第4部 杜王町を離れるまで 前編
name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「徐倫、また明日ね。」
「本当に、明日も来るのよね…?」
昼食とおやつまで戴いて午後3時を過ぎた頃。今日のところはお暇しようと別れの挨拶をすると徐倫が悲しげな顔で涙を堪えていて、思わず帰るのをやめるところだった。こんなに好かれている理由は分からないが、かわいくて仕方がない。
「明日も来るよ。疑うのなら…、はい、これ預かってて。」
「!なまえちゃん、それは…!」
徐倫の手が傷つかないようにとそっと置いたのは、典明のチェリーピアス。学ランと同じくらい、私の一番の宝物だ。そんな物を徐倫へと渡すので、この場にいる誰もが目を見開いて、私を見ている。
「大丈夫。明日必ず来るから。その時に返してね。…私の、命と同じくらい、大事なものだから。」
「…うん。分かった。」
私と典明を見比べて、徐倫はその小さい手で、壊さないようにそっと両手で包み込んだ。替えのピアスはホテルに戻ればいくつもある。帰ったらすぐに、付け替えれば大丈夫だ。
「じゃあ、また明日。」
今度こそ手を振って、徐倫達と別れた。ホテルに帰る前に、いや、帰りながら、やる事がある。歩きながら携帯を取り出し、電話をかける。何度目かの発信音のあとに聞こえてきたのは、いつもよりもいくらか低い露伴の声だ。
「…なまえさんか…。昨日の、夕食の記憶がないんだが…。」
「待って露伴…今、外にいるの?」
メモにしっかりと"寝ろ"と書いてきたはずだが。電話の向こうで「取材しないと、時間がもったいないだろう…。」と明らかに二日酔いが治りきっていない声で唸る露伴に、こちらの頭が痛くなる。
「露伴、しばらくお酒禁止だからね。」
「あぁ…素直に受け入れるよ…。」
「はぁ…今どこにいるの?ホテルじゃなくそっち行くから、カフェかどこかで待ち合わせよう。」
待ち合わせ場所はメールで送るようにと言いつけてから、電話を切った。本当に、露伴はお酒が弱いのに自分の限界を知らなすぎる。だから寝てろと言ったのに。これでは手のかかる、大きな子供ではないか。
「もしもし…、まだ寝てないよね?」
日本にいるなら今は夜の0時過ぎ頃だろうか?承太郎の事だからまだ起きていると思って電話をかけたのだが、向こうから聞こえてきたのは意外にも気だるげな低い声だった。
「そろそろ寝るかと思っていたところだ…。今日はどうした。」
電話の奥からギィ、と椅子が軋むような音が聞こえてきたので、どうやらデスクワークをしていたらしい。いや、論文を書いていたのかもしれない。が、今はそんな事どうでもいい。彼の娘、徐倫の事は、なるべく早く伝えておかなければ。
「徐倫の事だけど、ちょっと気になる事が。」
「なんだと?」
「いや、徐倫の事はそんなに大した事じゃないんだけど。徐倫、典明の姿が見えるようになってたのよ。」
「花京院の?」
承太郎はそれだけ呟いて、考え込むように口を閉ざした。その間、私も考えていた。徐倫の件に関して話したいのだが、それを話すには大前提の初流乃の話やホル・ホースから聞いた話をしなければならない。それを私は、上手く説明できるだろうか?
「で?…テメーはさっき、徐倫の話は大した事じゃあねぇと言ったな。他にも話す事があるんじゃあねぇか?」
「…ある…。ええと…DIOに関連のある事なんだけど。」
「DIO、だと…!?」
ギシ、と椅子の軋む音。今きっと承太郎は、大きな両手で顔を覆って、天を仰いでいるに違いない。
「まだ不確定な情報もあるんだけど…実は、DIOには子供がいるらしいの。それも複数。それに関しては、ホル・ホースに直接聞いた方が早いと思う。」
「DIOにガキが…?…ハァ…ホル・ホースに会ったのか?」
「昨日、空港でバッタリね。」
そして聞きたくない話を聞いてしまったわけだ。最悪だ。本当に、最悪な話。
「それで…、私が預かってる子、いるじゃない?その子、そのDIOの子供の1人なのよ。」
「……は?テメー…!ッ、そこまでバカだとは思わなかったぜ…!」
そう言うと思った。バカだと言った事は否定したかったが、話が逸れるのは宜しくない。承太郎が落ち着くのを見計らって、私は続きを話すために口を開いた。
「今、杜王町で暮らしてるの。みんなには口止めしてもらってね。…SPW財団にも。」
「あぁそうだろうな。財団にはきちんと報告してる、そこだけは評価できるな。…で?ここまで必死に隠してきた事実を、なんで今、俺に話した。なにか話さなきゃならねぇ状況に陥ってるんじゃあねぇか?」
さすが承太郎だ。典明ほどではないが、私の事を理解している。本当はこういうところではなく、気持ちを理解してくれるととてもありがたいのだが。それでも今この時だけは、承太郎の頭の回転の速さには助かった。話が早い。
「私が預かっているのは汐華初流乃、13歳。DIOがあの日外に出た隙に、ホル・ホースが逃がした女性の子供。SPW財団で、DIOとの血縁関係は証明されていて、首に星型の痣がある。その子を去年の夏から預かっていて、問題が起きたのはつい2週間前。それまで黒かった髪が一瞬で金色になって…、…典明の姿が見えるようになった。」
「……なるほどな…。」
最後まで話しきり、もう話すことはない。とうとうどちらも口を閉じ、沈黙が流れた。
「ごめん、5分後にまた電話する。」
「あぁ…そうしてくれ。」
一度電話を切り、メールを確認すると露伴からのメールが1件。ホテルを目指して移動してきたのだが、思ったよりも随分離れているようだ。タクシーを捕まえて移動しようと大通りでタクシーを捕まえて行き先を告げると、やっと一息つけた気がしてシートに深く沈みこんだ。
「なまえ、ちゃんと自分で説明できて偉いね。」と典明が優しく頭を撫でてくれるので、このまま目を閉じて眠ってしまいそうになった。
「状況は分かった。テメーの事だから、DIOの子供が複数いるのが分かったのは、昨日今日の事だろう。違うか?」
「その通りです。その件に関してはホル・ホースの連絡先をSPW財団に教えておくから、後日改めて調査依頼が来ると思う。」
それが私か承太郎かは、分からないが。だから、忙しいって言ってるのに!そもそもこの事実を掴んだのは私なので、断る事も憚られるが。
「帰国は土曜日だったか?S市から車を出す。そこで合流しよう。一度、例のDIOのガキに会う必要がある。」
「…言っとくけど、DIOとは金髪以外の共通点はないからね?奴と違ってとってもいい子だし、むしろ典明の方が似てる。」
「誰に似てるかは重要じゃあねぇ。重要なのはDIOの血を引いてるって事だ。」
「……杜王町に行く時間があるなら、徐倫にも会いに行きなさいよ。」
私は承太郎と初流乃を会わせたくない。初流乃は気にしていないかもしれないが、承太郎は初流乃の父親を殺した張本人なのだ。もしも初流乃が承太郎に対して敵意を抱いてしまったら、私はどちらの味方をしたらいいのか分からない。そしてそれによってスタンド能力が開花し、DIOのように悪い道に進んでしまわないかと……。いや、それはないか。とにかく、なんとなく、2人はあまり会わせたくないのだ。最後のセリフは、ささやかな抵抗のつもりだ。返事が返ってこないのを確認してそのまま電話を切ると「え?終わったのか?」と目を丸くしていて、とりあえず笑顔を返しておいた。