第4部 杜王町を離れるまで 前編
name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
やっと着いた。あれから飛行機に乗って数時間。やっと目的の地に辿り着いた。さすがに体が痛む。腕を空に向けて体を伸ばすとバキバキ、とあちこちが音を立てて、2人に驚かれた。時刻はまだ夕方を指しているが、今日は疲れたのでホテルに直行する事にした。徐倫に会いに行くのは、明日だ。
「え?なんで?あの、シングル2部屋の間違いでは?」
ホテルに着いてチェックインする時に、問題が起きた。ホテルの手配は承太郎に任せたのだが、なんとあの男、シングル2部屋ではなくツイン1部屋を取ったらしい。他に空きはないと言われたため仕方なくチェックインしたが、承太郎は何を考えているのか問い詰める必要がある。
「もしもし承太郎!?」
「なまえか…。今、何時だと思ってやがる…。」
完全寝起きの承太郎の声に、大声を張り上げそうになった。呑気に寝ているのに腹が立った。
「何時かは関係ない。承太郎、ツイン1部屋ってどういう事なの?間違ってない?シングル2部屋の空きもないんだけど。」
「なんだ…。別々の方が良かったか?露伴とは恋人同士だって聞いたんで、てっきり。……まさか、まだヤッてねぇのか?」
「ヤッ…!してないよ!だから困ってるの!」
本当に、ホル・ホースといい承太郎といい、デリカシーというものがないのか!そういえば、ポルナレフもそうだった。デリカシーのない男が多すぎる!!本当に、最低!!
「承太郎は本当に、典明を見習って!!」
「僕?なんの話?」
「典明は気遣いと思いやりの塊だから承太郎も見習ってって話。」
傍に寄ってきた典明を、思わず身を預けて脱力する。承太郎に怒ったところで、今このホテルに空きはないのだ。受け入れるしかないのは分かっているが…それでも、怒らずにはいられない。
「承太郎…私、承太郎の頼みでここに来てるんだからね。そこのところ、忘れないでよね。」
「……そうだな…。悪い。」
承太郎の謝罪の言葉を貰ったところで、とうとうため息が漏れ、そのまま電話を切った。そもそも承太郎の言う通り、恋人同士なのだからなんの問題もないのだ。ただ、少しばかり緊張してしまうだけで。空条家に帰省した時だって、一緒の部屋で寝ていたじゃないか。子供達も一緒に、だったが。
「あれ?露伴、出掛けるの?」
「あぁ。ホテルでじっとしてるのは好きじゃないんだ。夕食は一緒に食べよう。」
電話を終えて部屋に戻ると、露伴は身支度を終えて外に出る格好をしている。今ホテルに着いたばかりだというのに、本当に、行動力がありすぎる。それに、せっかく3人で同じ部屋なのに、少しだけ寂しい。
「そう…。ねぇ、何時に帰ってくるの?帰ってくる時電話してよ。」
「はぁ…。今のそれは計算じゃあないんだろう?天然のあざとさか。どうなんだ、花京院さん。」
「今のはなまえの素だな。僕以外にやるなんて、悔しいな。」
今のがあざといの?なんで私の事なのに典明に聞くの?典明が嫌だと言うのなら直すから教えて?次々と聞きたい事が出てきたのだが、口を挟む隙がなくて結局2人で会話を終わらせてしまった。本当、仲良くなったな、この2人。
「ちょっと近くを散歩するだけだ。6時になっても連絡がなければ、君の方から電話してくれ。じゃあな。」
最後にポン、と軽く私の頭を撫で、露伴は出ていってしまった。広いツインルームに、私と典明の2人だけだ。
「露伴が行っちゃって、寂しい?」
「…少し。でも、典明がいるから平気。典明〜〜!」
後ろから覗き込む仕草がかっこよすぎて、露伴が行ってしまった寂しさは一瞬で吹き飛びそのまま彼の胸に身を委ねた。私って、かなり現金なやつかもしれない。
「ホル・ホース。言い忘れたことがあって…。」
露伴を見送って数分後、典明とイチャイチャしようと思ったのだが先程ホル・ホースと会った際に話しそびれていた事を思い出し、面倒ではあったが電話をかけたのだった。別に話さなくてもいいかとも思ったが、ホル・ホースはタイミングがいい男だというのを分かっているため、念の為だ。
「おう、数時間ぶりだな。どうしたよ。」と機嫌よく尋ねるホル・ホースに「私いま、DIOの子供を預かってるんだけど。」と軽く返すと「はぁ!!?DIOの!!?」と驚愕したような大声が返ってきて思わず耳から電話を離した。私も、ホル・ホースに釣られてテンションを間違えたと思っている。
「汐華初流乃っていうんだけど、もしかしたらホル・ホースも知ってるかなと思って。」
「…あぁ…、知ってるぜ。といっても、知ってるのは母親の顔と名前だけだ。DIOが館を出た隙に、俺が逃がした女の1人だ。」
「1人?待って、今、1人って言った?」
その言い方だとまるで、複数人いるみたいじゃないか。まさか、DIOの子供は、1人ではないのではないか?やっぱり、ホル・ホースが1枚噛んでいた。それは予想通りだったが。
「ああ、他にも2、3人いたな。一体何がどうなって、そんな事になってるんだよ…。」
「それはこっちが聞きたい。」
逃がしたのは偉いが、それではDIOの血を引く者を世に放ってしまったという事ではないだろうか?これは、面倒な事になった。面倒どころではない。これを知ってしまっては、もう承太郎に隠し続ける事はできないだろう。
「はぁ……。うん、今はいいや、また連絡する。」
軽く目眩を覚え、そのまま電話を切った。できればこのまま、知らないままでいたかった。その方が、幸せに、穏やかに過ごせたはずだ。だけどこの問題は、一SPW財団員として、放っては置けない問題だった。
「なまえ…?もしかして何か、とんでもない問題が起こってる?」
「典明…。頭が痛くなる事が発覚しちゃった…。」
今のやりとりを説明すると典明の眉間には段々と皺が寄り、終いには眉間に指を当てて考え込んでしまい、事態の最悪さを再認識した。と同時に、典明の珍しい表情が見られて思わずじっと見つめていると急に典明の目が開いてその綺麗な藤色が私を見て「君は…こんな時でも僕に見とれて…。しょうがない奴だな。」と呆れたようにはにかむので、脳内は典明を優先した。つまり、この問題は日本に帰ってからでいいや!という事である。
「徐倫の機嫌が直ってから考える!」
DIOの子供の件を優先していては、もはや徐倫どころではなくなる。徐倫のところに行くのは明日。露伴は1人で出掛けた。つまり、今は典明を最優先にしてもいい!無理やりそうこじつけて、問題を後回しにした。私の周りには、どうしてこうも問題ばかりやってくるのだろうか。承太郎に全て押し付けたい。