第4部 杜王町を離れるまで 前編
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「…なまえさん、着替えたのか。ふーん。」
「えと、あまり触れないでもらっていい?」
変な誤魔化しは意味を成さないだろうと、言い訳をするのも諦めた。ホテルで、数時間、典明と2人きり。そんなの、イチャイチャするに決まってる!
「別に構わんが。ホテルのレストランも良さそうだが、せっかくだから近くの飲食店に行こう。良さそうな店を見つけたんだ。」
露伴と待ち合わせたホテルのロビーを出ると、外は明るかった。空はもう真っ暗だが、明かりがたくさんで眩しい。
「待って露伴。この辺の道あんまり知らないから、はぐれたら大変だよ。」
「…君、やっぱり大胆だな。」
先を歩く露伴の腕に自分の腕を絡ませると露伴は微妙な反応をしたが、最近分かってきた。これは、ただの照れ隠しだと。
「それ、よく似合ってるじゃあないか。」
「あぁ、この服?せっかくだから持ってきたんだけど、似合ってるなら良かった。典明も…、その、似合ってるって言ってくれて。」
嘘だ。似合ってるという意味合いではあったが、「なんだかえっちだね。とても似合ってるけど、外に出すのは少し心配だな。」と言っていた。さっきのさっきだったため、変に意識してしまう。
「なぁ、下着は僕が選んだやつ、着けてるのか?」
「待て露伴。あれはお前が選んだやつか。なまえの好みでも、僕の好みでもないからおかしいと思った。」
「ねぇ外でそういう話やめない?」
典明はともかく、露伴はなぜこうも堂々と世間話のトーンで私の下着の話ができるのか。いや、そもそも露伴だって、普通の人よりかはデリカシーがないのだった。露伴はたまに猫を被るので、忘れていたが。
「あぁここだ。なまえさん、好きそうだろう?」
「ステーキ!」
アメリカといえば肉!日本にいる時は和食が食べたくなるが、アメリカにいると無性にお肉が食べたくなる。露伴の奴、意外と私の事分かってるかも!
「美味しかった…!」
好きなだけ食べて、大満足だ。肉はもちろん、ソースが美味しい。本当に文字通り、いくらでも食べられた。ついついお米が進んでしまい、お店のご飯を空にしてしまって、若干申し訳ない気持ちではあったが「また来てね〜」と優しい言葉をかけてもらったので、気持ち的にも大満足だった。
「君の消化器官は本当どうなってるんだ?ちょっと触らせてくれ。…ない!どこに行ったんだ!!」
「シレッとお腹触ったよね、今。」
一歩間違えたらセクハラだが、私以外の女の子にもやってやしないか若干心配である。やってないと思いたいが。
「露伴、明日からは別行動だけど、大丈夫?1人で行ける?」
「なんだ、僕がいなくて寂しいのか?」
「…露伴、こっそりお酒飲んだでしょう。」
別に飲んでもいいが、こうなった露伴は少しめんどくさいのだ。コーラだと言って飲んでいたアレは、コーラ入りのお酒だったに違いない。
「ちなみに僕は寂しいぞ。日本に置いていこうとしてただろ。だからこうやって無理やりついてきたんだぞ。」
「…初流乃が可哀想じゃない。1人残されて。」
「いやぁ?初流乃は仗助の家に行くの、楽しみにしてたぜ?友達の家に泊まりに行くのは初めてだって。」
「そうなの?」
まただ。初流乃は私じゃなく、露伴に本音を零すことが多々ある。いつの間にか仲良くなって、友達のような関係性を築いてくれているみたいだ。本当、意外に面倒見がいい。
「よしよし。」
いつも猫みたいな露伴が犬みたいで思わず頭を撫でるとヘアバンドがずり落ちて、まるで首輪のように肩の上に留まった。これでは、本当に犬みたいだ。
「なまえさん…もっと撫でてくれ。花京院さんも。」
「はは。よし、ハイエロファントで撫でてやろう。」
お酒を飲むと甘える露伴はかわいい。立ち止まって2人でよしよしと頭を撫でてやると嬉しそうに目を細めるので思わずきゅんとした。
「なまえさん、おんぶ。」
「えっ?私がするの?」
この大通りで私が露伴をおんぶしてホテルに帰るとは…目立つことこの上なしだ。うーん、と躊躇すると露伴はその場にしゃがみこむので、仕方なしに露伴に背を向けた。このままここに居座るのも嫌だからだ。
首に腕が回されたのを確認して立ち上がると、仗助や億泰とそんなに変わらなさそうで安心した。尤も、承太郎も持ち上げられるので重さはさほど心配はしていなかったが。
「なまえさん、本当に力持ちだな。安定感がすごい。」
「ふ…なまえは10年前に、承太郎を空中キャッチした女だからな。」
「なんで典明が得意げなの…?かわいい…。」
空中キャッチは失敗して、足の骨を折ったのだが。
「なまえさん…いい匂いがする。シャワー浴びたのか?」
「っわ!露伴!擽ったい!」
首元に鼻を押し付けて匂いを嗅ぐ露伴の動きが擽ったくて、危なく露伴を落としてしまうところだった。それでも露伴はやめなくて、本当に憎たらしい!
「こら露伴。このままだと落とされるぞ。」
「…落ちるのは嫌だ。」
典明が叱って落ち着いた頃、ようやくホテルが見えてきた。ロビーを歩く間、予想通り注目を浴びてしまったが何とか部屋へと辿り着き、ドサ、と露伴をベッドへと転がしたところでどっと疲れがやってきた。なぜ、こんな事に。
「んー…なまえさん…靴、脱がせてくれ…。」
「はいはい。露伴ちゃんは手がかかるなぁ。」
「…なまえさん、今の、もう一回言って。」
ムク、と上半身だけ起こしてそう言う露伴はまっすぐ私を見つめている。今の、とはもしかして。
「露伴ちゃん?」
「はは。露伴ちゃん嬉しい。」
待て。いくらなんでもおかしくないだろうか?自分で自分のことを露伴ちゃんと言ってヘラヘラ笑っているなんて、一体お酒を何杯飲んだら…。いや、もしかしたら度数が高かったのかもしれない。
「露伴、お水飲んで。」
「水…?なまえさんが飲ませて…。」
「これは…なかなかだな。」
思わずため息が盛大に漏れた。なぜアメリカに来てまで、酔っ払った露伴の介抱をしなければならないのか。
「ほら、口開けて。…あ。」
開いた口に水を入れていたら突然露伴が口を閉じるので、彼の服は水浸しになってしまって、慌てて洗面所のタオルを持ってきて拭いた。「つめたい…」と不満げだが、露伴が口を閉じたからこうなったのである。
「着替える…。」
「えっ、待って露伴!」
バサ、と水に濡れた服を脱ぎ捨てた露伴は、そのままゴロンとベッドに横になってしまった。まだ、水を飲めていないのに!
「露伴!お水飲んでってば!」
「…無理だ、もう起き上がれない…。口移しで飲ませてくれたっていいんだぜ…?」
「!口移し、で…って。」
その言葉を聞いて、思わず典明を見るとニコッと微笑まれたが、その笑顔はどういう意味だろうか。まさか、私にやれという意味では…。
「水、くれないのか…?」
「……もう!露伴はしばらく、お酒禁止!」
なおも典明はニコニコと綺麗な笑顔で無言の圧力をかけてくる。そういえば、典明は私と露伴がキスするのを見るのが好きだと言っていたのだった。典明も私の事を言える趣味じゃない!変態だ!
「分かった、あげるから。」
グイ、と一口分の水を口に含んで露伴に近づくと、やっぱりお酒の匂いがする。へにゃ、と力なく笑う露伴は初めて見るかわいい笑顔で、このお酒の匂いを発している張本人とはとても思えなかった。口移しなんて初めてなので、唇を重ねても端からいくらか零れてしまって結局シーツが濡れてしまった。
「なまえさん…もっと。」
今度はもっと隙間をなくそうと深く口付けると、水を飲み干した露伴がペロ、と唇を舐めるので私まで酔ってしまいそうだ。
「足りない。もっと…。」
「ッ…!」
これは水をあげているだけ。ただの酔っ払いの介抱だと自分に言い聞かせ、もう一度水を露伴に飲ませると今度は私の頭を抑えて離さない。おまけに私の口の中を彼の舌が動き回るので、もう水を飲ませるどころではない。
「ッ…ん、んん…っ!ろは、…!」
露伴の口はお酒の味がして、ちょっぴり苦い。そのお酒のせいで、頭がピリピリと痺れている。きっとこれは、お酒のせい。
「…っは…、はぁ…。…露伴?」
「…寝た、ね?」
なんて奴だ。ここまでしておいて、当の本人はいま、目の前で気持ちよさそうに眠っているではないか。だけど、眠ってくれてそれはそれで助かった。あのまま起きていたって、どうせろくな事になっていなかっただろう。
「あれ、お水…。」
残りのお水が入ったペットボトルを持っていたはずだが、と視線をさ迷わせるとハイエロファントの触手が持っていて、「君がキスに集中できるかと思って。」とあっけらかんと言ってのけた。なぜ、そうまでして見たがるのか。
「典明の方が、変態だ…。」
「ふ…君には敵わないよ。」