第4部 杜王町を離れるまで 前編
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「…なまえ…、顔、真っ赤だね。かわいい。」
「…典明…典明……。」
「うん…。僕も好きだよ。」
ぐりぐりと典明の胸に顔を埋めて彼の匂いを思う存分吸い込んで。心の中で念じた「典明大好き」もちゃんと正しく伝わったみたいだ。
「露伴も、こっちきて。」
先ほど立たせた露伴を呼び戻そうと布団をポンポンと叩いて主張するが、露伴は動こうとはせず微妙な顔をしている。
「いや……2人のイチャイチャに混じるのは、さすがに気が引けるんだが。」
「へぇ。なまえと離れるのが寂しくて、アメリカまでついてきたんじゃあなかったのか?露伴。」
「は…?僕がいつ、……!まさか、昨日か…!?」
「まぁまぁ。ほら、露伴ちゃん、おいで。」
典明の上から降りて再び布団をポンポン叩くと「クソ…」と不本意そうではあったがようやくベッドの上へとやってきた。
「これに懲りたら、ちゃんとお酒の飲み方を覚えようね。」
広げた腕の中へおずおずと入ってきた露伴を抱き締めてよしよしと撫でると意外にも嫌がらなくてきゅ、と心臓が高鳴った。大人しくてかわいい…。
「あぁ、さすがに懲りたよ。練習には付き合ってくれるんだろうな?」
「もちろん。かわいい露伴ちゃんのお願いなら。」
「…その呼び方はやめろ。」
本当に昨日の夕食後の記憶はなくしていたらしい。そのような事になった事がないのでそれがどんな状態なのか分からないが、きっとお酒の飲み方が分かれば改善されるだろう。
「ふふ…、今日は、このまま寝よう。」
「マジで言ってるのか?君、僕の事を試してるのか?」
「なまえがそこまで考えてるわけないだろう?」
「…そこはちゃんと教育しといてくれよ、花京院さん。」
試してるとか教育だとか、2人が話しているのは私の事だろうか?文脈から察するに私の事のようだが、主語がないのでよく理解できなかった。それを察したように、私から体を離した露伴は口を開いた。
「なまえさん。僕は花京院さんじゃあないんだ。君が無意識にやってるかわいい仕草やこういった行動は正直に言うと嬉しい。嬉しいが、男ってやつはその先を期待するモンなんだ。花京院さんは、どうやってるのかしらんが、それを抑えてるだけなんだよ。」
露伴の真剣な言葉を聞いて、チラリと典明を見ると少し困ったような微笑みを浮かべていて、露伴の言っている事に同意をしているようだった。今まで典明が、我慢をしていたという事だ。
「君は今、このまま寝ようと言ったな。あのままくっついて眠って、何もないと思うか?まぁ、僕が花京院さんなら、何もないだろうな。だが残念ながら、僕は花京院さんじゃあない。君の体温や息遣い、匂い、触れ合った体の柔らかさを感じて、大人しく眠れる自信がない。いやその前に、体が勝手に反応して、まず間違いなく勃つだろうな。」
「…!」
「…いい機会だから聞いておこう。君は、……僕とセックスできるのか?今、現時点で。…それが分からない事には、どこまで君に触れていいのか、図りかねる。」
セックス。つまり性行為とは、どこからそう呼ぶのだろうか。私と典明がしているものは、性行為と似ているがただ触れ合っているだけ。それに、そういう事ならば露伴とも一度だけした事がある。という事は、露伴の言う性行為とは、挿入も含むという事になるのではないだろうか。そう仮定して、自身の気持ちを整理してみた。
「え、と…、私…、典明と最後までしたの、2回しかないの。他にも、そういう人がいた事もないし…。」
「は…?2回…?それも相手は花京院さんだけだって…!?…あぁ、なるほど……。そりゃあ、警戒心がないのも頷けるな…。」
露伴が言うには、典明は自制心が強いらしいので他の人もそんなものだと勝手に思っていた。でもそうじゃないらしいと知って、露伴には本当に申し訳ないと、今さらになって後悔した。
「あの、ごめんなさい、露伴…。」
「いや、僕の、君達に対する理解力が足りなかった。…なるほど…。そんな時になんだが、もっと君達の事が知りたくなったよ。今度時間のある時に、全部読ませてはくれないか?」
「全部…。…うん、いいよ。」
あの時とは、露伴との関係も大分変わった。最初は冷たく突き放していたのがまさかこんな関係になるなんて、思ってもみなかった。心境の変化なんかも書かれているはずなので、露伴にはむしろ読んでもらいたい。
「やっぱり君は、僕を信頼しすぎだ…。はぁ…これがいま流行りの小悪魔ってやつか…。」
「小悪魔…?それはどういう意味の言葉なんだ?悪い意味に聞こえるが。」
典明と同じく耳にした事がない言葉に、私も典明と一緒に露伴を見る。2人の視線を受けた露伴はフッと笑って「意識的にしろ無意識にしろ、男を手玉にとって翻弄する女の子、って意味だよ。」と言うので、やっぱり悪い意味の言葉じゃないか!と思ったが「あぁ、それはなまえにピッタリだな。」と典明もなぜか納得していて、私はどうしても納得できなかった。
「……私、露伴の事好きだよ。もっと、触れ合いたいって思ってる…けど…、そういう経験が少ないから、典明しか知らないから、少し、怖い……。それに…、典明はいいって言うけど…、少し、後ろめたさも、あるし…。」
「…なまえ、よく言えたね…。偉い偉い。」
今まで言えなかった本音を口にすると、典明は「偉いね」と言って優しく頭を撫でてくれて、思わず目頭が熱くなった。それに、胸がなんだかジクジクと鈍く痛む。
「本当に、僕はいいんだ。諦めとかじゃあなく、君が満たされるのなら人の力を借りたっていいと思ってるんだ。僕はいつも、嫌だと思ったら嫌だと言うよ。知ってるだろう?」
「!」
その通りだ。典明の言う通り、彼は嫌な事には嫌だとキッパリ言っている。私が好きなところのひとつだ。好きなところなのに、忘れていたのだ。なぜ、今まで気が付かなかったのか。
「典明の…、そういうところ、大好き…。」
「おい待て。いい感じに終わらせようとするな。」
典明とぎゅ、と抱きしめあっていたのに、露伴がそれを許さなかった。話は、まだ終わっていなかった。
「前に花京院さんが言っていた"なまえさんは初心な女子高生"って言葉の本当の意味が、ようやく分かったよ。26歳で子供もいて、愛し合ってる人と毎日愛を囁きあっているのに経験回数がたったの2回なんて、普通じゃ考えられないな。ほぼ処女のようなものじゃあないか。」
頭を抱えて項垂れる露伴に、私は小さくなる事しかできない。改めて言われると反応に困る。
「全く…。ほぼ処女の癖に男を誘惑するんじゃあない!花京院さんを誘惑するのは一向に構わんが、その辺の男にベタベタくっつくのはナシだ!承太郎さんはなんで正気でいられるんだ…!君、仗助や億泰にも同じ事してないだろうな?」
「え。えぇと、どうだろう…。」
「そこは胸を張って否定してほしいなァ!君は自分がかわいい事を、自覚してるようで自覚してない!」
「露伴、もう夜も遅いからその辺に…「花京院さんもだ!甘やかしてばっかりじゃなくて、ちゃんと教育しないとダメだろう!なまえさんに限って無理やり襲われるなんて事はないだろうが、男が勘違いしてその気になったらどうする!不憫だろう!」
「それは、そうかもしれないな…。」
典明の言葉を遮ってまで熱弁する露伴の言葉に、私ってそんなに酷い?と気がついてショックを受けた。もしかして承太郎も仗助も億泰も、私の言動や行動に引いていた可能性があるのだ。
「あの、ごめんね、露伴…。ちゃんと直すから、典明の事、怒らないで…。」
怒りの矛先を私に戻そうと露伴の腕を掴んで、彼の視線がこちらを見たところでその手を離した。どこまで触れて良いのか、分からなかったからだ。
「ハァ…。別に怒ってない。熱が入っただけだ。…寝よう。明日も出掛けるんだろう?」
「うん…。…露伴、明日も夕食は一緒に食べられる?」
「あぁ。そっちの用事が終わったら、合流しよう。」
乱れた掛け布団を直して、電気も薄暗くして、明日の予定も確認して、あとは眠るだけだ。
「…全く…、怒ってないって言ってるだろう?ん。」
「!」
露伴の様子を伺っていたら、徐ろに両腕を広げるので少し戸惑った。これは、行っていいのだろうかと露伴を見ると優しく微笑んでいたので意を決して露伴の体を抱きしめた。
「あー…、やっぱり、かわいいなァ。…おやすみ、なまえさん。」
「うん…、おやすみ。」
体を離して、最後に軽くキスをして、電気が消された。布団に包まって考え事をしていたら「なまえ」と典明に呼ばれて顔を上げると優しい微笑みとともにキスが降りてきて「おやすみ」と一日の終わりの挨拶を交わし、今度こそ目を閉じた。