第4部 杜王町を離れるまで 前編
name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ピンポーン
トレーニング中に仗助からはメールの返事があり、今日は朋子さんが在宅という事でケーキを買って東方家へとやってきた。ジム帰りなのでラフな格好で申し訳ないが、朋子さんは気にしないだろうと思ってそのままやってきた。
「あ、なまえさん。と、露伴。一緒だったんスか?」
「ふふ、うん。露伴は上がらないから、安心して。お邪魔します。」
玄関先で露伴とは別れて、家に上がらせてもらった。露伴も来れば良いものを、絶対に嫌だと言い張り家の前で立って待っているみたいだ。それはそれで目立っているのだが、仗助と同じ空間にいるのが嫌らしい。さっきも数秒睨み合っていて、本当に仲良くする気がないんだなと思った。
「朋子さん。お邪魔します。良かったらこれ、あとで食べてください。」
「なまえちゃん!いらっしゃい。わざわざありがとね。今お茶を淹れるから、座って待ってて。」
「お構いなく。」
通りがかりに朋子さんへケーキを渡し、案内されたリビングへ行くとテレビがついていて、先程まで仗助がゲームしていたであろう痕跡があった。
「あ。仗助、冬休みゲーム合宿できなかったね。春休みにでも開催しようか。」
前に一度集まった時に、次は冬休みに、と約束していたのを思い出した。冬休みに入ったくらいから忙しくなり始めてそのまま帰省してしまったので、集まれるタイミングがなかったのだ。
「そーっスよ。結構楽しみだったんスよ。いつやります?」
「ふふ。典明も初流乃も楽しみにしてたの。んー、個展が始まっちゃうと家を空ける事が多くなるだろうから、3月後半かな?」
またメールするよ、と約束したところで朋子さんが部屋へと入ってくるので椅子へと腰掛けた。今日はその話をしに来たのではない。
「早速で申し訳ないのですが、5日間ほどアメリカへ行かなくてはいけなくなりまして…。その間、私が親戚から預かっている子、汐華初流乃を預かって頂きたくて、そのお願いに来ました。」
「仗助から聞いたわ。いいわよ。こうしてきたって事は、日程が決まったのね、いつ?」
「来週の火曜日から土曜日なんですが、ご都合如何でしょう?急ですみません。」
「確認するわ。ちょっと待ってね。」
手帳を捲ってスケジュールを確認する朋子さんは、どこからどう見ても仕事ができる人で、それがすごくかっこよく見えた。私が同じ動作をしたって、ああは見えないだろう。
「大丈夫。問題ないわ。」
指でOKサインを作って笑顔を浮かべる朋子さんを見て、ホッと胸を撫で下ろした。とりあえず、第1段階はクリアだ。
「ありがとうございます。初流乃、どこに出しても恥ずかしくないいい子なんですが、鶏肉全般が苦手なんです。そこだけ配慮して貰えたら助かります。」
「鶏肉ね、分かったわ。他になにか、注意しておくべき事は?」
そう言われて何かあったかな、と考えたが、ない。本当にない。強いて言えば…。
「あ……。初流乃、前にお会いした時は黒髪だったと思うんですが、遺伝の影響で、今は金髪になったんです。本人は気にしてない素振りを見せていますが、なにか気づいた事があったらあとで教えてもらえますか?」
「へぇ…、そんな事もあるのね。分かったわ。」
「!」
そんな事もある、朋子さんはその一言で済ませた。理解力の速さに驚いたし、仗助は内面は朋子さんに似ているんだな、と感じた。人懐っこいところなんて、まさに朋子さん似だ。いや、ジョセフさんもそうだったかもしれない。なんにしても、私は東方家の2人が大好きだ。
「ありがとうございます!お邪魔しました!」
少しの雑談のあと、お暇させてもらう事にして席を立つと「ご飯食べていかない?」とお誘い頂いたのだが、あいにく外で露伴を待たせているし初流乃も帰宅しているだろうと思い丁寧にお断りをした。別れ際に個展のチケットとフライヤーを渡すととても喜ばれて、こちらが恐縮してしまうほどだった。
「なまえさん。あとでメール下さいね。」
見送りにきた仗助はニヤ、と笑みを浮かべていて露伴をからかう気満々なのが見て取れて、こういうところはジョセフさんにそっくりなんだよなぁ、と思った。
「うん。忘れてそうだったら、メールで教えて。」
「は?メール?そんなの送らなくていい。なまえさん、業務連絡だけ送っとけ!」
「あはは、仗助、またね〜!」
人様の家の前で騒ぐわけにはいかないと露伴の腕を引くと、小言を言いたいのは仗助ではなく私のようで大人しく着いてきたのでそのまま仗助に手を振りあって別れた。
「おい、仗助になんてメールするんだ。送る前に見せろ。」
「なんで露伴に見せないといけないのよ!ゲーム合宿の相談だよ!」
「それをやるのは僕の家だろう!君、自分の家だと思ってないか?」
「!」
そう言われてみればそうだ。いや、ちゃんと露伴の家だと頭では理解している。しているのだが、もう半年以上あの家で暮らしていて居心地が良くなってしまって、なんだか自分の家のように過ごしていて忘れかけていた。
「……その反応は、反則だろう…。」
「あの、居心地が良くて…。」
思わず目を逸らして小さい声で言い訳をすると、露伴はため息をついてポンポンと頭を撫でるだけだった。どうやらお説教はもう終わり?らしい。
「今のは狡いなぁ…。さすがに、今のは妬ける。」
「!典明!ヤキモチ?嬉しい。ねぇ今日はどうしたの?あんまり姿を見せないけど。」
姿を見せて妬いたとアピールする典明を抱きしめて想いを伝えると、彼から返ってきたのは「僕の姿が見えた時の君がかわいくて。ふふ、まるで飼い主にでもなったみたいだ。」と嬉しそうに私の頭を撫でた。
「わん!」
「なまえさん…君、プライドとかないのか?」
「ない!典明の言う事ならなんでも聞く〜〜!」
「はは、それは嬉しいな。ぜひとも、無茶だけはしないでほしいんだけど。」
「…えと、…努力はしてる……。」
そう、努力はしている。それも最大限に。だけど典明や周りの人に被害が及びそうになると、いつも勝手に体が動いてしまうのだ。
「…うん、そうだね。君はがんばってるね。よしよし。」
「〜〜〜っ!!露伴!典明のファンサービスがいつもよりすごい!!」
ぎゅう、と抱きしめて頭を撫でてもらって、数時間振りの典明が一気に供給されてもういっぱいいっぱいだ。
「花京院さん。それ以上はなまえさんが腰を抜かして歩けなくなるぞ。」
「うぅぅ…、もうむり…。好き…!」
「ふ…、かわいい…。数時間振りのなまえはかわいいなぁ…。癖になりそうだ…。」
「分かったから、家でやってくれ。家で。」