第4部 杜王町を離れるまで 前編
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「これが…僕の父ですか…。」
翌朝久しぶりに学校へ行く初流乃に、先生へ渡すようにと預けたDIOの写真。それを見て眉を顰める初流乃には少しばかり笑ってしまった。もしも憧れてしまったらどうしようかと思っていたが、無駄な心配だった。
それから2週間、何事もなく過ごせている初流乃を見て安心していたが、なにか忘れているような気がする。なにか、他にやる事があったはずだが…。と、思っていた矢先、岸辺邸の電話の鳴る音を聞いて、なにか思い出せそうで思い出せない…そんな歯痒い気持ちになったが電話を取った露伴の口から出た名前を聞いて、ついに思い出した。
「なまえさん。承太郎さんから電話だ。」
「ゲッ…!」
やばい…承太郎…いや、徐倫の事だ。日程を調整してあとで連絡すると約束をしていたのだ。あれからもう2週間。そりゃあ承太郎だって連絡もしてくるだろう。
「なまえ…。」
「ごめんてば。こっちも忙しいのよ…分かるでしょう?」
初流乃の事は言えないのでなにが、とは言わないが…忙しかったのは確かだ。
「そんなに心配なら、自分で行きなよ…。」
忘れていたのは確かに申し訳ないが、私も暇ではない。もうあと2ヶ月と少しで個展が始まるため打ち合わせの回数が増えてきていて、実際本当に忙しいのだ。
「……。」
「もう!分かってるよ!行くって!」
承太郎の無言の圧力に、仕方なくもう一度承諾をするが、今から行けそうな日を何日かピックアップし、さらに仗助、朋子さんの予定を聞き初流乃を預けるお願いをしに行かないといけない。今すぐ返事を聞きたそうに黙っているが無理なものは無理だ。
「明後日、また電話してきて。そしたら今度こそ、返事するから…。」
「…分かった。明後日だな。」
その返答に、ホッと胸を撫で下ろす。こうすれば、私も忘れないし考える時間ができる。少し雑談をして電話を切ると露伴が「僕はいつでもいいぞ。」となぜか得意げに話すので少しイラッとした。いつでもいいって、個展に関するミーティングに参加する気がないじゃないか!
「で、なんで急にジムに?」
「ストレス発散と、頭の整理のために。露伴も分かるでしょ?」
上記の理由で、たまに露伴が通っているというジムに連れてきてもらった。彼は私の言葉を聞き「確かにな。」と納得したようだ。いつも世界中を飛び回り忙しくはしているのだが、ここ最近の忙しさは種類が違う。忙しいのに体を動かせていなくてもどかしく思っていた。たまには体を動かさなくては、と思い露伴にここに連れてきてもらったのだが、なるほど確かに、露伴が選ぶだけあって設備がいい。
「君が常人用のマシンで満足するとはとても思えないんだが。」
「人を怪物かなにかのように言うのやめてくれる?」
確かに他の人とは体の造りが違うが、言い方というものがあるだろう。
「私の事は放っておいてくれていいから、露伴も自分のペースでどうぞ。」
「あぁ、分かった。」
露伴とは別れて最初に向かったのは、ランニングマシン。これは体を温めるのにいい。適当にボタンをセットしてスタートすると、やがて動き出しスピードが上がっていく。うん、いい感じだ。とりあえず一旦このまま、走っていよう。
「なまえさん…、なまえさん。」
露伴の私を呼ぶ声にハッとして、マシンのスイッチを押し、緩やかなスピードに身を任せ、やがて止まった。大してかいていない汗をタオルで拭きながら露伴を見ると「1時間もそのスピードで走ってるから、君、注目されているぞ。」と。1時間も?と時計を見ると本当に経っていて驚いた。やはり、ランニングは集中するのにとてもいい。
しかし注目されるのは望んでいないのでさっさとそのマシンから離れて、露伴と近くのベンチへと腰掛ける。
「来週の火曜日、5日間の日程で行こう。」
今日はもう木曜日。東方家には申し訳ないが、最短で行くならそこだ。朋子さんが今日在宅であれば帰りにスイーツかなんか買ってお願いをしに行こう。
最近買い換えた携帯電話で、仗助へとメールを1本送りベンチへと置く。仗助の事だから、返事はすぐに返ってくるだろう。
「君はどこにいても注目されるな。」
「…否定はしないけど、露伴もでしょう?」
有名漫画家が何を言うか。
「まぁ否定はしないが、君の容姿は目を引くからな。放っておいたらナンパでもされそうだ。」
「……否定はできないね。」
実は先ほども声をかけられた。その際に典明が黙ってハイエロファントを出すので「いま私はトレーニングしに来てるの。集中したいからどっか行って。」と一蹴して事なきを得たが、もしあのまま放置していたら、彼はエメラルドスプラッシュを飛ばしていただろうか?そういえば、典明がいない。というか、姿を見せない。「典明?」と呼ぶとすぐに姿を現したが、一体どうしたというのか。
「君が集中しているのを邪魔したくなくてね。それに、久しぶりに体を動かしている姿がかっこよくて、黙って見ていたくなってね。」
「本当?かっこいい?典明にそう言われると、やる気出ちゃう!」
俄然やる気が出た。典明が喜んでくれるのなら、なんだってできそう。
「露伴。あれやってみたいんだけど、やり方教えて。」
「フッ…、君、本当にかわいいな。いいぜ。行こう。」
突然「かわいい」なんて言われて、さすがにドキッとした。何よりそう言った露伴の顔が珍しく純粋な笑顔で、かわいかったからだ。不純物0パーセントの露伴は、やっぱり心臓に悪い。
「君ならこれくらいはいけるだろう。」
そう言ってどんどん重りを乗せていく露伴を見て、だんだん心配になってくる。だってさすがに、乗せすぎじゃない?
「ほら、ここに座って。…足は軽く開いて、腕をこうして、肘はここだ。そうだ。それでそのまま、腕を閉じればいい。」
露伴の指示のもと見よう見まねでやってみたが、見た目ほど重くはない。グ、と腕に力を入れると、ゆっくりではあるが背中の重りが持ち上がるのが分かった。…なるほど。これは、開く時の方が辛い。
「やっぱり君…馬鹿力だよなぁ。次あれもやってみてくれないか?」
「…自分のトレーニングに集中しなよ。」
「君が1時間走ってる間に色々やったさ。自分のメニューは終わらせた。あとは暇なんだよ。」
どうやら露伴は、あとの時間は私についてきて見学をするつもりらしい。考え事は終わったし、彼は邪魔はしないだろうけど、じっと見つめてくるので集中できないしやりづらくて仕方がない。
「…そんなに見てて、楽しい?」
「あぁ。君のどこにそんな力が、というか、筋肉があるのか気になって仕方がない。ちょっと腕を触ってみてもいいか?」
気になってうずうずしている露伴に「いいよ。」と返すとぱぁっと花が咲いたような笑顔で喜ぶので、やっぱりかわいいと思った。普段の露伴とのギャップがものすごくて、この一面をもう少し出していったらとにかくモテるんだろうな、とも。
「うわっ、硬っ!力を込めている時は、まるで石だな。緩んだ時は柔らかいのに…。君、本当にどういう体の構造してるんだ?ますます分からなくなった!」
分からない、と言いつつもとても楽しそうだ。いいだけやってこれはもういいかな、と席を立つと「次、あれをやってくれないか?」と露伴が子供のように別のマシンを指差すので、今日はもう、露伴に付き合ってあげようと考えを改めた。
その後露伴チョイスの色々なマシンでトレーニングをし、最後に2人で軽く走って、今日のトレーニングは終了にした。久しぶりに体を動かせて、とてもリフレッシュできた。ここはいいマシンが揃っているし、何よりシャワーが浴びられるのがいい。また今度、露伴と来よう。