第4部 杜王町を離れるまで 前編
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「2人とも、本当にありがとう。あとは私達がなんとかするよ。また今度遊びにきて。あと、お礼もさせてね。」
仗助と億泰を帰して、岸辺邸には露伴と私と、典明と初流乃だけになった。いつもの日常だ。しかし、話さなくてはならない、大事な話がある。
「初流乃。約束してた、お話しよう。」
その言葉だけで、初流乃は何の話かすぐに理解したようで「はい。」と短く返事を返した。空条邸で約束した話、そして、自分に関係のある話だと勘づいているようで、笑顔の奥に覚悟が見える。
「露伴と典明は、リビングで待ってて。私がちゃんと、話すから。」
「なまえ…。…無理はするんじゃあないぞ。」
典明と軽いキスを交わして、廊下で別れた。典明も露伴も、少しばかり心配そうな顔をしていたが、きっと大丈夫だ。初流乃は私が連れてきた子。私がきちんと、責任を持たなければ。
「さて、初流乃。私、長々と話すの好きじゃないの。早速、本題を話してもいい?」
初流乃の部屋の椅子に腰掛けて開口一番そう尋ねると、「僕もです。お話、始めてください。」と返ってきたのでベッドに座るように促した。
「まず初流乃は、父親の事、どんな風に聞いてる?」
軽く探りを入れようとそう問うと「父親、ですか?」と初流乃は首を傾げ、ややあって「子供を作るだけ作って放置するクズ野郎だと。」と辛辣な言葉が出てきたのでこっちが狼狽えてしまった。
「うん…あながち間違いではないね…。合ってる…けど…!」
未成年の我が子に、なんて事を教えるんだ、あの女は…!
「なまえさん。僕に気を遣わなくていいですよ。父親も母親も、僕にとっては大事でもなんでもない。ありのままを話してください。」
気遣っているようで残酷な言葉を吐く初流乃に胸が痛んだ。死んだ父親の事も、どこかで生きている母親の事も、1ミリも愛していないのだ、初流乃は。
「初流乃…。私は、あなたの事を自分の子だと思ってる。あなたの事を、誰よりも愛している自信がある。」
「!なまえさん…。…ッありがとうございます。」
嬉しさ、寂しさ、愛しさ、孤独。それら色々が混じりあって、初流乃は肩を震わせた。ハンカチを渡すと「ありがとうございます…。」とそれを受け取り、静かに涙を拭った。
「…初流乃のお母さんの事は、私はよく知らないの。だけど、父親の事は知ってる…。よく、知ってる…。」
目を閉じるとDIOの姿が浮かんできて、それを消し去るように頭を振って、初流乃を見る。母親に似て、綺麗な顔だ。
「初流乃の父親の名前は、DIO。100年前に、吸血鬼になった男。…正確には、110年前に。」
「…吸血鬼、ですか…。…本当に、いるんですか?」
「今は、分からない。だけど、確かにいたの。10年前に。…あ、初流乃は吸血鬼になってないから、安心して!」
重苦しくなりそうな空気に明るい声を出してみたが、初流乃は吸血鬼という事を受け入れようと考え込んでいる様子で、口元に手を当てて静かに宙を見ている。
「110年前に死んだと思っていたDIOが10年前に目覚めちゃって。そのDIOの目覚めによって、承太郎達の一族は、スタンド能力に目覚めたの。」
「スタンド、能力…。さっきの、仗助さんのやつですか?」
スタンドという言葉に反応して、初流乃が顔を上げる。さっき目の当たりにしたあれは、やはり気になるだろう。
「そう。私にもあるんだけど…見えるかな?」
久しぶりにクイーンを出してみせると、初流乃の視線は確かにその姿を捉えている。そして「…綺麗ですね。なまえさんみたいだ。」と表情を和らげた。
「それで、スタンド能力は、使い手の精神エネルギーでできてるらしいの。使い手によって能力は様々で、私の能力は"掴む"能力。…典明が死んでもなおここにいるのは…私が、彼の魂を掴んで離さなかったからなの。」
思わず手に力が入り、ぎゅ、と握り込む。典明の最期を思い出すと、やっぱり胸が締め付けられる。
「仗助のスタンドは、壊れた物を直したり、怪我を治したりできるの。私も、そんな能力が良かったなぁ。」
仗助のスタンドならば、きっと、典明を死なせずに済んだのに、と何度思った事だろう。チクリと痛んだ手のひらを見ると血が出ていたが、気づかないフリをして言葉を続けた。
「DIOは、正直に言うと、悪い奴だった。とても。…私の家族を奪ったの。DIOは。」
「っ!?そんな…なぜ。」
「分からない。…分からなくていい。あんな奴の思考なんて、きっと分からない方が。」
「そう、ですけど…!」
初流乃は優しい。私の家族の話を聞いて、まるで自分の事のように怒ってくれている。本当に、DIOとは全く違う。DIOに似ていなくて、本当に良かった。
「もしかして…花京院さんも、僕の父が…?」
「そう…そうね。奴は、私と結婚しようとしつこかったから、典明が邪魔だったのよ。…ただ、それだけ。それだけで、典明は殺されて…。」
声が僅かに震えて、気がついたら涙が一筋頬を伝って落ちた。先程とは逆に、初流乃に差し出されたハンカチで涙を拭いて、いくらか気持ちは落ち着いた。
「…今思い返してみても、本当に最低な奴だった。初流乃が奴にか、髪色以外ひとつも似てなくて、本当に良かった!」
「…はは。そうですね…似てなくて良かった。」
しんみりした空気を消し去るように笑顔を浮かべると、初流乃にも僅かだが笑顔が戻ってきて、手が自然とヨシヨシと頭を撫でていた。本当に、かわいい。
「それでね、DIOは110年前に、死んだはずだったのよ。承太郎のおじいちゃんのおじいちゃん、ジョナサン・ジョースターが、倒したはずだったの。」
ここからは、私が体験した話ではなく以前ジョセフさんから聞いた話だ。
「ジョナサンとの戦いで首だけになったDIOは、ジョナサンの体に自分の首をくっつけて、100年もの間眠っていたみたいでね。…初流乃は、DIOの子供でもあるけど、ジョナサンの子供でもあるの。」
「えぇと、ややこしいですね。」
「その、ジョナサンの血を引く人達の事を、ジョースター一族、と呼ぶんだけど、ジョースター一族はみんな、首の後ろに、星型のアザがあるの。承太郎にも、仗助にもある。それが初流乃、あなたにもあるのよ。」
ものすごい情報量に、とうとう初流乃は口を閉ざした。初流乃が「ややこしい」と言ったが本当にその通りで、この話を聞いた時は理解できなくてジョセフさんに何度も質問をしたのだ。
「そして、ジョースター一族は、10年前からみんな、スタンド能力を開花させてる。初流乃。あなたもきっと、スタンド能力が現れる。」
「僕が…スタンドを…。」
話すべき事は全て話した。かなり端折ったり、駆け足ではあったが。最低限、知っておくべき事は伝えたはずだ。
「大丈夫よ、初流乃。スタンドの使い方は、きっと典明が上手に教えてくれるから!」
「花京院さんもスタンド使いなんですか?ジョースター一族?なんですか?」
「や、典明は生まれながらのスタンド使い。特別な子なの。」
「じゃあ、なまえさんもですか?」
「えぇと、私はDIOにもらった矢で…。」
「矢?」
ところどころ端折りすぎたせいで不十分だったようだ。次々と疑問が湧き出てくる初流乃の質問に答えられない。こんな時は。
「典明〜!典明〜〜!」
「なまえ。どうかしたのか?」
こんな時は、典明を呼ぶのが一番早い!