第4部 杜王町を離れるまで 前編
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「波瑠乃…、うぅ…いってきます。」
「なまえさん…。心配しないでください。仗助さんもいますから。いってらっしゃい。」
火曜日の朝、波瑠乃を学校に送り出したら土曜日まで会えないと思うととても寂しくて、私の方が子供のように波瑠乃を引き留めていたら「波瑠乃、なまえの事は僕らに任せて。いってらっしゃい。」と典明に無理やり引き剥がされた。最後にいってらっしゃいのキスだけは!とお願いして、波瑠乃を解放するとすぐに家を出ていってしまって、なんだか悲しかった。
「予定が早く終わったら、前倒しで帰ってこよ…。」
「それは、僕が困るんだが。」
「露伴は別に1人でも大丈夫でしょう?」
いくら取材とはいえ、勝手についてくるのだからそこまで考慮してやる義理はない。海外旅行に慣れている大人の露伴と1人残された子供の波瑠乃では、波瑠乃を優先させるのは当たり前のことだろう。
「2人とも、そろそろ出ないと。」
「はぁ〜〜い。」
典明の言葉を合図に、私達は家を後にした。駅から電車でS市内へ移動中に仗助に「波瑠乃をよろしくね。いってきます。」とメールすると「気をつけていってらっしゃいっス!お土産楽しみにしてマス!」と数分開けずに返ってきた。今は授業中のはずなのだが。
「はぁ…久しぶりに帰ってきた…。」
飛行機できちんと睡眠をとり、無事にアメリカの地までやってきた。ここからもう一度飛行機に乗らなくてはならないが、あと1時間は待たなくてはならないため、空港内で食事をとりながら休憩をする事にしたところだった。
「…待って。…典明……私の見間違いかなぁ?」
「?どうした、なまえさん。」
「あぁ…あれは、まさかこんなところで…。」
見覚えのある後ろ姿。他人の空似なんかではないその出で立ち。前に会ったのは10年も前だが、その特徴的なファッションは変わりはしたが大元はなんにも変わってなどいない。
「ホル・ホース!」
「!…アンタは…みょうじなまえ!花京院!」
まさかこんなところで再会するなんて思いもしなかった。最後に会ったのもアメリカだったが、あの時は旅行で来たと言っていた。まさか今回もたまたま遊びに来たとでも言うのだろうか?だとしたらものすごい偶然だが。
「露伴、読んで。」
「?いいのか?知り合いなんじゃあないのか?」
一応元敵同士。今何をしているのか知りたいと露伴にお願いすると、若干気遣いながらもヘブンズ・ドアを発動し、ホル・ホースはその体から力を失って倒れかかってきた。その体を受け止めて近くの椅子に座らせホル・ホースを読むも、どうやら悪巧みはしていないみたいで安心してページを閉じた。
「…あぁ?今、俺に何かしたか…?」
「別に。ホル・ホースはこんなところで何してるの?」
今さっき読んだばかりだが、話題を逸らすために言葉を続けた。案の定ホル・ホースはただの旅行だと気を逸らしてくれてありがたかった。
「しかし…アンタも花京院も、10年前と全然変わってねーのな。びっくりしたぜ。」
「はぁ?私はともかく、典明は大人の魅力が出てきてるでしょう?かっこよすぎて、毎日大変なんだから。」
「大人の魅力ゥ…?魂って、歳とるのか?」
典明の変化に気づかないなんて、コイツ正気か?歳を重ねる度に、内側からぶわーっと、色気みたいなものが湧き出ているというのに。
「露伴、コイツ…この人はホル・ホース。DIOの元部下で、今は…よく知らないけど、悪い事はしないと思ってる。」
「お、おい。DIOの話知ってんのか?迂闊に話すなよ。」
「大丈夫よ。んで、こっちは漫画家の岸辺露伴。矢に射抜かれてスタンド使いになったの。スタンド能力は〜、秘密!」
「どうも…。」
露伴はホル・ホースをじっと見つめ、どのような態度で接したら良いのかと距離感を測っているようだった。その姿は警戒心を顕にしている猫のようで、私の目に少しかわいく写った。
「アンタ…変わってねーって言ったが、やっぱり変わったな。」
「…そう、かもね。いや、前に戻っただけだよ。」
そうだ。私は変わったのではなく、本来の私に戻っただけ。典明が生きている頃に。
「ホル・ホース、時間ある?話したい事がたくさんあるんだけど。」
Tenmeiの個展を開く事、典明に触れられるようになった事、一度話さなくなったのが、また話すようになった事、典明と結婚する事、露伴との事。10年振りに会ったのに、話したい事といえばここ1年の事ばかりだが、それでもホル・ホースに聞いてほしい。
「私達、この後1時間もしたら飛行機に乗らなきゃいけないの。もし、時間があるなら…。」
「あぁ。俺は特に大した用もねぇ。それに、女の子の頼みは聞かなきゃだよなァ?」
いま、女の子、と言った。10年前にかわいくねーと言っていたホル・ホースが。だけど最初から、ホル・ホースは私に危害を加えようとはしていなかった。彼も、あの時からそんなに変わっていないのかもしれない。
「オイオイマジかよ…。この1年の間に花京院に触れるようになって?それで結婚式を挙げるって?それでコイツは愛人って、どういう流れでそうなってるんだよ。」
「あっ、愛人とか、言い方を考えてよ!」
食事中になんて事を言うのだ。相変わらずデリカシーというものはこの男にはないらしい。露伴の事を話したのは間違いだったか、とは思ったが、なんとなくホル・ホースには話しても大丈夫な気がしたのだ。
「まぁ、いいんじゃねぇの?アンタ、幸せそうだしよ。」
あぁほら、こういうところだ。
「…ホル・ホースが女性に好かれるの、なんか分かった気がする。」
「おい待てなまえさん。コイツも愛人にするって言うんじゃあないだろうな?」
「なまえ。コイツはダメだ。僕が許さないぞ。」
何気なく言った一言で両脇の2人がガタ、と音を立てて立ち上がるので、必死な2人をよそに嬉しくなってしまった。私はこの2人に、大事にされているんだなぁ、と思ったからだ。
「ふふ。ホル・ホースは意外と優しいけど、かわいげがないからダメね。典明と露伴がいれば幸せ。」
「なまえ…。良かった。僕と露伴が、幸せにするよ。」
ぎゅ、と抱きしめあって、典明の甘い言葉を聞いて、もう幸せ以外の何物でもない。
「なまえさん、もうあまり時間がないぞ。」
露伴の言葉を聞き時計を見ると、確かにもう搭乗時間まで余裕がない。まだ、話し足りないというのに。
「ホル・ホース。個展と、結婚式、貴方にも来てほしいんだけど…。」
「いやぁ…俺は…。」
「やっぱり、難しい…?」
「ウッ……!…分かった、行くよ。行けたらな。」
よし、押し切った!顔がかわいいって、こういう時に役に立つ!
「アンタ、あざとい技を覚えたな…。」
「典明がお願いごとの時にやるから、それを真似しただけだよ。あざといっていうなら、典明の方があざとい。」
私はただ、典明の真似をしただけだ。典明がこうすると私は全てYESと答えてしまうから、私にもできるかと思ってやっただけ。典明を見ると意味ありげに目を細めてこちらを見ていて、この顔が綺麗すぎて心臓がきゅ、と音を立てた。
「そろそろ行くね。あとでまた連絡する。」
以前貰った連絡先を書いたメモは無くしてしまったので、再度連絡先を交換した。今はメールもあるし、便利な世の中に変わったものだと思う。
「おう。またな。」
前回はいい別れ方ではなかったが、今回は笑顔で手を振って、またね、と言葉を交わして別れた。奴との思い出はいい物ではなかったが、これからいい思い出になるのではないかと思うと今日この日にアメリカへ来て良かったと思う。そして、生きていて良かったと、改めて思った。