛してるよ、なまえ。」
「はぁ…。これじゃあ僕は、完全に邪魔者じゃあないか。」
「邪魔者じゃない…!露伴は、私を慰めてよ…!」
めちゃくちゃ言ってるのは分かっていたが、露伴が部屋を出ていくのは避けたかった。やや面倒くさそうではあったが備え付けのティッシュで涙を拭いてくれるあたり、露伴はやっぱり私に優しい。
「君らの純愛ストーリーで5巻分くらい描けそうだな。」と本気なのか冗談なのか分からないトーンで言うので「いいよ、私も読みたい」と言ったら「僕は恋愛モノは描かない」と一蹴された。どうやら冗談だったみたいだ。
「典明、キスがしたい。」
涙が落ち着いた頃にそう主張すると「僕も言おうと思ってた」と涙で濡れた顔を上げるので、自然な流れで唇を重ねた。数秒して唇を離してしばし見つめ合い、露伴の方へ視線を移すと彼もこちらを見ていて、首を傾げていた。何も考えずにその腕を引いて露伴とも唇を重ねて、そこでようやく(私いま、何してるんだろう)と思った。
「…どうしてその流れで僕に来るんだ…。」
「…したいと、思って…。」
勝手に動いたとはいえ、キスしたということはそういう事だろう。
「なまえ、もう一回キスがしたい。」
未だ私の胸にいる典明が上目遣いで強請るので顔を近づけると静かに瞼が降ろされて、キラキラした藤色の宝石は隠された。ちゅ、とかわいい音を立ててキスをして、再び藤色の瞳が見えて目を細めると、典明も同じように目を細めた。典明のこの藤色の瞳は、本当に宝石をはめ込んだみたいに綺麗で、大好きだ。
「…2人とも、そろそろ寝ようぜ。話のキリもいいし。」
露伴の言葉を聞き時計を見ると、もうそろそろ10時になるところだった。大人が寝るには早い気もするが、別に早く寝るのは構わないし、明日は移動が多い。早く寝るに越したことはないだろう。だがその前に。
「露伴…。露伴とも、もう一回キスしたいんだけど、…ダメ?」
「!」
既に寝る気満々だったであろう露伴は私の言葉を聞いて驚いたように振り返り、数秒黙って目を細めたのち諦めたようにため息をついた。これは、肯定の合図だ。
「昨日僕が言った事を自分なりに考えてるんだな。本当、健気でかわいくて悔しいよ。」
「ハイッ!あと、抱きしめてもいいですか!」
「〜〜〜!!ッ、好きにしろよ!!」
露伴からのお許しをもらっていい気分でぎゅ、と彼の体を抱きしめた。典明とは違って少し硬いこの体は、なんだか久しぶりな気がする。その温かさをしばし堪能してから上を見上げると愛おしげな瞳と目が合って心臓がきゅ、となったのが分かった。そして先に動いたのは、私じゃなく露伴の方で。目を閉じると同時に唇が触れ合い、じんわりと熱を分け合うとそのまま溶けていきそうだった。しかし案外早くそれは離れていき、寂しいな、と思いせめてもうちょっとくっついていようと露伴の肩に頭を預けた。
「ふ…。」と典明の優しい微笑みの気配を感じて閉じていた目を開けるとやっぱり優しい微笑みと目が合って、幸せな時間だなぁ…とその幸せな瞬間を噛み締めた。
「……ほら、もう終わりだ。」
その言葉と共に露伴の腕は解かれて、仕方なく私も腕を解いて、離れた。
「ふ…、偉いじゃあないか。」
「ん。偉い偉い。」
ヨシヨシと2人に撫でられて、今度こそ眠る合図だ。典明に腕を引かれて布団へ入る間に、露伴が部屋中の電気を消して歩いて。あまりに自然な動作だったから、自分がお姫様かなにかにでもなった気分だ。
おやすみ、と1日の終わりの挨拶を送りあって、電気が消される。アメリカに来た初日はどうなる事かと思われたが、今日は幸せな1日だったな、とこの旅を振り返った。残るは明日1日。夜には飛行機に乗らなくてはいけない。初流乃を連れてこられなくて残念だったが、いつか、今度は初流乃と典親も連れて、またみんなで旅行に来よう。