第4部 杜王町を離れるまで 前編
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初流乃は頭がいい。それはもともとそうだったので分かっていた事だが、頭がいい故に知識欲がすごい。まるで小さな子供のように、あれは?これは?と疑問が湧いてきて知りたがる彼に分かるように説明している典明は、きっともっと頭がいいのだろう。才色兼備で本当に素敵!
私と典明、露伴のスタンドを見て「一言でスタンドと言っても、見た目も全然違うんですね。」と言う初流乃に、改めて見比べてみる。
ハイエロファントは相変わらずかっこいいし、ヘブンズ・ドアは小さくてかわいい。対して私のクイーンは女性的で、ドレスを着ているかのような出で立ち。スタンドには、きっと個性が出るのだろう。
「君のクイーンを近くで見たのは初めてだな。このデザインは漫画にしたら映えそうだ。スケッチしてもいいか?」
そう言いながらも露伴は既にスケッチブックと鉛筆を用意しているので「いいよ。」と承諾するとものすごい勢いで鉛筆を走らせ始めた。この際、露伴は放っておこう。
「ヘブンズ・ドア…かわいい。おいで。」
宙に浮くヘブンズ・ドアを、その小ささから思わず犬や猫のように扱ってしまって一瞬自分でも焦ったが、差し出した手を通り過ぎて私の腕の中に収まったのでペット扱いには怒ってはいないようでホッと胸を撫で下ろした。
「…ヘブンズ・ドアは、君に懐いてるみたいだな…。君、なにかしたのか?」
「?特になにも…。というか、ヘブンズ・ドアって露伴の意思で動かしてるんじゃ…。まさか、ヘブンズ・ドア自体に意思があるの?」
スケッチする手は止めずに露伴が気になる言葉を零した。懐いている、とはどういう事なのか。そこで思い出したのは、康一くんのスタンドであるエコーズだ。エコーズは、他のスタンドと違って康一くんと会話をしていたのを見た事がある。もしかして、露伴のヘブンズ・ドアもそういう種類のスタンドなのかもしれない。
「康一くんのスタンドのように意思の疎通はできないが…意思はあるみたいだぞ。動かそうとして動かしているわけじゃあない。…2人は違うのか?」
そう言ってチラリと視線を寄越した露伴への返答は、2人揃って無言の首振りだ。私も典明も、動かそうとしなければ動かせない。現に今はなんの指示も出していないので、クイーンはただ、佇んでいるだけだ。
「スタンドにも、個性以外にも色々な種類があるのね…。これは、もっとよく調べないと。」
SPW財団はスタンドの調査もしているので、これはきちんと報告し、調べなければならないだろう。尤も、承太郎は康一くんのスタンドについて既に報告をしているのだろうが。
「!ハイエロファント。」
お腹を上ってくる久しぶりのスルスル、という感触が擽ったくて、思わずその触手に触れる。典明はよく私にハイエロファントの触手を巻き付けるが、実は結構擽ったいのだ。彼もそれを分かっているはずだが、甘えたい時にやってくる事が多いので私もなにも言えず、全て受け入れている。
「ヘブンズ・ドアがあまりに懐いてるから。ハイエロファントもヤキモチを妬いたのかもな。」
「!…ハイエロファントは典明、でしょう?」
「ふ…。そうだね。」
昔、典明は「ハイエロファントは僕だ。」と言っていた。という事はつまり、ヤキモチを妬いているのも典明という事で。…なんてかわいいんだ、典明は…!
「すごい…。花京院さん、これも花京院さんが動かしてるんですか?この触手は、何本くらい出せるんですか?それに、どこまで伸ばせるんです?感覚はあるんですか?」
「はは!興味津々だな、初流乃。いいよ、教えてあげよう。」
再び質問モードに入った初流乃は、珍しく目を輝かせていてその姿は年相応に見える。なんというか、もともとそうだが見ていてとてもかわいらしく感じる。それは典明も一緒のようで、彼の初流乃に向けられる瞳は優しくて柔らかくて、見ているこっちが幸せな気持ちになる。
「はぁ…。典明がかわいい…。愛おしい…。好き…。」
「…君のそれは、もはや病気だな。」
「そうなの。不治の病。」
典明を見ているとドキドキするし、幸せな気持ちになるし、ついつい目で追ったりしてその姿を探してしまう。10年前からずっとそう。治す気はさらさらないが、治そうとしてもきっと治らない不治の病だ。
「…ヘブンズ・ドア、寝ちゃったんだけど。スタンドって寝るの?」
「いや…。寝てるわけじゃあなく、リラックスしているだけだろう。おい、ヘブンズ・ドア。そろそろ戻れ。…おい。」
私の腕の中で目を瞑って幸せそうにしているヘブンズ・ドアは、露伴の命令を聞こうとはせずに私の腕を掴むものだからあまりにかわいくてぎゅ、と抱きしめるとまた嬉しそうに笑った。スタンドが喜んだりするなんてなんだか不思議だが、とにかくかわいい。そのままヘブンズ・ドアが頬を擦り寄せるのを受け入れているとお腹に巻きついたハイエロファントの触手がその力を強めるので、ハイエロファント…典明もかわいい。なにこれ幸せ。
「えぇと、ですから、染めたわけではなくてですね。」
初流乃は明日から学校へいく。金髪になった事を事前に言っておかないと、生徒達はいいが先生達には良くない印象を与えてしまうと思い学校に電話をしたのだが…。これがなかなかに骨が折れる。学校の先生だから仕方ないのかもしれないが、頭が硬いのなんのって。信じられないかもしれないがこちらは事実を述べている。それを信じてもらえないのでは、完全にお手上げだ。
「こうなったら、典明に学校に行ってもらって黙らせるしかないか…。」
「君じゃなくて花京院さん…?力づくじゃあなく口で黙らせるって事か?」
教頭先生に替わるから待ってくれと言われ電話の保留音を聞きながら独り言を呟くと、露伴がその声を拾って反応をするので、じっと彼を見る。
「いや?典明の美貌で惑わせて納得させる。」
「…君、やっぱりバカだろ。」
「はぁ!?露伴、典明のあの美貌を舐めてるの!?あ、すみません……あの、こちらの話です。」
露伴に典明の人を惑わす美貌について話したいのだが電話は教頭先生と繋がってしまい叶わなくなってしまった。しかも同じ説明をするしかなく向こうの反応も同じ。さすがに段々、イライラしてきた。
「このままでは平行線なので、今度は違う角度からお話をしましょう。…初流乃は今、金髪です。どうしてそうなったのかは置いておいて、現状の話です。学校としては、この現状を踏まえてどのような対応をお望みですか?」
「それはもちろん、黒く戻してもらえれば。」
「へぇ…。黒く、ですか。それって、染めるって事ですよね?それも、きっと金髪が伸びてきたらまた染め直しするんですよね?そちらの主張では、染髪は禁止では?」
「いやぁ…それは黒髪から金髪にする場合で。」
「そうですか。金髪から黒髪にするのは構わないと。なぜですか?黒から金は許されなくて、金から黒は許される理由を知りたいです。」
「それは、我が校の風紀がですね…。」
「風紀?金髪がいたら風紀が乱れるんですか?金髪のアメリカ人の子は、風紀が乱れるからと入学すらできないって事ですか?」
「いえ…決してそういった事は…。」
「じゃあ、問題ありませんよね?初流乃の父は、金髪のイギリス人なんです。イギリス人だって事は、事前に説明しましたよね?訳あって初流乃の父は亡くなってますが"我々"SPW財団にDNA等の情報があります。必要であれば、SPW財団の方から親子関係を示す検査の結果を送らせますが?」
「……いえ…、必要ありません…。そうですね…、そのまま登校して頂いて、結構です…。」
「本当ですか!ありがとうございます。初流乃も喜びます。念のため明日父親の写真を持たせますので、ご確認をお願いします。それでは、失礼します。」
必殺、マシンガントーク。言いくるめるようで申し訳なくて、普段はあまり使わないが、わからず屋となると話は別だ。現にさっきまで強気に主張していた学校側も、最終的には認めてくれた。SPW財団の名前を出したのは少しばかり卑怯かもしれないが、なにも嘘を言っている訳ではないし、そもそも私がSPW財団員である事は向こうも知っているはずだ。終わり良ければすべて良し。
ふぅ、と一息吐いて顔を上げると露伴がなにか言いたげにしていたので「なに?」と聞くと「君と口喧嘩するのは面倒だなと思って。」ととても嫌そうな顔で言われた。私だって、露伴みたいな奴と口喧嘩なんてしたくないわ。