第4部 杜王町を離れるまで 前編
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バン!
着地した地点に仗助を残したまま、勢いよく玄関のドアを開け放って中へと駆け込む。「なまえさん!」とリビングから出てきた露伴を追い越し部屋に入ると、電話で聞いた通り、金髪になった初流乃の姿が目に入ってきた。不安そうな初流乃を億泰が落ち着かせようと声をかけているが…私はその光景を見ながら、頭痛、そして目眩を感じた。あの男のような反吐が出る顔つきはしていないが、金髪になっただけで、やはりDIOの面影が顔を覗かせている。
「初流乃。髪の色が変わった以外に、異変はないかい?」
初流乃が座るソファの前にしゃがみ、典明が優しく声をかける。その優しい微笑みを見て、初流乃は僅かに笑顔を見せ「はい。いつもと変わりありません。」としっかりと受け答えをしている。
「仗助…これ、直せる…?」
「おぉ…これは、どうっスかね…?」
直せるなら直したい。一度試してほしくて仗助にお願いすると、彼は快くクレイジーダイヤモンドを出してくれた。
「!?」
「、初流乃…。まさか、スタンドが…!」
なんて事だ…。できれば初流乃は、スタンドとは無縁でいてほしかった。スタンド使いはスタンド使いと惹かれ合う。もちろん全てが全て悪い意味ではないが、穏やかに暮らすには邪魔でしかないだろう。
「ちょっとごめんね、初流乃。」
一言許可を得て首の後ろを確認すると、今まで気にしていなかったが星型のアザが色濃く出ている。そのアザを見た露伴は「前に見た時は、こんなに濃くはなかった気がするが。」と顎に指を当てている。これは、良くない。非常に良くない。ちなみに…と仗助の学ランを掴んで彼の首も確認するとやっぱりというか当然というか、しっかりと星型のアザがある。初流乃のものと同じくらいの濃さのそれは、初流乃がスタンド能力に目覚めた、もしくはこれから目覚める可能性を示唆しているようで目眩が酷くなった。
「…無理っスね…。なんにも変わんねーっス。」
クレイジーダイヤモンドの努力も虚しく、初流乃の髪色は戻らない。
「初流乃、大丈夫だ。ただ、突然髪の毛の色が変わっただけ。なにも怖い事はない。」
初流乃を落ち着かせようと典明が語りかけているのを聞いて、しっかりしなくては、と自分を奮い立たせた。
「露伴。」と彼を部屋の外に連れ出し、こうなった経緯を聞くと、庭で布団を干している最中、振り返ったらこうなっていたという事だった。なるほど、一瞬で変わったという事か…。玄関横の窓から空を見ると、よく晴れている雲ひとつない青空が目に入った。
「…初流乃の父親は、吸血鬼、だったの。」
「は…?吸血…、なんだって!?」
「露伴、私の記憶で読んだでしょう?DIOの子なの、初流乃は。」
とりあえず、初流乃は吸血鬼になってはなさそうで安心した。そこは、いいのだが…。
プルルルル
タイミング良く鳴り出した携帯電話に表示されているのは「SPW財団 日本支部」の文字。タイミングがタイミングなだけに、嫌な予感しかしない。
「みょうじさん。汐華初流乃さんの、昨日の検査の数値なのですが…。」
通話ボタンを押して聞こえてきたのは険しい様子の声で、あぁやっぱり…と思った。昨日の今日で、数値に異常がないわけがない。
「実は…今さっき、こちらでも問題が…。…それが、初流乃の髪の毛が、目を離した隙に金髪に変わりまして。本人も混乱してますので、落ち着くまでは様子を見ますが……、どうやら、スタンドが見えるようです…。」
「…なるほど。ちなみに、空条さんには…。」
言いづらそうに承太郎の名前を出す財団員に、思わず沈黙する。承太郎に報告、相談をしなくていいのかという事だろう。
「……とりあえず、今はまだ…。…承太郎への連絡のタイミングは、こちらに任せてもらえないでしょうか…?」
無理なお願いをしている自覚はある。しかし、まだ髪色が変わっただけ。スタンドが見えるだけ。スタンドが暴走している、というのならすぐにでも連絡しなくてはいけないが、今はまだ大丈夫だろう、と判断しての事だ。
「…分かりました。何かあれば、すぐに知らせてください。」
了承の意を唱える財団員に謝罪と感謝の言葉を伝え電話を切り、私はその場に蹲った。できる事なら、初流乃にはこのまま何もなく、平和に、平穏に、過ごしてほしかった。でも、こうなってしまっては、無理だ。きっと。
「なまえさん…、少し休…〜〜ッ!」
「痛ッ。」
気持ちを切り替えて勢いよく立ち上がると、露伴と頭がぶつかったらしく、今度は露伴が蹲る。ゴッ!と鈍い音がしていたが大丈夫だろうか。おでこを抑えているあたり、私を心配して体を屈めて覗き込もうとしていたのだろう。
「君ッ…!急に立ち上がる奴があるか!僕の頭、陥没してないか!?」
「ご、ごめん露伴。えぇと、あの、ごめん。」
「君が、元気になったなら…、いや!良くないな!やっぱり痛いぞ!」
1人で百面相をしている露伴の姿を見ていたら面白くて、最初は普通に心配していたはずが、段々と自分の口元が歪んでいくのが分かる。
「おい!笑ってるじゃあないか!」と指摘され「うぅ…ごめ…!」と再度謝罪の言葉を言おうとした自分の声が震えていて、もう諦めて笑うしかなかった。
「はぁ……。…そうだ。君はそうやって、笑っていればいい…。」
「っ、ふふ…、うん。」
笑っていれば、不安も吹き飛ぶだろうか。いや、不安そうな顔をしているよりは、ずっといいだろう。初流乃にも、笑顔を見せなければ。
「仗助〜!露伴の頭が…なんかやばい!」
「おい、もっとマシな言い方はなかったのか?」
露伴の傷を治してもらおうと部屋に戻ると、なんだか未だ重苦しい空気が漂っていて温度差があった。なんか気まずい。
「…なんかなまえさん、楽しそうっスね…。ゲッ!露伴、めちゃめちゃ腫れてっけど…まさかなまえさんがやったんスか?」
露伴が患部から手を退けると、そこは赤く腫れ上がっていて、見るからに痛そう。私って、そんなに石頭なの…?
「しゃがんで立ち上がったら、露伴の頭があって…。億泰。私の頭も、そうなってる?」
「…いンや、なってねェな。」
「ふはっ…!」
頭を億泰に見てもらおうと彼に見せたが、ぺたぺたと触れられても痛みはない。ぶつけた時に、一瞬痛かっただけだ。その光景を見て、典明が吹きだした。口元を抑えているが、笑っているのは明確。
「部屋の外が騒がしいなと思っていたが、まさかそんな事になっていたなんてな。ふ…、っはは!」
「典明笑いすぎ!好き!」
「…はは…、いつものなまえさんだ。」
さっきまで不安そうな表情を浮かべていた初流乃が、ついに笑顔を見せた。髪は金色になってしまったが、その笑顔はいつもの初流乃となんら変わりない。そう、初流乃は初流乃なのだ。
「不安だったね、初流乃。…怖かったね。」
抱きしめてヨシヨシと頭を撫でると、ぎゅ、と背中に腕を回して抱き締め返してくれて、温もりに包まれた。初流乃も、同じ感覚だといいな。