第4部 杜王町を離れるまで 前編
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朝、露伴は起きる気配がなかったので声を掛けずに部屋を出てきた。元々、今日は別行動の予定なので問題ないだろう。起こさなかった代わりに"薬を飲んで寝ろ"というメモとともに朝薬局で買った二日酔いの薬を置いてきたのでその通りにしていることを願うばかりである。
「初流乃、東方家で楽しんでるみたい。良かったぁ。」
朝、仗助から届いたメールにそのような事が書いてあり、心の底からホッとした。初流乃は典明に似て気遣いの塊なので無理をしていないか心配していたのだが、朋子さんの明るさに引っ張られて楽しくしているみたいだ。本当、良かった。
ピンポーン
随分久しぶりに来た、徐倫の住む家。承太郎がお金を送り続けているだけあって、家も庭も手入れが行き届いているようだ。久しぶりすぎて、今さらながら緊張してきた。
「なまえ!」
「徐倫!久しぶり!」
インターホンにはスピーカーがついているが、それの応答の前に玄関のドアが開け放たれ中から出てきたのは徐倫本人。勢いそのままに飛びついてきて、大きくなったな、と実感する。ヒョイ、と抱き上げるとひどく喜んで、私の首に腕を回して頬にキスまでくれて大歓迎である。
「なまえさん。来てくれてありがとう。助かるわ。」
「お久しぶりです。これ、良かったらどうぞ。」
あとから出てきたのは、言わずもがな徐倫の母だ。手土産を渡し、案内されるまま中へと通される。やっぱり、前に来た時と変わりなく綺麗だ。
「承太郎は元気にしてるの?」
「…元気…なのかな?元気なのか元気じゃないのか、私には見分けがつかなくて。」
承太郎の姿を思い浮かべてみたが、いつも変わらない真顔しか出てこなくてよく分からない。私の言葉を聞いた彼女も声を上げて笑い「確かにね、言えてる。」と同意した。本当、彼女は何がよくて承太郎と結婚したのだろうか。
「無理を言ってごめんなさいね。何があったってわけじゃあないんだけど…徐倫が、あなたに会いたいって聞かなくて。」
「いいんですよ。たまたま最近忙しかっただけで、暇な時ならいつでも呼んでください。私も、徐倫に会いたかったし!」
今回は本当に、タイミングが悪かった。個展や結婚式の準備がなければ、もっと早く来られたというのに。
「本当!?ねぇママ、外でなまえと遊んできてもいい?」
「えぇ、いいわよ。」
「やった!なまえ、行きましょ!」
「あなた…随分明るくなったわね。」
私の手を引く徐倫から、徐倫のママへと視線を移す。そこで、彼女と関わっていた頃はずっと、心を病んでいたんだったな…と思い出した。
「こっちが元の私なんです。今まで迷惑かけてて、すみませんでした。」
いつ死んでもおかしくない精神状態で心配だっただろうし、何より彼女と徐倫が承太郎と距離を取らされている間、承太郎とずっと一緒にいたのは私だ。そこに後ろめたさがないわけがない。
「…あなたが元気になったのなら、いいわ。」
彼女は、なんていい人なのだろう。承太郎と付き合い始めた当時から、彼にベッタリだった私を邪険にはせず、むしろ優しくしてくれた彼女。本当に、心が広くて素晴らしい人ではないか。
「本当に、承太郎にはもったいない!ねぇ、私と結婚しない?」
「なまえ?」
「アハハッ!それもいいわね。徐倫も喜ぶわ。」
「ねぇなまえ〜!はやく〜!」
徐倫に急かされた事で話はそこで終わってしまったが、私は結構本当に、彼女の事が好きだ。結婚、はここにいる典明とするのでできないが、彼女も徐倫も幸せにしてあげたい、幸せになってほしいと思うのは本当だ。
「ねぇなまえ。隣にいるのは、もしかしてカキョウイン?」
「えっ!?」
徐倫の爆弾発言に、思わず典明と目を見合せて、家の方を見た。彼女の姿は、見えない。
「徐倫……、み、見えるの?」
「うん。ママは見えてないみたいだったから。」
だから、外に私達を連れ出したと。これは、どういう事なのか。まさか徐倫も、スタンド使いに…?いや、まだそうと決まったわけではない。しかし、最近初流乃もピアスなしで典明の姿が見えるようになったのを確認しているのだ。これは…あまり良くない状況なのではないだろうか。
「徐倫、僕の声は聞こえるかい?」
「聞こえるわ。本当に、カキョウインなのね!」
ぱぁっと花が咲いたように笑顔を浮かべる徐倫を見て、今はとりあえず深刻な顔を見せないようにしようと気持ちを切り替えた。見える見えないは関係なしに、徐倫は私に会いたいと言ってくれたのだから。
「そう。彼は花京院典明(ノリアキ)。かっこいいでしょう?」
「ノリアキ?テンメイじゃあないの?」
「テンメイって呼んでいいのは、私だけなの。」
「えぇ〜!ずるい!私も呼びたい!」
子供らしく駄々をこねる徐倫の姿は、私の目には珍しく映った。典親が小さい時には、このようにわがままを言った事がないからだ。どう対応すればいいのか、少し困る。
「ノリアキって呼んでくれる人は少ないから、呼んでくれると嬉しいんだけどな。承太郎ですら、未だに呼んでくれないんだ。」
「パパも?私がノリアキって呼ぶと、カキョウインは嬉しいの?」
「うん。とても嬉しいよ。」
徐倫の前にしゃがんで、優しく諭す典明の姿に、不覚にも胸がきゅんと高鳴った。子供と話す典明は、とても優しい顔、優しい声をしていてとても綺麗だ。
「分かった!ノリアキ、私が大きくなったら、結婚して!」
「えっ!!?だっだめだよ!典明は私だけの典明なんだから!」
子供相手だというのに思わずムキになって、典明を抱きしめた。典明を取られるのは、絶対に嫌だ!
「ふふ、かわいいなぁ2人とも。徐倫、気持ちは嬉しいけど、僕の心はなまえのものなんだ。魂もね。」
「典明…!好きっ…!」
「心?魂…?」
心や魂なんて言われても、ピンときていないような徐倫。子供には、少しばかり抽象的すぎるかもしれない。
「よく分からないけど、仕方がないわね。私にも、ノリアキみたいな人が現れるといいんだけど…。」
「待ち続けたら、きっと現れるよ。妥協は絶対にダメね。」
これは、私が胸を張って徐倫に教えられる、唯一の事だ。理想の人があるのなら、それにピッタリの人が現れるまで待たなければ。
「ふぅん…そうなのね、分かったわ。」
徐倫は素直だ。なぜかいつも、私の言う事は素直に聞いてくれる。わがままを言われると困らされる事もあるが、基本的には素直ないい子だ。そして伝え方がストレート。承太郎には似ても似つかない。
「ねぇなまえ、いつものアレやって!壁歩き!」
「徐倫はほんとに、危険な遊びが好きなのね。」
本当に、典親とは真逆だ。だけどどちらもかわいいし、将来が楽しみだ。
徐倫を抱き上げて、垂直の壁を歩く。ただそれだけで徐倫は喜んでくれる。こんな経験できるのはかなり希少なので仕方がないのだが、他に楽しい遊びがあるのでは?と思ってしまう。
「なまえはニンジャみたいね。ノリアキは…王子様!」
「分かる〜!典明は本当、王子様よね。」
「ねぇ、本当の王子様なの?」
「…可能性はあるよね。実は私もずっと疑ってるんだ。」
「なまえ、徐倫が本気にするだろう。……え?まさか君、本気で言ってるのか…?」
ハイエロファントで壁を登ってきた典明は私達の会話を聞いて口を挟んできたが、私の顔を見てみるみる戸惑った顔へと変わっていった。私は未だに、典明がどこかの国の王子様だと信じて疑わない。典明とそっくりな家族を見ても、その家族すら気品があるから家族みんなが実は王族なんじゃないかとずっと思っている。
「典明…いい加減本当の事を「違うって言ってるだろう?」
本当に、ただの一般人がこんなに優雅に立ち振る舞いできるものだろうか?怪しい…が、典明は一生認めはしないだろう。